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あべこべ世界も大変です  作者: 川木
友達編
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男子の友達 木野山視点

 とうとう高校に入学する。と言っても、そんな代わり映えはしないかもだけど。幼馴染で腐れ縁の、歩と同じ高校に行けたのはよかった。真面目に勉強教えてあげたかいがある。


 中学では吹奏楽をしていたし、今も好きだけど、ばりばり練習したけど、大会ではぱっとしなかった。この高校も結構吹奏楽に力を入れていて、大会出場校らしいけど、体育会系のノリに近いので、中学で結構疲れたし、ちょっとどうしようかなと考え中だ。

 吹奏楽好きだし、やっぱり楽しいから、吹奏楽を選ぶんだろうなーと思いつつ、もっと他に面白そうなのがあれば、そっちに浮気するのもやぶさかではない。


 男っ気はないけど、それなりに明るい高校生活を夢見て、揃って登校した。


「お、誰も来てないじゃん。いぇーい」

「まぁ、初日ですし、部活に入ってない新入生で、こんな時間に来る人いないでしょう」


 初日、中三の冬まで朝練に参加していた体は勝手に朝起きるので、歩を誘って早い時間に登校したのだ。呆れられたけど、あんたも起きてるし、春休み中も朝一から即レスだったんだし、いいじゃん。


「自由席だって」

「じゃあ。私は後ろの角をとります!」

「うわ、ずる」

「早い者勝ちですよ」

「ちびの癖に、粋がって後ろなんか座って、大丈夫なの?」

「う、うるさいですよ。市子だって私とそんなに変わらないじゃないですか」

「5センチ違いは大違いだと思うけど」


 このチビは、体に見合わず態度がでかいのだから困りものだ。それに、似合わない敬語キャラもそろそろやめたらどうなのか。部活を引退してすぐに、少しでもモテる為に淑女キャラになるとか言いだした時は、そんなに勉強がつらいのかと思っていたけど、高校に入ってもまだ続けるとか、本気だったのか?

 中学の時にクラスに一人いた男子にも、挨拶すら交わすこともできなかったくせに。まあ私も同じだけど、私は世の大多数の女性と同じく、男性に縁のない人生なのだろうと半ばあきらめているけど、まだ諦めていないのか。


 希少な男性との婚姻を掴んでいる殆どは、男性と幼いころから一緒にいる親族の許可をもらっている世話係か、めっちゃくちゃ美人くらいだ。

 政府が苦肉の策で、男性に限り妻以外の女性と準婚姻関係を認める、愛人制度をつくったのはもう数十年以上前だけど、利用率は婚姻者の10%に満たないらしいし。仮にこの国の全男性が妻と愛人で二人と結婚しても、8人は余るのだ。しかも半分近い男性が結婚せず生涯を終えているとの国勢調査の結果も出ている。


 幼少期の縁もなく、比較的男性と触れ合える小学校で男性に見初められない程度の容姿の私たちでは、結婚なんて夢のまた夢だ。

 いまだ夢を見続けている歩は、きっと身長と同じで精神年齢も小さいのだろう。可哀想に。まぁ、そういう馬鹿なところも嫌いではないけど。


「このままこの席固定ってことですよね? 幸先よくてラッキー」

「私のお陰で早く来たことを忘れないように」

「はーい。カッコイイ男子が同じクラスだといいですよねー」

「はいはい、そーだね」


 前後の席でだらだら話していると、ふいに教室が静かになった気がした。あれ? と顔を上げるより先に、やや高いけど女子ではない低めの声が聞こえてきた。


「そうだね。できれば一番後ろの窓際とかいいけど、さすがに空いてないよね?」


 それに振り向いた瞬間、その逆、つまりさっきまで私が向いていた話し相手の歩が勢いよく立ち上がって挙手していた。


「窓際の一番後ろ、空いてますよ! あ、その前の席も空いてますんで!」


 早すぎる!! そしてその前の席って私か! 突然の流れに困惑しつつも、男子の前なんて緊張するし、担当している幼馴染とかいるのは間違いないから、慌てて立ち上がって席を譲る為に隣に移った。


「えっ、か、かなちゃん、どうしたらいい?」


 戸惑ったような男子の声に、驚愕する。か、かなちゃんって連れのこと呼んでる。めっちゃかわえぇ。うらやましすぎるだろその関係。絶対結婚するパターンじゃん。

 男子が連れの幼馴染にする態度は、優しい結婚パターンか、連れない下僕パターンが普通だ。くっそ! なんで私には幼馴染女なんだ!


 と歯噛みしつつ、成り行きを見守ると本当にさっきまで歩が座っていた席に男子が来ることになった。

 お、おお。結婚が決まってたとして、優しそうな感じだし、愛人すら絶対無理だろうけど夢を見れるだけで青春って感じで、もしかしたら日常的に挨拶くらいできちゃうかも、とかドキドキしてきた。歩のこと笑えないかも。


「ごめんね、ありがとう。私の席まで空けてもらって」

「いいよいいよ。男の子が一人だけで学校来るわけないんだし、むしろ連れてきてくれてありがとうって感じ」

「そうですよ。一列ずれても大したことありませんし」


 連れの女子もいい感じだ。男がいるぜオーラしてる子とかじゃないし、仲良くできるかも。あわよくば、男子と会話したりして? へ、えへへ。やばい。だって連れの男子、隣通っただけでかなり可愛い顔見えてなんかいい匂いまでしたし、ぶっちゃけかなりときめいた。

 今後もこの距離で感じられるとか、バラ色生活が約束されたようなもんじゃん!


「あ、あの、ありがとう。と、隣、と、その前だし、よ、よろしく、お願いします」


 にやにやを抑えて、男子に変に思われないよう、興味ありませんよ感を出すため、かなちゃんをやらに視線を固定していると、ふいに声がかけられて飛び上がりそうなほど驚いてしまう。


「! あ、ああっ、こちらこそ、よろしく!」


 何とか返事をしたけど、え、まじで!? 今私、男子と会話してる!? 男子から私に向けて発声されるなんて、小学校の時に階段の曲がり角でぶつかりそうになって、舌打ちされた時以来何ですけど!?


「わ、私、高崎歩です! 彼氏募集中です!」

「あずるい! 私は木野山市子! 同じく募集中です!」

「あ、そ、そうなんだ……」


 うお、しまっ。な、なにを言っているんだ私は。歩がめっちゃアピールするから、つい、私もしなきゃと思ってしまった。ってか、連れを前にして堂々と言うなよ。ってか、男子引いてるし!

 元々万が一にも目がないってわかってても、その万が一期待しちゃうのが女心ってもんなのに、自分で確率下げるような真似をするなんて……歩はあとで殴る。


 とりあえず誤魔化そうと、ギャクですよアピールした。あわよくば付き合いたいのは本気だけど。幸いなことに、男子は流してくれた。しかも連れ公認でよろしくされた! え、もしかして私、まだ寝てんのかな? 連絡先まで交換してしまった。でも夢でもいい! むしろさめたくない。


 そして夢は続き、明日は一緒に体験入部をして回ることになった。なんだこれ。もし夢なら、これが原因不明の病で昏睡状態でもいいから絶対さめないでほしい。


「市子……もしかして私、死ぬのかな」

「いや……たぶん私も死ぬわ」

「えぇ……どうせ死ぬなら酒井君と死にたいんだけど。何が嬉しくて女子と心中しなきゃなんないんだっての」

「いやわかるけど」


 わかるけど、こいつほんとぶれねぇな。とりあえずお互いにどつきあって、夢ではないことを確認しあいながら家に帰った。


 そして翌日、朝からそわそわしていると、何とも可愛すぎることに、会話に入りたいとか酒井君が言ってきた。チラ見してたまに声聞こえるだけでも幸運なのに、会話に入りたいとか、可愛すぎか。

 がんがん話しかけてもいいってこと? 女子にそんなオープンにして、この子なんで無事なの? お坊ちゃまなの? 天使なの? 女子慣れしてないとか、どんな隔離施設で育ったの? 天界なの?


 って言うか、やばくない? 昨日の夜は、そうはいっても私らに男子がなびくことあり得ないし、夢見てがっつくより、おとなしい無害女子装ってお友達としておなぺ、もとい青春しようって決めたのに、まじで本気になりそう。

 可愛すぎる。はあぁ……たぶんこのクラスで他に友達できないだろうってくらい、クラスメイトから睨まれてるけど、もうどうでもいい。この青春、酒井君にささげても後悔しない!

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