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あべこべ世界も大変です  作者: 川木
愛人編
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旅行の終わり

「お疲れさまー」


 朝起きてから、なんかまだみんな昨日の気持ちを引きずっていたのか、全体的にいちゃいちゃしながらのんびり帰ってきた。途中のサービスエリアの寄り道でも遠慮なくいちゃついたけど、旅の恥はかき捨てって言うからセーフ。


「はい、お疲れさまでした。じゃあみんな、気を付けて帰ってね。最後に何かあったら、もう旅行は無理ってなるし、信用問題にもなるから」

「分かってるって、加恋先輩は心配性っすねー」

「そう言う舐めたこと言ってる智子が一番事故起こしそうで怖いんだけど」

「いや、ねーから」

「まぁとにかく、改めて、加恋先輩、ありがとうございました。疲れたでしょうし、みんなもだけど、今日はこのまま家に帰ってゆっくりしてね」

「ま、そうだなー、さすがに疲れたし」

「うん。今になって、眠くなってきた」


 みんなで改めて加恋にお礼を言って労ってから、各自解散した。

 最寄り駅まで、険悪なわけじゃないけど、疲れていて言葉少なになってしまう。駅を降りて、馴染んだ景色になると、さらに気も抜けてきて、あくびが出てきた。


「ふわぁ……うう、やっぱ、寝不足結構くるね」

「そうだねぇ。気持ちとしては、このままたくちゃんを部屋に呼んでそのまま復習しようと思ってたけど、今日はやめとこうか」

「うん、そうだねー……ん?」


 復習。あ、復習ってあれか。いや、なんで? なんで普通にかなちゃん本人がいた旅行も復習してもう一回楽しもうとしてるの? もはや趣旨かわってるよね? 眠くて普通に聞き流すとこだった。


「何言ってるの?」

「ああ、ごめんね、また今度でいいからね」

「今度とかないけど」

「え? ど、どういうこと?」

「どういうことも何も、かなちゃん本人が傍にいたのに、何を改めて説明することがあるのかな?」

「えっ……そんなぁ」


 いや、そんなぁって。何をこの世の終わりみたいな情けない声出してるのさ。びっくりだよ。眠気も飛んだよ。

 僕はしょんぼりして服の裾を引いてくるかなちゃんに、だけど冷たく右手でぺって払ってやる。


「甘えれば通ると思ってるでしょ」

「う……駄目なの?」

「いや実際、かなちゃんその場にいたことを改めて説明するとか意味わかんないよ?」

「一緒にいたけど、でも、その場でたくちゃんがどう感じたまではわからないんだから、聞きたいよ」

「えー……めんどくさいよ」


 真顔でお願いされた。心動かされる場面かもしれないけど、こっちは疲れてるし、今度だとしても普通に面倒だ。

 ていうか、いる? 僕が逐一どう感じたかいる? ていうか普通にかなちゃんと過ごす時間については何にも説明してないじゃん。僕がどう感じたかわかんないでしょ? でも今まで気になって聞いてきたことないじゃん。

 つまり、どう考えても最終的に昨日の夜について一人4役で再現したいだけじゃん? そんなのに頷くほど甘やかす僕ではないのだ。


「かなちゃん、とにかく今後も、かなちゃん本人がいる場面での再現はしないから。ていうか旅行だし長いから」

「じゃあもう、お風呂からでいいから」

「隠すことなく下心アピールしてきたね。それでうんって言うと思った?」

「うん」

「おい」


 なに普通に頷いてるの? そんで睨む僕に何を不思議そうな顔してるの? そりゃあ、僕はね、嫌いじゃないですよ? ていうか好きだし、普段から積極的なのは自覚してるよ? でもね? だからってそういう態度されるのは別って言うか。

 僕はかなちゃんの腕をとんとんと叩きながら文句をいう。


「あのさ、ほんと、いい加減にしなさい」

「えー、駄目だった?」

「何でいいと思ってるの? もうちょっとくらい雰囲気とか、あるでしょ」

「雰囲気とか、気にしてるんだね。男の子みたいだね」

「男の子なんですけど」

「そうだけど、最初の時から、あんまり雰囲気気にしてない感じだったし」

「え? そうだっけ」

「そうだよ。勢いでしようとるするし」


 うーん。最初ってかなちゃんの部屋でのことだよね? そんな勢いでしてないでしょ? 普通にデートして普通にいい雰囲気になったりしたじゃん。

 ていうかむしろかなちゃんの方が、女の子の癖に雰囲気気にしすぎじゃない?


「はいはい、この話は終わりです。今日は早く帰って、お昼寝するから」

「あ、じゃあ私も一緒に寝てもいい?」

「えー、いいけど、変な意味じゃないよね?」

「清純な意味だって。ていうか、変な意味ってどんなことかなー? わかんないなー」

「そう言うのいいから」


 隙あらば、揶揄おうとか突っ込みをいれるのやめて。普段のデートとかじゃないんだから。かなちゃんどんだけ体力あるの。


「ちぇー。いいじゃん。今日は私も疲れてるし、どうせしないんだから。言葉だけでもいちゃいちゃしたいだけじゃん」

「それすら疲れてるの」

「つれないなぁ」

「ていうか、今日テンション高くない? いつもよりうざいよ?」

「いつも少しはうざいみたいに言わないでよっ」

「いや、少しはうざい時、割とあるよ」


 ちょいちょい、生意気だとか、もううざい、とか、イラッときたりはしてるよ? ただそれ以上に大好きでときめいているから普通に許したりスルーしてるだけで。


「わ、わりとあるの!?」

「そんな驚かなくても、かなちゃんだって、僕にイラッとするときあるでしょ?」

「あるけど。でも滅多にないよ。呆れることは割とあるけど」

「滅多にないならないで、それだけで言葉を切っていいんだよ?」


 あえて割と呆れてるとか、そう言うこと付け足す必要ある? そう言うデリカシーのないところだよ。

 僕こそ呆れてしまうよ。でもまぁ、そういうとこも可愛いって言う感情も、なくはないんだけどね?


「まぁまぁ、で、一緒に寝てもいいんだよね?」

「いいけど、床で寝てね」

「ひどっ」


 家について、お姉ちゃんにも声をかけてお土産を渡して、軽く報告してから、昨日の分の洗濯物をまとめて突っ込みスイッチONしてから、部屋に向かう。かなちゃんは遠慮なく僕より先に入って、床にバーンと

荷物を放り出した。


「ふわぁ、私も本気で眠くなっちゃった」

「ちょっと、なにベッドに上がってるのさ」


 かなちゃんは僕のベッドのど真ん中に寝転がったままきょとんとしている。すでに眠気のせいか半目だ。


「えー? 床って本気だったの?」

「そうじゃないけど、先にあがる? 自分の部屋じゃないんだから」

「自分の部屋みたいなものでしょ?」

「それは違う」


 自分の部屋にように振る舞うのは、まあ僕だって人のこと言えないけど、でも自分の部屋ではないから。僕の部屋だから。

 かなちゃんの体をぐいぐい押すと、しょうがないなぁとばかりにだるそうに少し横にずれて、あたかも自然かのようにすっと左腕を横に伸ばした。


「え、なにこの腕」

「腕枕してあげても、いいよ?」

「なんなのその上から目線。気をつかうし、いらないんだけど」

「またまたぁ。こういうの、好きでしょ?」

「うーん」


 まぁちょっと、面白そうかな、と思わないでもないけど。でもよく考えたら眠りにくそう。だって細いじゃん。力は僕よりずっと強い癖に、太さめっちゃ普通じゃん。

 でもしょうがないので、促されるまま寝転がって頭をのせてみた。


「重くない?」

「全然平気だよ」

「ならいいけど」

「それよりどう? 心地は。夢心地?」

「うーん、思ったよりはありかな」

「へへへー。もっと素直になっていいんだよ? 今は二人きりなんだから」


 眠いからなのか、テンション高いかなちゃんは僕にそのまま横から抱き着いてきた。うーん。眠いから、全然どきどきとかしない。むしろ、そのあったかい体温に、落ち着く。


「うーん」

「あ、声めっちゃ眠そうだね。そろそろ本当に寝る?」

「うん。そうする」

「じゃあ、おやすみ」

「おやすみー」


 昨日はむちゃくちゃで、お休みの挨拶の記憶なんてない。だからか、これでやっと終わりだと言う気持ちになる。やり遂げたような気持になって、体からすうっと力が抜けていく。

 その気持ちのいい浮遊感に、僕はぎゅっとかなちゃんを抱きしめ返しながら身をゆだねた。


次回最終話です。

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