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あべこべ世界も大変です  作者: 川木
友達編
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カラオケ 加南子視点

 カラオケに行くことになった。何故たくちゃんはそうも乗り気なのか? 確かに行ったことはないけど。ホントは前から興味があったのかな?

 私もカラオケは、昔家族で行ったくらいで、成長してから友達と行ったりはしていないから、行くとなったら楽しみだけどね。


 たくちゃんは見るからにそわそわしていて、初めてです感満載だった。みんな微笑ましそうにしている。委員長は春休みに会った時はまたたくちゃんが機嫌損ねたり、たくちゃんをビビらせたら嫌だと思って邪険にしたけど、最近はいい感じだ。

 いやまぁ、個人的には嬉しくないけどね。前はほんとに堅物で突っかかってきていたと思ったんだけど、もしかして前からたくちゃんのこと好きで来てたんじゃないかと邪推したくなるくらいには、積極的で友好的だった。


 たくちゃんの友好関係や、やりたいことを邪魔する気はない。むしろ全部サポートしてあげたいと思っている。だから正直他の女の子と仲良くなると嫉妬する気持ちが出そうになるのは我慢している。

 だから、素直に喜ぼう。たくちゃんを優しく見守ってくれる友達が増えてよかった、って。


 たくちゃんは何やら、コーラが喉に悪いとかどや顔している。可愛いけど、もしかしてカラオケに行きたくて調べていた?


 うーん、私もそんな歌がうまくない自覚あるから、積極的に行きたいって思わないし誘わなかったけど、これからは行く機会増えるのかな。

 と考えていると、何やらさっきよりそわそわしだしたたくちゃんは、急ぎ足になって歩ちゃんの前まで出ると、勢いよくカラオケルームの個室のドアを開けた。


「えっ」

「間違えましたすみません!」


 間違えてた。

 勢いよくドアを閉めて、ドアノブを掴んだまま耳まで真っ赤になっているたくちゃんは可愛いけど、やる気がから回ってしまっている。どうしたんだろう。いったい。

 しょんぼりしたたくちゃんは、歩ちゃんに促されるまま、隣の私たちの部屋に入って、みんなも順に入ると、たくちゃんは入り口近くのソファに座っていた。

 向かい側のソファに三人が座っているけど、たくちゃんが手前に座っているから、誰も奥に座れないんだ。みんな、そこまでたくちゃんに気を使わなくてもいいんだよ? 何か申し訳ない。


 とりあえず、たくちゃんの肩を押して奥へ詰めさせながら隣に座り、元気をだすよう耳打ちする。たくちゃんは最低限の恥ずかしさは脱したようで、力なくも頷いた。

 気を取り直して順番に歌いだす。みんな結構うまくて、これでたくちゃんまで上手かったら、私だけ下手だと恥ずかしいなと思っていると、たくちゃんはリモコンで曲を予約するはずがなんだか固まっている。そのドラマの曲にしないのかな?


「どうしたの?」

「かなちゃん……ちょっと耳かして」

「え? う、うん」


 み、耳? と思わずドキッとしてしまったけど、歌を歌っているんだから、邪魔しないように会話の為だし、わかる。わかるわかる。だから変じゃない。

 と動揺を隠しつつたくちゃんに耳を寄せる。たくちゃんは小さく鼻歌をうたう。さっき自分で耳打ちした時は何とも思わなかったけど、たくちゃんの声が耳元するのは何だかぞわぞわする。


「ってやつ、なんの歌だったか覚えてる?」

「あ、あー……タイトルは覚えてないけど、確か四年生の時のだよ。年代で検索できるらしいよ」

「へぇ! へー」


 何とか曲を頭の中で指定するけど、私もタイトルまでは出てこないけど、検索方法位は前のことを覚えているから大丈夫だ。なんとかたくちゃんも曲を予約できた。

 

「懐かしいのを選んだね」

「うん。でもこれなら歌えるよ。かなちゃんは何にする?」

「そうだなぁ……ね、よかったら一緒に歌わない?」

「え? いいけど、これの次にね」


 たくちゃんとの距離に、今更だけどドキドキしてきてそう提案したんだけど、あっさり流されてしまった。次、ホントにしてくれる?


 委員長が歌い終わり、たくちゃんはマイクを受け取った。緊張しているのが丸わかりだ。こっちまで緊張しそうだ。

 曲が始まったのに、視線めっちゃ泳がせてる。だ、大丈夫? ちゃんと曲聞こえてる? 声出る?


「あっ……」


 まさに不安的中、と言えるのか、一番最初の音を出したはいいものの、震えたか細い声で、たったの一音で途切れてしまった。まるで迷子の子供のような不安さに満ちた声で、声をかけたくなるけど我慢する。歌おうって言うのに、邪魔しちゃだめだ。頑張れ、たくちゃん。大丈夫、歌うだけだ。

 思わず手に力をいれて応援していると、意を決したたくちゃんがもう一度口を開く。


「きょ、今日も、明日も」


 歌いだした、はいいものの、声ちっちゃ! 可愛いけど、緊張のし過ぎで声もちょいちょい裏返っているし、そんで自覚してるのか、めっちゃ恥ずかしそうだ。

 ああ、もう、もう我慢できない! 私はぐっとたくちゃんの左手を握って、思い切ってマイクもなしに地声で乱入して歌いだす。


 驚いたたくちゃんだけど、構わず歌うと、ほっとしたように笑ってから、改めて歌いだした。

 その声はさっきよりずっと安定して、柔らかい可愛い声で、音程も外れてない。ああ、よかった。歌えてよかったね、たくちゃん。


 本当はマイクもなしに歌うとか恥ずかしいし、そもそも歌にも自信がない。でもたくちゃんのあんな不安そうな態度を見たら、何とかしたくて、何でもしてしまうに決まってる。

 最後まで何とか歌い終わると、みんなが拍手してくれた。


「ひゅー!」

「懐かしい曲だよね」

「そうね、それにいい曲だし」


 よく考えたら、みんなの前でまるで見せつけるかのように手を握ってしまった。恥ずかしい。でもみんなそこには触れずに無難にコメントしてくれた。優しいなぁ。

 よし、たくちゃんも歌ってたのしめるよう、ここは一人ずつじゃなくてグループで歌うよう提案しよう。


「ねぇ、一応これでみんなうたったし、全員二人ずつ歌うのはどうかな?」

「え? かなちゃん歌わないの?」

「今一緒に歌ったし。みんなはどう?」


 たくちゃんから余計な突っ込みがはいったけど、ただでさえ恥ずかしかったのに、ここでさらに下手な私が一人で歌って恥の上塗りする気はないです。

 幸いみんな乗り気になってくれた。やっぱり一人だからプレッシャー感じていたみたいで、今度は手も握らずに、普通にたくちゃんは歌えていた。ほっ。

 よかった、たくちゃんの初めてのカラオケで、悲しい思い出になったら嫌だもんね。


 みんなもテンション上がってきたみたいで、色々話したりして、改めて委員長のこと、みんな名前で呼び合うことになった。

 たくちゃんに気がある感のある恥じらいのある顔していたのは気になるけど、確かにいい人だし、しょうがない。


「かなちゃん、今日はありがとうね。あの、最初の時」

「ん? ああ、気にしないで」


 帰り道、みんなと別れてからたくちゃんは恥じらいながらそうお礼を言った。

 はー、ほんと可愛い。ほんと、好きだなぁ。


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