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あべこべ世界も大変です  作者: 川木
友達編
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副委員長

 交流会の日程を提案してすぐに、とんとん拍子に話は決まった。過半数の賛成の元、その夜のうちにその日に決定した。

 どこでやるのか聞いたら、予定としてはクラスメイトの一人の家の、喫茶店を貸し切りにするか、カラオケボックスか、学校の教室か、公園でのお花見形式か、のどれかを予定しているらしい。予算とみんなの意見によって変えるけど、酒井君はどれがいい? と聞かれた。

 カラオケが選択肢に入っていることに、どきっとして、同時にきた、と思った。まさにそのために、本を借りた。だけど、カラオケ、と自分から言うのは不安だった。まだ読んでもいないしどうなるかわからない。それに自分から言い出したら、めっちゃ歌が得意みたいに思われても困る。


「……ど、どれでもいいよ、と」


 少し考えて、みんながいいと言うところならどこでもいい、と返事をすることにした。別にカラオケじゃなくても全然問題ないわけだし、これでいいや。

 ほかの人も、どこがいいーとか、口々に言ってて、早く僕も、みんなのこと誰が誰ってわかるようになりたいな、と思ったところではっとした。


「あー、しまったー」


 忘れてた。思わず独り言をいってしまった。

 副委員長に、全員の名前をこっそり教えてもらおうと思っていたのに。忘れてた。交流会までに覚えたら、ビックリさせられるかもだし、早い方がいいのに。

 はぁ、びっくりしたり、色々疲れたから、しょうがないって思うけど、でもちゃんとしてる人なら忘れないよなぁ。ほんと僕って、抜けてる。まぁ、明日でも悪いってことはない。明日聞こう。


「……」


 明日、聞けるかな? ていうか、あれ、副委員長の名前何だっけ。かなちゃんに聞いたことは覚えてるんだけど。た、田中、だったような。

 う、うがぁ! 何なんだよ僕! 馬鹿すぎるだろ! なんでそんなすぐ人の名前忘れるんだよぉ! 若年性痴ほう症かよ! あー、もう、ほんとやだ。


 変わりたいと思っているのに、僕の無意識は、全く言うことを聞いてくれない。いやそれも、いい訳か。無意識に忘れてしまうなら、意識して覚えようと、常に心掛けないといけないんだ。なのに僕は、すぐにそれさえ忘れる。馬鹿すぎて、嫌になる。


「はぁ」


 何だって僕はこうなんだろう。二度と、後悔したくないのに。って、駄目駄目。こんな風に考えるのも駄目なんだ。

 ネガティブ禁止! うじうじ考えてたら、それこそ以前の二の舞だ。


 よし、まずはかなちゃんに相談だ。そして、明日こそ副委員長に頼んで、クラスのみんなの座席表みたいなのつくって、顔と名前を一致させるんだ。そう、名付けてスパイ大作戦。みんなの知らない間に、僕はみんなの情報を手にするのだ! ……作戦名、は恥ずかしいからかなちゃんには内緒にしよう。


 かなちゃんに連絡して、改めて副委員長の名前を聞いて、明日の放課後にでもこっそり教えてもらう段取りを考える。

 時間帯はいつでもいいんだけど、他の人に知られたら、いい気分はしないだろうしね。まだ全員の名前を覚えてないのは仕方ないと思うけど、うぬぼれじゃなく、多分僕の名前はほとんどみんな覚えていると思うから。

 だって、クラスに一人の男だよ? 男女逆でも普通に変な意味じゃなくても意識するし、名前くらい覚えるし多少噂にもなるよね。僕が人気があるとか、そう言う僕の個人的な何かとは関係なく、どうしたって珍しいって言うのはそういうものだ。なら余計に、覚えてないとは言いにくいしね。


 かなちゃんに相談した結果、明日になるとまた忘れたり、タイミングを損ねたりとかしそうだし、この際だから副委員長にアポを取っておいた方がいいのではないか、と言う結論に至った。

 ちょっと大げさな気もするけど、僕の性格を熟知しているかなちゃんなので、その方がいいだろう。と言うか実際忘れていたわけだし。


 みんな普通に実名登録なんだけど、実にわかりやすいことに委員長と副委員長は頭にそれをつけてくれているので、人間違いの可能性はない。何という親切設計。この二人は本当に気が利くんだろうなぁ。

 一度話したので、委員長の方がやや話しかけやすいんだけど、覚えてなかったら失礼な感じになるから、ここは確実性をとって副委員長だ。それに前向きに考えよう。委員長だけじゃなく、副委員長とお話しするいい機会だってね。


 えーっと、かなちゃん曰く、このアイコンを選んで、追加ってしたら二人だけの会話空間をつくれるらしい。これ、個人情報もなにもあったものじゃないよね。便利だなぁ。

 えっと、追加、と。で……き、緊張するなぁ。あ、気軽に追加したけど、もしかしてこの状態ってすでに相手に伝わってるのかな?

 ……何勝手に追加してるの? とか思われるかな。とりあえず質問すれば、用事があるんだからしょうがないかってなるか。よし、早く連絡しよう。


 まずはこんばんわ、からが無難だよね。それで、聞きたいことがあるんだけどいいかな、とか? あ、でもこれだと、このまま携帯電話上で聞きたいみたいに感じるかも?

 えーっと、あー。駄目だ、悩むほど時間がない! とにかく挨拶だけでも送ろう!


 こんばんは、と。

 ピコン、とすぐに返事が来た。


『こんばんは、どうしたんですか?』


 は、早い。まぁ、まだみんなでのやり取りも続いてるわけだし、見てるか。よし。とにかく落ち着いて話そう。


 実はクラスのみんなの、名前と顔を覚えたいんだけど、教えてもらえないかな? と。……だ、大丈夫だよね? うざ、なんで私に? とか思うかな?


『実はクラスのみんなの、名前と顔を覚えたいんだけど、教えてもらえないかな? 今日のHRで、副委員長はみんなの名前完璧みたいだから』


 よし。これで行こう。理由もつけてるし、納得はするよね? 送信。


『いいですよ。どうしますか? 図に書いて写真撮って送ればいいですか?』


 お、おお!? す、すごいこと言うなぁ。さすがにそこまで一方的に手間はかけられない。あ、でも、考えたら明日また顔を合わせてって言うほうが、副委員長にしたら手間かな? 今済ませた方が楽なのかな?

 ど、どうしよう。かなちゃんに相談する時間はない。ここは僕が決めないと!


『あの、もしよかったら、明日顔を合わせて教えて欲しんだけど、もちろん忙しかったら明後日でも全然いいし』


 ……ええい、ままよ! 図々しいけど、大丈夫、委員長にわざわざ立候補するような責任感強い人なんだし、きっと面倒見がいいはず! 悪くても、嫌いってまでならない、はず、はず! 大丈夫、多少うざがられても、そんなの、まだ四月だし、挽回何て簡単だし、うん、うん。

 お、押す! 送信!


『もちろん構いませんよ。放課後でいいですか? クラスメイトの前だと話しにくいですし、図書室とかの方がいいですか?』

「!」


 ふ、副委員長、めっちゃいい人じゃん。なんだろう。僕こっちに来てから、いい人としか会ってない気がする。こんなに優しい世界でいいの? 夢みたいだ。でもとにかく、返事はイエスだ!


『是非、お願いします』

『分かった。じゃあ、放課後、図書室で。またその時に連絡しますね』

『ありがとう! 恩にきるよ』

『いえいえ。このくらいなんてことありません。いくらでも頼ってください。では、おやすみなさい』

『お休み、副委員長。また明日ね』

『はい、また明日』


 と、この辺りで会話切ってもいいかな。いいよね? これの返事が思いつかないし、うん。時間も本当に、そろそろ遅いしね。

 よかった。もうほんとに思った通りに会話が進んで、最高だ。明日、副委員長とも友達になっちゃったりして。あ、寝る前にかなちゃんにだけは報告しておこう。二人だけで話すのは緊張するしね。


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