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あべこべ世界も大変です  作者: 川木
友達編
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LHR2

 クラス中から、委員長が交流会の話を提案した時よりずっと大きな歓声が上がって、驚いていると、委員長はまぁまぁと手でその声を制した。途端に、しんと静かになる。

 す、すごい一体感だ。この委員長、只者ではない。これがカリスマなのか。


「ありがとう、酒井君。もちろん小林さんと隣の席にするし、いきなりみんなと話す、みたいなことにはならないよう、配慮はするから、出席してくれるにあたって一つお願いしたいんだけど、いいですか?」

「え、な、なんですか?」


 と言うか、普通に僕がかなちゃんに付きっ切りなことがバレバレだ。当たり前と言えば当たり前だし、最初の自己紹介でも言ってたけど、なんか、ちょっと恥ずかしい。最初と違って、僕はもう、全然知らないこの委員長とだって会話できるんだから。

 とは言え、それを声高に主張するほどじゃないし、言うことで、え、その程度で? とか思われたらいやだから言わないけど。


 それにしても、お願いってなに? 出席は普通にするつもりだったけど、変に扱われるのはちょっと。僕はただ、普通に友達を増やしたいだけなんだけど。

 緊張する僕に、委員長はにっこりほほ笑んでゆっくりと安心させるように言う。


「大したことじゃないんだけど、やっぱりみんな、クラス唯一の男子の酒井君とは距離感を掴みかねているから、一人ずつと、少しずつでいいから話してほしいなって言うことで、みんな順番に席替えして一周する形にしたいんだ。もちろん、酒井君が話している間は、他の女の子はそれぞれまた順番でクラス中の女の子と席替えしていくから、特に酒井君だけ特別ってことじゃないんだけど、でもほら、女子と無理に臨席するってことで、嫌がる人もいるだろうから、酒井君が嫌ならしないんだけど」

「えっと」


 ううん? なんか僕と話したい、みたいに言い出したから、えって戸惑ったけど、最後まで聞いたら、普通じゃない? 要するにクラス交流会と言う名前通りに、クラス全員が全員と話す機会をもつよう、席順を常に回していきますよってことだよね。で、当然僕も同じようにみんなと隣にすわることになる、と。


 男子だから、僕がどんな反応するかわからなくて、一応お願いって形で確認とってくれてるだけじゃん。なんだ。ビビッて損した。

 と言うか、そんなことで怒っちゃう人もいるって、女子って気を使うので大変だなぁ、と思ったけど、考えたらかつての僕がそうだった。絶対断固拒否だし、死ねって言ってたわ。ごめんなさい。


 そりゃ、正直考えるだけで緊張するけど、隣にかなちゃんはいてくれるみたいだし、いい機会何だから、ちょうどいいくらいだ。


「ぼ、僕は全然、だ、大丈夫、です。えっと、みんなのいいように、してくれたら、そのー、な、仲良くしたいです」

「よっしゃ」

「え?」

「あ、失礼、じゃあそういう事なら、後はこっちで手配するから、都合のいい日だけ教えてくれる? あ、ついでにみんなでクラス連絡用のグループ作りたいんだけど、後で教えてもらっていい?」

「あ、うん」


 なんかさっきまでの感じと違ってめっちゃガッツポーズした委員長に、ちょっと違和感覚えたけど、でも考えたら自分が委員長になって最初の自分で企画する交流会だもんね。男子のせいでいちゃもん言われたくないだろうし、僕が協力的になったら喜ぶのも普通か。


「もちろん、みんなもわかっていると思うけど、これで酒井君と個人的にやり取りも可能にはなるけど、めちゃくちゃに送ったり悪用はしないでね。あくまで、クラス交流会の為のものだから」

「はーい!!」

「!」


 うわ、委員長のごく普通の注意文なのに、めっちゃ大きい声でクラス中が声をそろえたぞ。な、なんなのこの統制力。ちょっと、尊敬するより怖くなってきたぞ。

 と僕がビビっていると、ロングホームルーム終了を告げる音が鳴って、この日の授業は終了した。


「たくちゃん、大丈夫だった?」

「う、うん。ちょっと緊張して疲れたけど、大丈夫」


 先生が閉めの挨拶をして解散となってから、かなちゃんが振り向いてそう言った。大したことないのに聞かれるなんて、過保護、と思わないでもないけど、実際かなり疲れた。

 みんなに見られたり、みんなの前で発言するのって緊張する。それも相手が全部女子だし。あと、噛みまくってたのも聞かれたわけだし、恥ずかしい。うう。今更だけど、何か恥ずかしさぶり返してきた。


「かなちゃん、みんな静かだったけど、僕が噛んだのとか笑われてなかった?」


 みんなの反応何て気にするほど気持ちの余裕がなかったけど、ホントはこっそり馬鹿にされていたら辛すぎる。

 だけど僕の質問に、かなちゃんは、え? と首を傾げる。


「そんなわけないじゃない、むしろ、えっと、まぁ、とにかく、笑われてないよ」

「え。なんかめっちゃ不安になるんだけど」

「大丈夫大丈夫」


 えー。なんでちょっと躊躇って視線そらしたの? めっちゃ怪しいんだけど。ほんとに笑われてなかった? 確かめることはできないけど、ううむ。気になる。

 と考えていると、ふいに人が近づいてくることに気づいて顔を上げると、委員長だった。身構えて待つ僕に、委員長は携帯電話を胸の前に出しながらやってくる。


「ごめんね、今、交換していい?」

「あ、う、う、うん」

「小林さんもいい? そしたらクラス全員分になるし」

「もちろん、お願い」


 携帯電話を取り出して、連絡先を交換すると、グループに招待される。すごい、人数いっぱいいるとこに入ると、何だか急に友達がいっぱいできたみたいな気になる。何か、わくわくしてきた。


「あ、ありがとう。あの、予定って、いつがいいとかって、ある?」

「えと、酒井君の都合のいい日でいいんだけど、そうだねぇ。個人的には休日にゆっくり、と言いたいけど、初回でどうなるかわからないのにあんまり時間かけ過ぎてもあれだし、平日がいいかな。できれば金曜だと、翌日の授業気にしなくていいけど。でも例えば酒井君が参加できるなら、月曜でも水曜でも、ほんといつでもいいんだよ? あ、ただ少なくとも一週間以上先の方が、みんなも予定を合わせやすいね」

「な、なるほどぉ」


 この委員長って、明るくてお喋りって感じだけど、何ていうか、頭いいんだろうなって思う。僕の予定って言われても、いつでもいいとしか思わなかったのに、すぐこうやって案を出してくれるんだから。普段から人のことまで色々考えてるんだろうなぁ。

 とりあえず、できれば金曜がいいってことだし、後で決めよう。


「ありがとう、委員長って、なんか、すごいね」

「え? そ、そうかな、えへへ、ありがと」


 感心しながらそういうと、委員長はきょとんとしてから、照れたように頭をかいて笑った。はきはきして、しっかりして同い年に思えないくらい凄いなーって思っていたけど、そのテレ顔は年相応って感じで、結構可愛い。


「じゃ、酒井君、また明日ね」

「うん、また明日」


 挨拶して、さらっと委員長は帰っていく。クラスのまとまりもいいみたいだし、あの委員長が音頭をとってくれるなら、今後のこのクラスはすごくいいクラスになりそうだ、と素直に思えた。


「たくちゃん、安請け合いしてよかったの? 全員と同じ日に連続して話すなんて、大変だよ?」

「う、うーん。もちろん、大変そうだけど、でも、僕、できればみんなと仲良くなりたいんだ」


 友達も何もかもいらない、誰も傷つけないようとにかく一人でいればいいんだと思っていた。でもそんなのじゃ、いけない。僕は変わるんだ。

 大変だけど、簡単じゃなくて、疲れるだろうけど、でも頑張るんだ。頑張らずに変わることなんて、できないから。


「……そっか、じゃあ、私もできるだけ、応援するよ。頑張って」

「うん。ありがとう」


 頑張ろう。

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