名前を呼ぼう2
かなちゃんが二人に笑顔で名前で呼び合いたいと言うと、二人は少し驚いたようだったけど、にこっとすぐに笑って応える。
「うん、もちろん。じゃあ、わたしもかな、あれ、加南子、だよね。加南子って呼んでいいかな?」
「私も。それとも、かなちゃんの方がいいですか?」
「あ、ううん。かなちゃんって呼ぶのはたくちゃんだけだから、普通に加南子って呼んで」
「あ、そ、そう」
おっと。かなちゃんの見慣れない笑顔に見とれている場合じゃない。僕も混じらなきゃ!
「ぼ、僕も、いれてもらって、いい?」
「もちろん! ぜひ私のことは、歩とお呼びください、卓也君」
待ってましたとばかりに、食い気味に高崎さんがそう言った。お、おお。相変わらず、レスポンスがいいなぁ。気持ちいい。
「う、うん。歩、ちゃん?」
「はい!」
満面の笑顔の高崎さん、じゃなくて歩ちゃんに、僕も笑顔を返す。受け入れてくれている感全開なので、高崎さんはちょっと引くけど、恐いほどでもないので、むしろ会話するって意味では安心するかも。
ほっとする僕に、木野山さんは照れたようにはにかみながら僕に視線を向ける。
「じゃ、じゃあ私も、た、卓也、君?」
「う、うん……」
や、やばい。木野山さんの下の名前、なんだっけ。え、この流れでは、聞けない!
困ったしまう僕に、察したのかかなちゃんが口を開く。
「市子ちゃん、歩ちゃん、私のこと、忘れてない?」
「やだなー、加南子さん、もちろん忘れてませんよ」
「加南子、私たち、親友だよね!」
「わ、わざとらしい。まぁいいけど。たくちゃんも、そんなに照れずに、名前くらい呼べるようにならきゃ」
かなちゃん、ナイスフォロー! ジト目で二人に言うことで、さりげなく名前を呼んでるし、完璧だ。……あれ? 本当に照れてるって勘違いされたのかな?
とりあえず誤魔化すために相槌をうつ。
「う、うん。そうだね、改めてよろしくね、市子ちゃん」
「あ、う、うん」
市子ちゃんは頬を赤くして頷く。名前を呼んだだけなのに、こんなに反応されると、何だか、僕も照れる。
だって、女の子の名前なんて、かなちゃん以外呼ばないし。ていうか、かなちゃんが抜け駆けして仲良くなっちゃうって思って参戦したけど、名前呼びって同性と異性で全然ハードル違うよね。なんか、すごい、恥ずかしい。一気に距離つめた気になる。
それに市子ちゃんって、普通の子っぽくて、結構照れ屋でどもったりもして親近感あるし、なんかそれが余計に、意識して気恥ずかしい。
「ちょっと、市子、何を急に発情してるんですか」
「ばっ、へ、変なこと言うな! ち、ちがうからね、酒井君」
下ネタじみた歩ちゃんの突っ込みに、市子ちゃんはぎょっとしたように目を見開いた。
でもその反応に、僕も驚きを消化できた。女の子が発情なんて言う!? と思ったけど、きっとこっちでは、女子がそう言うことを言うのも普通なんだろう。そう思うと、驚く市子ちゃんが余計に可愛く思えて、くすっと笑う。
「たくや、でしょ?」
「う、あ、……た、卓也君、って、卓也君もからかってるでしょ」
「ご、ごめん。なんか、反応が可愛くて」
「か、可愛いって……か、からかわないでよ。もう、この話は終わり。話し戻すよ。放課後は、ボランティア部に行って、週末の内容を聞く、いいね?」
「はーい、市子先生」
「うるさい、歩。はいは伸ばさない」
二人のやりとりに笑いつつ、僕はますます二人と仲良くなれた気になって、嬉しくなった。
○
放課後、ボランティア部に行って詳細を聞いた。今週末の児童館でのボランティアは、四月になって小学校入学と共に新たにやってきた子たちを馴染ませるため、ちょっとしたお花見をするので、その手伝いだそうだ。施設からでるので、万が一がないよう見守り役、兼遊び相手としてのボランティアらしい。見守りと言っても大人もいるし基本普通に遊ぶだけらしい。
他にも季節ごとのイベントとかをするらしいので、物によってはもっと早く言わないと参加できないらしいけど、これは当日の引率がメインなので、今からでも参加可能らしい。
「どうする? 小林さんと酒井君をペアにする程度の配慮はするけど、相手は子供だから、多少力加減とかは危ないかもしれないし、無理強いはしないけど」
と部長は説明をしめた。
えーっと、あの、児童館の子供だよね? 小1なんだよね? 上の子がいても10歳以下だよね? なのに、力加減できないから危ないってどういうことなの? え、そんなに女の子ってだけで力強いの?
と思ったけど、そう言えば、僕が小5の時、かなちゃんに抵抗したけどピクリとも動けな……あれは、忘れよう。かなちゃんに対して複雑な感情になってしまうから。
と言うか、普通にかなちゃんがいる前提に言われている。
今度の日曜は特に用事もないし、金曜が交流会だけど一日空けているから、寝坊しちゃうってこともないだろう。
だから何も問題はない、ないんだけど……正直ちょっと、及び腰になってしまう。子供と言えど、いきなりたくさんの人と遊びに行くってことだし、何というか。別に、怖くはないけど。子供だし。
でも何かしらイベントがあってその目的のためにってならともかく、なんにもなく子供と遊ぶって、逆に苦手かも……、い、いや! こういう発想が根暗なんだよ! 子供なんて身近にいないし、一緒に遊べるラッキーな機会だと思わないと!
ちら、とかなちゃんを見る。こて、と首を傾げられた。
「私はたくちゃんにあわせるよ? 行きたいなら、子供からは守るし、たくちゃんの好きなようにしたらいいよ?」
「……」
かなちゃんに守ってもらわなくても! ってちょっと反発する反抗期的気持ちと、守ってもらえるんだぁって安心する嬉しい気持ちで、複雑に胸がざわざわした。
うーん、僕って、表面的には向こうの感覚でいるんだけど、何というか、割と半分くらい元のこっちの僕のままなんだよね。かなちゃんに頼もしさを感じてちょっとときめいてしまった。悔しい。かなちゃんの癖に。
「たくちゃん?」
「う、うん。えっと、行きます。二人はどうする?」
「私たちも行きます」
「そうだねー、どうせ暇だし、加南子一人より、私たちもいた方が安心でしょ」
……市子ちゃんと歩ちゃんも一緒なのは嬉しいし、頼もしくもあるんだけど、何と言うかちょっと保護者感出されるのはちょっと違うなって気もする。わがままだな、僕。でも立場的にしょうがないとは分かっているから言わないけど。
「よーし、じゃあこれで14人か。結構多いなぁ」
「え。ぼ、ボランティア部で14人もいるってことですか?」
「ん? そうだよー。児童は確か、28くらいだったかな。ちょっと多いけど、まぁ少ないよりは喜ばれるし、問題ないよ」
すっかり忘れてたけど、ボランティア部の人とも知り合うのか。う、ハードルが上がった。だ、大丈夫かな。
「あ、そうそう。清掃だけならいらないけど、校外活動するなら、連絡先交換しておきたいんだけど、いい?」
「あ、はい」
全員出して交換する。個人情報だからグループはつくっていないらしく、個別でつくられた。部長がまとめて管理するから安心してとか言われた。安心だ。
「あ、ちなみに酒井君がのぞむなら、モーニングコールとかするけど、どうする? いやいや遠慮はいらないよ? ボランティア部の部長として当然のことだからね」
「くっ、い、いらないです」
さらっと言われて、思わず吹き出しそうになってしまった。この部長、相変わらず面白いなぁ。この部長がまとめているなら、他のボランティア部の人とも大丈夫、かな?
今週から月水金の週に三回更新になります。




