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あべこべ世界も大変です  作者: 川木
友達編
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居眠り 後半 加南子視点

 高校生活も1週間以上すると、なんとなく慣れてくる。登校して教室にはいって誰ともなしに挨拶するのもどもらずにできるようになった。視線を下げながらドアをあけ、特定の誰かと目が合わないようにするのがコツだ。

 みんな朝早いらしくで、登校した時には殆ど揃ってるみたいだ。何でわかったかと言うと、朝のあいさつでは結構な数の挨拶が返ってくるし、返事の主をちらっと見ると、わりと毎回バラバラだからだ。


 授業もすでに数回受けると、ちょうど気持ちも緩んでくる。気温もまさにはるうららって感じで、心地よくて、開いた窓からは気持ちのいいちょっといい匂いのする風が吹いてくる。

 何が言いたいかと言うと、眠い。


「じゃあ、二段落目から順番に読んでいけ。立花からなー」

「はい」


 立ち上がって、立花さんが読みだす。それに合わせて、僕も開いていた教科書に目をやる、やるけど、重い。瞼、重い。文字がぶれる。読めているけど、頭に入らない。ねっむい。ほんと、ねむい。

 なんだっけ? こういうの、しゅんみん、しゅーみん……頭まわらない。だめだ、本気で寝そう。


 僕は右手で持っていたペンを離して、自分の頬をつまむ。一番後ろだから、見えないし、大丈夫だよね。

 ぐい、と力をこめる。あれ、おかしい。痛いってちょっと思うけど、あんまり眠気に関係ないぞ。眠いって感情と、痛いって感情の層が違うぞ。もっと影響しあって。


「ん、んん」


 口を閉じたまま、ちょっとだけ喉をならす。声を出すようにしたら、目が覚めるはず……そうでもない。もう二人目の朗読始まってるし、僕の番が回ってくる前に目を覚まさないと。

 あー、ねむい。









 たくちゃんがクラスの一番後ろの席を選んだのは、結果的には英断だったと思う。そうじゃないと、たくちゃんの頭が目に入ると気になってしまう人は多いと思う。

 これはけして、幼馴染のひいき目じゃなくてたくちゃんは可愛いし、私だけじゃなくて、時々先生も気にしてみてるみたいだから、間違いない。高崎さんも見るの我慢するって言ってたし。


 卓ちゃんは私の後ろの席なので、基本的に授業中は気にせずに済んでいるけど、今日は何だか、クラスの雰囲気がおかしいような気がして、あれ? と顔を上げた。


「!」


 前の席の前田さんが堂々と振り向いていて、周りを見ると普通にみんな振り向いていて、一瞬、え、私なにかした!? と焦ったけどそんなわけない。

 私のような平凡な女の子が、何もないのにクラス中の視線を集めるはずがない。集めるとしたら、たくちゃんに関わるときだけだ。もちろん今もそうで、たくちゃんが見られているのだ。


 立って読み上げている武田さんまでこっち、と言うかたくちゃん見ていて、先生も注意してない。

 いったい何が起こってるの!? もしかしてたくちゃん、死んでる!? 慌ててぱっと後ろを振り向いた。


「……、……ん」


 あ、寝てる。なんだ。……って、寝てちゃダメでしょ! え、これ起こしていいよね? 普通に起こしていい、かな? えー、でも、何というか、さすがの私も卓ちゃんの寝顔何て見るのは小学校のそれも低学年ぶりだ。

 右手で頬杖をついて寝ているので、寝顔がよく見える。……か、可愛いなぁ。たくちゃんって、前髪上げてから改めて思ったけど、こうしてまじまじみると、本気で可愛いなぁ。

 こんなに可愛い男の子が私のそばにいるって考えると、何だかものすごい奇跡が起きている気がしてきた。


 そりゃ、世の中にはもっと顔がいい人はいると思う。凄い珍しいけど、モデルしてる男の人とか俳優している人とか、いないことはない。その人たちは少なくとも、顔はいい。たくちゃんは可愛さよりだけど、格好良かったりとか、そういう人もいるし、可愛い系の芸能人もいる。でも性格をいれて、たくちゃんほど可愛い人はいないと思う。

 暴力暴言をはいていてさえ、私にとってたくちゃんはやっぱりいつでも優しくて可愛い理想の男の子だった。それが今では、昔に戻って、ピュアさまで取り戻してる。もう、最高としか言いようがない。


 はぁ………結婚したいなぁ。たくちゃんの子供産みたいなぁ。してくれないかなぁ、結婚。……いけないいけない。そういうのは、もっとたくちゃんが人に慣れて、世間に慣れて、女の子に慣れて、余裕ができてから考えてもらえばいいことだ。

 それまでは、滅私奉公だ。うん。起こそう。


「たくちゃ」

「小林」


 声をかけようと振り向いたところで、先生に呼ばれた。いつの間にか先生が隣まで来ていた。

 たくちゃんの可愛さに見とれていて気付かなかった。びくっとして振り向く。現文の先生は、しっと口元に右手人差し指を当てている。


「静かに。酒井が起きるだろう」

「あ、はい、すみません……」


 ……あれぇ? お、おかしくないかな? だって授業中だよ? 生徒が見てしまうのは仕方ないとして、先生はそれを注意して、寝ている卓ちゃんにも注意して起こすべきでしょ。


「あの、起こさないんですか?」

「……起こさなきゃダメか?」


 何となく雰囲気で小声で尋ねると、小声で尋ね返された。


 え、ええ……な、なにこの先生。駄目でしょ。男子だから寝顔見ていたいってこと? えー、先生なのに? と言うか、私より理性少なくないですか?

 思わず半目になってしまう私に先生は、うっと少しひるんだように眉を寄せ、わかったわかったと小声で言いながらたくちゃんの隣に立つ。


「……」

「……あの、よかったら私、起こしましょうか?」

「も、問題ない。んんっ、酒井、起きるんだ。授業中だぞ」


 とんとん、と指先で頬杖ついている右ひじ近くの机をたたきながら、先生はそう声をかけた。

 が、普通の声量で、さっき私が普通に声を出しても起きなかったたくちゃんが、その程度で起きると思えない。昔、たくちゃんって寝起き悪かったけど、今も悪いのかな。


 と言うか、あれからたくちゃんは周りに警戒しまくって、とてもじゃないけど居眠り何てする気配はなかった。だけど今はこうして寝ているってことは、それだけ精神が安定しているってことなんだろう。

 それを考えると、よかった。よかったけど、授業中は寝ちゃだめだし、あんまり寝顔を見られるってのも、見れるのは嬉しいけど、まぁよくないし、よかったのかなぁ?


「……しょ、しょうがない、な。おい、酒井、酒井」


 先生はそう言いながら卓ちゃんの肩をそっと叩いた。と言うか、声、震えてません? え? 本気でこの先生大丈夫かな?

 生徒をよこしまな目で見てる? 見てるだけならともかく、そんな起こすために肩叩くだけで緊張しちゃうんですか?


「ん……っ」

「お、起きたか」


 たくちゃんが反応して、まるで熱いものを触ったように先生は慌てて手を引っ込めてそう言った。


「あ、せ、先生、す、すみません、あの、ちょっと、う、うとうと、えっと、その、すみません」

「あ、ああ。そんなに気にするな。春眠暁を覚えず、処処啼鳥を聞く、と言うしな」

「え、あ、は、はい。すみません……」


 たくちゃんは平謝りし、先生は誤魔化すようにそう言いながら教卓へ戻り、授業は再開された。

 はぁ、何だろう。たくちゃんを守ろうって決めてるわけだけど、何というか、思っている以上にたくちゃんって魅力的だったりするのかな。


 もちろん世界一可愛いし魅力的だし結婚したいけど、芸能人よりってほど顔がいいわけじゃないのに、そんなに先生があんな反応するなんて、なんかちょっと、恐くなってきた。

 あとでちょっと、高崎さんと木野山さんに、たくちゃんが、一般的なラインから考えてどのくらい魅力的なのか、聞いてみようかな。



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