愛人報告
「お、おう」
「そうなんだ……」
「うん……え、なんか二人とも、めっちゃ引いてない?」
新しく愛人予定の恋人ができたってことで、将来的なこととか、いずれ予定が1人分空いてるってなって変に隠してるみたいになっても嫌だし、一応言っておこうかなってことで新しく大学生の愛人ができたって言ったのに、想像以上に引かれていた。目までそらされている。
「いや、そりゃ引くでしょ」
「何をかなちゃんは他人事みたいな顔してるの? むしろかなちゃん切っ掛けだからね?」
「え、そんな責任なすりつけてこないでよ。たくちゃんの性癖のせいでしょ?」
「ちょ、ちょっと。公共の場でなんてこと言うの」
今は平日の放課後、歩ちゃんには遠慮してもらっての、学校近くのファーストフードの一角だ。性癖とかそう言う単語を平然と口に出さないでよ。そしてきっかけは本当にそうでしょうが。友達付き合いからって始めたのかなちゃん言い出したからだからね?
「えぇ、そんな、公共の場で愛人とか言っちゃう子が何言ってるの?」
「そんなこと言っても、場所ないじゃん」
僕の部屋に4人とか狭すぎるし。それとこれとは話が別だ。だって声だってちょっと小さめにしたし。むしろ今の声の方がでかい。
僕とかなちゃんのやり取りに、目に座っている市子ちゃんはずずっとコーヒーを飲んで、智子ちゃんは頬杖をついてため息をついた。なんだか呆れられてる?
あれ? と首を傾げると、目が合った智子ちゃんはにこっと笑ってフォローするように口を開く。
「まぁ、私らが文句言うことでもないし、いいけどさ。でもなんでそんな急に、大学生とか知り合ったの? まさかナンパされたとか?」
「ううん。電車で痴女に会った時に助けてくれた切っ掛け。あ、もちろんかなちゃんも助けてくれたよ。だから全然問題ないし、そんな恐い顔しないで?」
説明しながら智子ちゃんがめっちゃ恐い顔になったので速やかにフォローする。智子ちゃんは頬杖をやめて、乱暴にソファの背中にもたれて腕を組んだ。がんっと音がしたので足も組んでついでに勢いでテーブルにぶつけたっぽい。机軽くゆれたもん。
「……」
膝ぶつけたのに全然顔ふくれっ面のままでスルーしている。みんなもちょっと無言で智子ちゃんを見ている。ここは僕が何とかするしかないのか?
「智子ちゃん、怒ってる?」
「……悪い、別に二人に怒ってるとかじゃなくて、なんか、私も一緒に居ればよかったっていうか、自分と、犯人にだから。気持ち切り替えるから、時間くれ。ビビらしてごめん」
「う、うん。大丈夫だよ」
まだ眉間にしわが残ったままだけど、腕組みをやめて窓の外を向いた。どうやら気持ちを整理してくれているらしい。そこまで怒るとは。もう済んだ話と思っていたし。ていうか去年のことだし。ビビった。
そんなちょっと微妙な空気を変えるために、市子ちゃんがそれにしても場違いに明るめの声を上げる。
「それにしても、卓也君って結構、あれだよね。惚れっぽいよね」
「んー、まぁ、いやでも、そうでもないでしょ」
「いやいや、ていうか真面目な話、歩は駄目だったのなんでなの? 本人には言わないから教えてくれない?」
真顔で聞かれた。そんなこと聞かれても。答えにくいし、そもそも明確にこれだって決め手はないんだから。
「え、そんなの、明確にはないよ。あえて言うならときめかないからだけど」
「あー……私にはときめいてくれてるんだ?」
なんかにやっとされた。ぐぐ。いつも二人きりだと弱いくせに。こんな時だけいたずらっ子みたいな顔して。可愛いけども! そんなの改めてここで言うとかできるわけなくない!?
「う、な、なに。今更そんなの改めて聞く?」
「へへ。まぁ、応えてくれなくても、そのテレ顔だけで十分なんだけど。ありがと」
「ぐ」
ぐぐぐ。何を平然と聞いてきてるんだよ。みんなでいる時は友達、あ、みんなって言っても、歩ちゃんいないから全員恋人だった。こ、この場合は考えてなかった。前にかなちゃんの前で加恋といちゃつこうとした僕には注意しずらいって言うか、すでに横見たらかなちゃんがジト目だ。
「……ちょっと、卓也君」
「え、なに?」
「……私にも、ときめいてる?」
振り向いた智子ちゃんはまだちょっと眉を寄せ気味に唇を尖らせていて、ビビりながら促したら、そんな可愛いこと聞かれた。今の、怒りじゃなくて拗ね顔だった。そんなん、似た感じなのに急に可愛く感じて、どきっとしちゃうじゃん?
照れてしまうけど、智子ちゃんは黙ってこっちを見ているから、返事をしないわけにはいかなくて、視線をそらしつつも頷く。
「う、うん……」
「あ、ずるい、私には返事しなかったのに」
「うっせ、お前さっき返事なくてもいいって言っただろ。この、うん、は私のだからなっ」
「私も、うん、欲しい。可愛いやつほしいー」
「ちょ、ちょっと、恥ずかしいよ」
「はー、やっぱ卓也君可愛いわ。悪魔的に可愛い」
「それは同意する。なー、ビッチだけどなー」
「ねぇ、変態だけど、ほんと好きだなぁ」
「わかる。そうとう好き者だけど、そこもいいよな」
「ちょっと、好き放題言わないでよ」
誰がビッチで変態で好き者だ! 恋人しかいない場だと思って、まるでうっぷんを晴らすかのようにめちゃくちゃ言ってくれる。しかも何で2人して珍しくほんわかした空気で笑顔でそういう事言うかな。突っ込みにくいし。
「わかるー。ほんと、たくちゃんって度し難いほどの変態だよね。女好きだし」
「ちょっとちょっとー? え、何この流れ。どうしたの急に」
「どうしたって、別にたくちゃんに変態だよねってわりと言ってるよね?」
「言ってるけど、全員で言うのはおかしい。いじめだ!」
確かに、個別で二人っきりの時には、まぁ全員そんなことを悔し紛れに言ってくることあるけど。でもなんていうか、それは惚気って言うかいちゃついている間だからいいわけだし、こんな寄ってたかって言われても。
「私としては、わりと卓也君を愛でるくらいの気持ちで言ってるんだけど。なぁ? 市子」
「うんうん。そうだよー?」
「いや、絶対嘘だし、仮にホントでも嫌だよ。罵倒してるってことに変わりないからね?」
「わかったわかった。この話はやめようか。えっと」
ジト目で全員を見渡すと、揃って顔を見合わせてしょうがないなとばかりに肩をすくめてから、かなちゃんがそう言って話題を変えようとした。でも話題が思いつかなかったのか、視線を泳がすかなちゃんに、智子ちゃんが言葉を続けた。
「あのさ、その新しい、って言い方はおかしいか。その大学生ってどんな人なんだ?」
「えっと、普通の人って言ったら変か。うーん……」
やばいぞ。説明しようとして、まず最初に巨乳って単語しかでてこないぞ。違うんだ。他にも色々いいところがあって、でも巨乳だ。あ、いやでも、大丈夫か。背が高いみたいな感じだもんね。
平静を装って答えることにする。
「きょ、巨乳の人だよ?」
「……え、まさかそれ目当てで愛人にしたとか?」
「え、な、なんでそうなるの?」
「だっていつも、やたら胸触ってくるし、好きなんだなとは思ってたけど。違うの? 市子とかどうなの?」
「それね。めっちゃ触るもんね」
「なー。やたら、部位にこだわってくるよな」
めっちゃ察せられているうえに、分かり合えられた。かなちゃんだけでなく、二人にまで僕のおっぱいすきが知られていたのか。
「でもまさか、大きさにこだわってるとは……あれ? もしかして歩、おっぱい小さいから駄目だったの?」
「そそそんなことないけどっ!? 濡れ衣だっ! そんな、まさか!」
「え、反応大きくて引くんだけど」
思わず動揺してしまった。だって、そんなわけないんだけど、じゃあ大きいのが嫌いかって言うとそんなわけないし、大きいのが魅力感じないかと言うとそんなわけないし。
かなちゃんに視線で助けを求めると、2人に両手を広げるようにしてなだめようとしてくれた。
「……まぁまぁ、とりあえず、内緒にしてね?」
「ああ、まぁ、言わないけどさ」
「そりゃ私も言わないけど、そこまで好きとは」
「いや、ほんと違うって。そりゃ、それ関係ないとは言わないけど、でも、全部じゃなくて、あくまで人格込みだから」
「まぁまぁ、わかったから、落ち着いて。大丈夫。私ら、ちゃんとわかってるって、な?」
「うん。大丈夫だよ。ていうかそれだけだったら、私らそんな大きいわけでもないし、選ばれるのおかしいしね。わかってるって」
そ、そうだよね。だって実際僕、小さいのだって好きだもん! よかった分かってもらえて。
それから加恋について説明して、加恋にも連絡して、結局今度会おうかと言うことになった。




