キスとおっぱいの関係性
「ねぇ、加恋」
「なに? 卓也君」
加恋とデートすること、3回。今思えば、最初に出会ってからの友達の流れの時も、そんなに長く何回も顔を合わせたわけでもないのに、すぐ慣れてくれたし、てんぱる割には加恋は適応力が高いのかも知れない。
だからか、こうしてデートをして、正面から見つめあっても、最初ほど慌てたりしていない。手を繋ぐと多少照れくさそうにしているけど、それだけだ。
「今日、家行ってもいい?」
「え? いいけど、どうかした? 疲れちゃった?」
「うーん、まぁ、そんな感じ」
別に、この普通な感じ、嫌いじゃない。むしろ普通のこのほんわかした感じを求めて恋人になった節はある。でも、せっかく恋人になって新たな一面にときめいたりしたので、もっとからかいたい、もとい、もっとどぎまぎした感じの対応が見たい。
なので二人きりになってちょっといちゃつきたいなと思ったのだ。
なんとなく、加恋に対しては僕からアプローチをかけた意識があるので、僕からこう、リードしてあげないとって気持ちがある。
とりあえず家に向かう。加恋は一人暮らしなので、その辺気をつかわなくてもいいのは嬉しい。遠慮なく中に入る。恋人になる前から何度も訪問しているし、専用の食器までおいてもらっているから、割とセカンドハウス的な気持ちだ。
「ただいまー」
「! お、お、おかえり、なさい」
なので何の気なしに言ったんだけど、予想外にキョドられた。振り向くと照れ顔になって居心地悪そうに首をすくめている。
「えへへ、新婚さんみたいだね」
「そっ、う、うん……」
可愛い。素直にうなずくとこ可愛い。こくんって感じで、これで年上で僕より頭一つ背が高いのがまた、可愛い。
大きくて頼りになりそうなのに、こう、ちっちゃくなってる感が癒されるんだよねぇ。
照れてしまってもじもじしている加恋の手をひいて、部屋に入って我が物顔で定位置のクッションに座って、隣に加恋も座らせる。
「な、なんというか、その、あ、改めて二人きりだと、照れますね」
「あ、まぁた敬語になってるよ」
「う。ごめん。だって、うー、卓也君はなれてても、私はその、なれないし」
「えー、ひどいな。僕がなれてるなんて、ビッチみたいに」
「そそっ、そんな言い方、してないわ。び、ビッチって。た、卓也君の口からきくと、なんか、ダメージ食らうから、やめてよ。よくないわ」
「え、あ、はい」
ちょっと揶揄うジョークとしての気持ちで言ったんだけど、思いのほか真顔で返された。これが他の子なら、逆にドキドキしちゃう的な意味でダメージくらってくれるのに。
「卓也君、あのね、そりゃあ、卓也君は色んな女の子と経験あるかもしれないけど、でもね、そういう風に自分を卑下するのはよくないわ。卓也君はいい子だって、私も、加南子ちゃんたちも知ってるもの。ね?」
僕のセリフに戸惑ったような加恋だったけど、おとなしくうなずく僕に落ち着いたのか、目と目を合わせて真剣に子供にいいきかせるようにそう言ってきた。
別に僕は卑下とかじゃなくて、軽い冗談だった。でもそんな場違いなほどの真面目さが、僕への愛情をすごく感じさせてくれて、胸があつくなる。
「う、うん……えへへ、加恋、好きだよ」
「わっ!? ……あの、私も好きです」
このドキドキで固まりそうな体を誤魔化すように、言葉にして伝える。すると体の中にたまっていた熱が漏れ出るようにして、少しだけ冷静になれる。
そんな僕の唐突な告白に、加恋はびくっと肩を揺らすほど驚いてから、どうしてか自室なのに周りの様子を伺うようにきょろきょろして、僕に小首をかしげるように恥ずかし気に微笑んでそう応えてくれた。
嬉しくて、加恋が可愛くてどきどきして、楽しくなってきて、何だか笑ってしまう。
「ふふふふ。うんっ。ね、ちゅーしようよ」
「はえっ!? あ、あの、え、え? は、早くないですか?」
「えー、でも両想いの恋人だし、よくない? いや?」
「よ、よ、よくなくはないけど、えっと……むしろ、したいです」
「うん、僕も」
「え、あの、わ、私、するので、目、目、つぶってもらって、いいですか?」
また完全に敬語になってる。でも、そういうところも、好きだなと思う。そして、僕がリードするのに抵抗はなかったみたいだけど、キスは自分からしたいんだ。そういうとこ、優しくて受け身な癒し系っていっても、やっぱり女の子なんだなって思うと、ドキドキが早くなる。
「……」
僕は言葉で返事をせずに、黙って目を閉じた。ごくり、と唾をのむ音が聞こえてきて、声を出すは我慢したけど、口の端がつりあがるのは抑えられなかった。だって、可愛すぎでしょ。
「……い、いく、わね」
深呼吸とわかる呼吸音でたっぷりとした沈黙をつくってから、加恋は僕と握りっぱなしの右手をあげかけて、おろして床の上で強く握って、反対の手で僕の肩をつかんで、ゆっくりと近寄ってきた。
そのあまりにゆっくりした流れに、わざとではないのはわかっているけど、焦らされていて、すごくもどかしくて、でも心臓はますますうるさくなって、動き出しそうな体を何とか抑えて震えるように待った。
「……ん」
そして僕の唇に、熱い加恋の唇が触れた。加恋の唇は、震えていた。だけどそれを振り切るように、すぐに強く押し付けるようにキスをしてきた。
「ん」
その強さに、そして勢いでおっぱいが当たってきて思わず体が後ろに傾きかけて、慌てたように唇が離れて、僕は目を開けた。間近に加恋の顔があって、背中にまわされた加恋の左手に支えられて、その反動でまたキスしそうな距離だ。そしておっぱいが軽く僕の胸に当たっている。めっちゃ柔らかい。
「……」
ごめんって、謝られるかと思った。大したことないけど押された形になったわけだし。でも加恋は黙ったまま、じっと僕を見つめていて、僕はそのまま、また目を閉じた。
ぐっと、痛いくらい僕の左手は加恋の右手に握られ、加恋の左手は僕の腰に降りて引き寄せられ、おっぱいを押し付けられながらもう一度キスをされた。
「んっ!?」
そして予想外に、舌をいれてきた。
「っ、んんっ、んふぅっ」
めっちゃくちゃぐっちゃぐちゃにしてきた。それも十分びっくりするし、気持ちいいのに、おっぱいも気になるし、もはや僕は混乱していた。
息が切れてよだれがこぼれる頃、ようやく加恋はキスを終えた。
「はぁ、はぁ」
「か、加恋。いきなりすぎ」
「う、ご、ごめんっ。つい、だ、大丈夫だった?」
「だ、大丈夫だけど、びっくりした……加恋も、女の子だね」
「う。まぁ。あの、い、嫌だった?」
勢いでやった加恋は、酸欠気味もあるのか真っ赤だったけど、からかうと急に不安になったのか、さっきの強気なキスはどこへやら、またおどおどとした感じでそう尋ねてきた。
「ふふ。そんなわけないでしょ。驚いたけど、でも、嬉しいよ」
「え?」
「だって、我慢できないくらい、僕のこと好きってことでしょ。えへへ。そんなの、恋人として、嬉しくないわけなくない?」
「たっ、くや君……あの、もっと、キスしてもいい?」
「いいけど、キスだけでいいの?」
「っ……た、卓也君。それはさすがに、一足飛ばしと言いますか」
確かに、僕もそう思う。まだ、初めてのキスをしたばかりだ。でも、恋人からあんなに求められるキスをして、何も思わないわけがないし、なによりさっきから、おっぱい当たり過ぎ。こんなのその気にならない方がどうかしてる。
「そう? 僕は全然、いいと思うけど。加恋は、どう思うの?」
「……その聞き方は、ずるいと思います」
そう言いながら、加恋は僕にキスをして、そのまま抱き上げた。僕はこの日、大きなおっぱいの良さを再確認した。




