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あべこべ世界も大変です  作者: 川木
恋人編
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夏が始まる

 高校生になって、三か月が経過した。もう初夏、どころかかなり暑い。七月ってこんな暑かったっけ? って毎年思ってる気がする。


 クラスにももう馴染んだ、どころかほぼ全員が友達と言ってもいい。みんなの名前は当然覚えたし、半分くらい下の名前で呼んでるし、そうじゃなくても挨拶とか普通にする仲になっている。

 部活の人も、みんな名前覚えたし、先輩もみんなよくしてくれる。一年しか違わないはずなのに、人間ができているって言うか、僕は今、一年前の僕から見て、ちゃんとして見えるのか、不安になるくらいだ。


 まぁそんなことはともかく、とても順調な高校生活だ。順調すぎて恐いくらいだ。勉強以外は。

 そろそろ期末テストだ。中間テストでは、半分は取れている程度だった。やばい。舐めてた。結構勉強できる方だと思っていたけど、それって考えたら家にずっと居て、暇な時間多すぎて自主的に勉強をよくしていたからだった。

 高校に入学してから、休みの日はほぼ毎日遊ぶし、平日も遊んだり夜も誰かと連絡したりして、全然勉強しなかった。中間テストの範囲が分かってから、勉強しなきゃとか言いながら、全然してないよーとかって周りの言葉に流されて、こんなざまだ。

 まあそれを言った人はマジで僕より下だったから、苦情は言えないけど。でもやばいなって、さすがに焦っている。


 てなわけで、通知表をよくするため、期末は中間の分まで頑張るつもりだ。範囲も広いし。始めて見れば、勉強自体苦ではない。そうじゃなきゃ、暇だからって勉強しない。ただ、今はそれより楽しいことが多いし、ついついこの会話にひと段落ついてから、と思ってずっとおしゃべりしたりしてしまってた。反省。


「と言う訳で、何とかしたいんだけど、いい案ない?」

「じゃあ、しばらく携帯電話を封印しようか」

「えー」

「えーって言われても。それしかないし、わかってて聞いてるでしょ?」


 まぁ、かなちゃんの言う通りだ。本当は携帯を自重しないとってわかってましたよ? わかってるけど、明日からでいいかなって思って、つい先延ばしにしてしまうので、ここはかなちゃんに背中を押してもらおうと思った。思ったけど、かなちゃんに言われると、えーってつい反抗してしまった。これはかなちゃんの人徳的なものが少ないせいだ。


「にしても、封印って、大げさじゃない?」

「そ、そう? 格好いいし、他に言い方なくない?」

「んー……使用禁止とか?」

「封印の方が短いし簡単だから。はい、論破」

「ぐぬぬ」


 しょーもないことなのに、どや顔されて無性に悔しい。論破、じゃないよ。なにも破いてないから。


「そんな言い方して、勉強会してあげないからね」

「え、そんな予定だったの? みんなで勉強会とか、そういうの、言っちゃあれだけど、非効率だと思うよ。人が多いと、それだけ気がそぞろになるし、せっかく集まったんだしって、話したりしたくなると思う」

「みんなじゃなくて、二人だから大丈夫じゃない?」


 かなちゃんとは以前はいびつな関係とは言えずっと一緒だったし、春からもずっと一緒でしょっちゅう話とかしてるんだから、今更会って話して勉強するって言っても、特に目新しい感じはしない。だから特別感もないし、せっかく集まったとか思わないし、話したくもならないでしょ。

 かなちゃんは僕よりちょっと成績悪かったはずだし、教えてあげて一緒に頑張る予定だ。


「え、そ、そうなの?」

「うん」

「うーん、まぁ、いいんだけど。と言うか、中学の時毎回してたし、そんな勉強会とか言う?」

「え? 何言ってるの? 別にしてないでしょ?」

「え? ……あー、でもそうか、確かに、勉強教え合ったりとか、そういう勉強会っぽいことはしてないか」

「んん?」


 言われて、こっちの記憶を改めて思い出してみる。試験の前も、まぁ、かなちゃんはいたね。……あ、僕が勉強してる部屋にいるかなちゃんも勉強してる! ……うん。勉強会ではない。かなちゃんの中で勉強会していたことになっていたことに、ビックリするし、なんか悲しくなるからやめて。


「かなちゃん、ちゃんと勉強会しようね。僕が教えてあげるから」

「嬉しいけど、この間の中間テストは私の方がよかったんだけど」

「不思議だよね」

「いや不思議じゃないよ。私、中学の頃からこのくらいだし、実力だよ」


 実力と胸をはるには、ずっと60から70くらいって言う微妙な点なんだけど。ん? 待てよ?

 この頃の勉強に気が入らない生活で、僕の成績は落ちたわけだけど、今のこの生活でもかなちゃんの成績はキープされている……? あれ!? おかしい。少なくとも外出時は一緒なのに!

 ……そう言えば、小学校の時は、普通に満点しかとってなかったような? そりゃ、小学校だし僕も満点とりまくってたけど? でもたまに90とかもとるじゃん。科目にもよるじゃん? なのに全部100? ……え、もしかして、かなちゃんの地頭は、僕よりいい?


「え、ごめん。そんな本気で怒った? 睨んでるけど」

「うーむ」


 悔しい。正直悔しい。中学の時の結果から、自分より下だと信じていた相手が実は自分より上だったとか、接待されていたような気持ちだ。でもそういう訳じゃないし、むしろ僕のために成績落としていたのかと、申し訳ない気持ちもあるわけで。


「かなちゃん。今まで、本当にごめんね」

「ええ!? ど、どうしたの急に?」

「うん……とりあえず、じゃあ、勉強おしえてもらえる?」


 あんまり詳しく言うと、また前と同じで、いやいや自分が悪いとかのやり取りになるから、反省して今後にいかそうと、ぼかして話をすすめたのに、かなちゃんは驚きに目を見開く。


「ええぇ、す、素直……なに? 体調がわるいの? 大丈夫だよ? 一緒に病院行こう?」


 そして僕の心配をしだした。

 どういうこと? 僕はいつも、そんな酷い人にかなちゃんに思われてたの? ……あれ、否定できない。そもそもかなちゃんがすごく優しいから、友達関係みたいにかつ友好的な保護者までしてくれてるけど、僕、かなちゃんに理不尽なこととかしてきたわけだし。

 かなちゃんが原因で、かなちゃんも納得しているとは言え、今僕のことどう思ってるんだろう? 単に手のかかる昔なじみで、情があるから相手してあげてる感じ? それともちゃんと、僕のこと。


「……か、かなちゃん」

「ん? なに?」


 かなちゃんは、とても優しい顔をしている。僕を嫌いとは、思わない。でも。


「……な、なんでもないよ。僕、絶好調だし。だから勉強しよう」


 って、僕は何を聞こうとしてるんだ。僕のことどう思ってるの? って、そんな自意識過剰な感じの、聞けるわけないし。だいたい、気をつかわれるに決まってる!


「そんな、絶好調とか普段言わないし、無理しない方がいいよ。たくちゃんの体調の方が大事だよ」

「本当に大丈夫だから。と言うか、真面目に言ってるなら、結構僕のこと馬鹿にしてるよね?」

「そんなことはないけど。まぁ、大丈夫ならいいけど。本当に今日も勉強するの?」

「もちろん。帰ってすぐするよ!」


 気持ちを切り替えよう。仮に今、しょうもない人間だと思われていたとしても、これから挽回すればいいんだ! ポジティブシンキングだ!


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