お花見 遊ぼう
「おにいちゃん、おねえちゃんとおんなじお弁当なの?」
「でかすぎじゃない?」
「あ、みんなにも分けれるようにと思って、今日朝つくってきたんだ。よかったら食べてほしいな」
「えー、いいの? じゃあ僕、唐揚げ欲しい!」
「僕もー」
みんなで食べた。他の女の子たちも遠慮していたので、みんなにも食べて、と言ったら、園長先生が率先しておにぎり食べてくれて、他のみんなも食べだしてくれた。さすが園長先生。
「おいしーね。あ、そうだ。僕のお弁当もわけてあげる!」
「あ、僕もいいよ! あのねー、僕の、すごいんだ。卵焼きが、すーっごい美味しいんだよ!」
美味しくご飯を食べて、後半になって明らかにお弁当が余ることが想定できたので、かなちゃんにお願いして配ってきてもらう。僕が行ってなんか変に、でしゃばってるみたいに思われても嫌だし。かなちゃんなら、僕が言い出したからって言い訳できるしね。
「ただいま」
「おかえりー、はけた?」
「うん。みんな喜んでくれたよ。子供はちゃんとお弁当だけど、適当なパンとかの人もいて、喜んでもらえたよ」
「そうなんだ」
ならよかった。正直、つくったはいいけど、いざ食べだしてから、これ他の人に配るのハードル高くない? ってだんだん不安になってたんだよね。よかった。
「酒井君は、まめまめしいねえ。私と結婚して、毎日唐揚げをあげてほしいねぇ」
「太りますよ」
部長がまた馬鹿なことを言ってきたので、軽くつっこんでおく。どんだけ唐揚げ好きでも嫌でしょ、毎日は。作る方も嫌だし。
ご飯を一緒に食べていると、女の子も少し慣れてきてくれて、お話ししたりできたし、海人君と聡志君も他の女の子とお話ししていて、ばっちりだなと今日の大成功に早くも笑みを隠せない。
ご飯を食べて少し休憩をしたら、園長先生の指示でお片づけをして、それからしばらくは普通に自由に遊ぼう、と言うものだった。
班にこだわっていたら、その人としか仲良くなれないから、もっと積極的にみんなと仲良くなろうね、と言うことだ。でもよく考えたらせっかく友達ができたのに、引き離すかのような提案だ。大人って残酷だなぁ。
「海人君、何して遊ぶ?」
「うーん、でもさっき、園長先生が、他の班のみんなとも遊びなさいって言ってたもんねぇ」
「鬼ごっこなら、いっぱいの人数で遊べるんじゃないかな?」
「お兄ちゃん、安直。でもいいや、それで」
「うん、僕もそれでいいよ。でもさ、他の班の人とか、どうやって声かけたらいいかな? 僕、他の班の女の子、全然知らない人ばっかりなんだ」
「う。僕もそうだけど……お、お兄ちゃん、知り合いいないの?」
「いるよ、じゃあ、どこでもいい?」
「いいよ、任せた!」
任されたので、歩ちゃんと市子ちゃんのいる班に……は! これ、僕自身も他の人と仲良くなるチャンスなのに、自ら潰している! ここは他の部活の人と……え、先輩だけだとハードル高いし、そうなると委員長と先輩で組んでるとこ? あぁ……そ、それしかないか。
いやー、わかってるんだよ? わかってるけど、苦手。怒られた記憶が体に染みついてるんだもん。さっき二人にも言ったけど、そう簡単にはかえられないし、しょうがない。
「市子ちゃーん、歩ちゃーん」
と言う訳で、二人のところへ行った。勇気を出すのはまた今度で。それに2人のとこも、先輩は一人いるし!
「ん? どうしました? 卓也君?」
「僕らの班と一緒に鬼ごっこしない?」
あ、てか僕らの班って言ったけど、男子2人の意見だった。ちらっと振り返ってみるけど、でもばらけてないし、まぁいいか。
かなちゃんと同じ立場の子二人いるわけだし、自然と一緒になるでしょ。
僕の提案はスムーズに受け入れられて合流した。そこで改めて自己紹介しあってから、鬼ごっこを開始する。
大人8人子供11人の19人での鬼ごっこだ。これは大変だ。大人が鬼になったからって、本気で追い回すのはまずいと言うことで、ルールは鬼が5人で、タッチされたら決められた木に触れた状態でつかまるので、鬼になっていない人がタッチしたら復活できる仕組みだ。ただし木の周りに鬼が何人見張ってもいいので、解放は難しそうだ。
で、つかまりました。
「こんなはずでは……」
おかしい。まさか開始1分も立たずにつかまるなんて。と言うか、木に登って上から落ちてくるとか反則じゃない? そんなの思わずキャッチしに行っちゃうよ。自らつかまりに行く方式だ。
その子を園長先生に怒ってもらったのはいいけど、僕が捕まったのはなしにはならなかった。
「あれ? もうつかまっちゃったの?」
「あ、先輩は見張りですか」
子供だけに鬼をやらせるのもさすがに、と言うことで普通に大人組も鬼をしていて、市子ちゃんとボランティア部の先輩で、二年の新庄先輩が鬼だ。
どうやら新庄先輩は見張りをふられたらしく、つかまったから木に触れておくよう言われて行くと、先輩はぶらぶらしていた。
「そうだよ。長く走り回るのは得意じゃないしね。ていうか、さすがに早すぎじゃない?」
「それは、だって、木の上から飛び降りてくるんですもん」
前回会ったとはいえ、親しいわけじゃないのでちょっと緊張するけど、気さくな感じで話しかけてきてくれたので、ちょっとほっとする。
「それは確かに、びっくりするけど。ふふ、酒井君って、可愛いよね」
「え、な、なんですか、急に」
「ごめんごめん、急に思ったから。さっきも、お弁当、みんなの分もつくってくれて、ありがとう。もらったけど、美味しかったよ」
「あ、ありがとうございます」
「うん。家庭的なんだね、素敵だね」
「あ、ありがとうございます」
う、なんか、めっちゃ優しい顔で普通に言われて、どう反応していいのかわからない。馬鹿みたいにお礼を繰り返す僕に、新庄先輩はくすっと笑う。
「そう言う反応、ますます可愛い」
「か、からかうのはやめてくださいよ」
新庄先輩は今度はにやっと、からかうような顔になって、思わずそらした僕の顔を覗き込むように近づいてくる。
う、この人距離近くない? なんか、なんとなく雰囲気は馴れ馴れしい感じでもないけど、でもなんか友達ではないのに、友達みたいな距離感じゃない? いや、やっぱこれ馴れ馴れしいのかな。
「ふふ、ごめんね。でも本気で、タイプだから、つい」
「えっ」
「冗談じゃないよ、友達になりたいな」
「あ、は、はい」
タイプ、と言われて思わずドキッとしてしまった。だってそんな風に言われたら、新庄先輩って結構美人系だし、そうなるよ。
でも友達、と言われて今度は違う意味でドキドキしてくる。友達になりたいって言われた! そっちだったか。でも、それはそれで嬉しい!
えっと、でも先輩と後輩だし、友達って言うのも変な感じがする気がする。けど、じゃあ同い年しか友達になれないって言うのもまたおかしな話だ。だから別に、友達にもなれる、よね?
先輩が僕のどこを気に入ったのかはわからないけど、好かれて悪い気はしない。
「はいって言ったね? じゃあ、今度連絡してもいい?」
「は、はい。大丈夫です」
「ほんと? えっと、私が先輩だからって無理してない? そう言うのは好みじゃないから、嫌なら言ってくれていいんだよ?」
「あ、えっと、大丈夫です。僕、友達、たくさんほしいので、その、嬉しいです」
「え、あっと、そうなんだ。へへ……酒井君、やっぱり可愛いね。うん、友達になろう」
「はい!」
早速つかまって、ツイてないと思ってたけど、むしろラッキーかも!
ボランティア部の人とも仲良くなりたいけど、どうしても一気にたくさんの人と会ったから、どうしようかと思っていた。でも一人と話せて、仲良くなれそうだし、よかった。幸先いいぞ。
この後、かなちゃんが助けに来てくれたけど、つかまったり、そのあと海人君が助けに来てくれて助かって、でもまたつかまったりして、鬼ごっこは終わった。
そしたらまた集まって点呼をとって、お花見は終わった。児童館まで戻って、解散して、職員さんとも話してみんなの様子とか報告したりして、ボランティアは終わった。今日はこれで終わりだけど、またねって海人君と聡志君にも言ってもらったし、また来たいなと思った。




