プロポーズされた
「あの、ほ、本当に、愛人にしてくれるんですか?」
「そうですね、将来的には。今はとりあえず、恋人ってことで、どうでしょう」
「喜んで!!」
もうキャラ違くない? ってくらい、滝沢先輩はハイテンションだ。
手を握った途端のプロポーズで驚いたけど、握ったからじゃなくて、前から好きと言ってもらえて、嬉しい。それにあんまり急で笑ってしまって勘違いさせてしまったけど、一日だけでもいいとか養うとか、そんな思い詰めるほど思ってくれてるのだと思うと、申し訳ないけど悪い気はしない。
「えへ、へへへ。へへへ。なんか、ほんと、すみません。急な展開で、ホント、夢みたいで。……え、なんで、手をにぎってくれたのか、聞いてもいいですか? なんだかまだ、よくわかってなくて」
「え、えっと。そも……そもそも僕が、その、滝沢先輩のこと、なんか、えへへ、いいなっていうか。ずっと一緒にいてほしいので、好きになってもらいたいなって思って、かなちゃんに相談して、ああなった感じです」
「!? あ。ああ……」
滝沢先輩は、顔を真っ赤にしたかと思うと、そのまま勢いよく後ろに倒れて、そのまま横に転がってい行き、スクリーンと横のスピーカーにあたった。
「あいたっ。ご、ごめんなさい。えっと、あの、一回映画とめてもいい?」
「あ、はい。どうぞ」
今日借りたところなので、まだまだ余裕がある。後で見たって全然大丈夫だ。滝沢先輩はまず電気をつけて、DVDもスクリーンも全部片付けて、机まで戻して、その上にカップとか置いて僕らと対面に座りなおした。
「えっと、あ、改めて、加南子ちゃんもなんだけど、その、こ、今後とも、よろしくお願いします」
「あ、はい……と言うか、すごい、改まりますね。机まで戻さなくてもいいのでは? 大丈夫ですか? まだ混乱してますか?」
かなちゃんが何だか先輩ぶりながらそう滝沢先輩に尋ねると、滝沢先輩は正座状態で、お行儀よく両手は膝の上でぎゅっと握りながら視線を泳がす。
「だ、大丈夫です。ただ、あまりに嬉しすぎて、その、失礼なことをしそうなので、ちょっと距離をとっただけです」
「失礼なことって、僕ら恋人になるんですから、そんな気にしないでいいのに。あ、てかこれから名前で呼んでいいですか?」
「も、もちろんです」
「何て呼ばれたいですか?」
テンション上がって言い出したけど、下の名前覚えてなかったことを思い出したのでうまいこと誘導してみる。特に疑問には思われなかったらしく、滝沢先輩は戸惑ったように胸の前で両手をあわせてもじもじしなだす。
「え、えっと、急に言われると、えっと、普通に、か、加恋と、よ、呼び捨てにしていただけたら」
「え、呼び捨てですか?」
「は、はい。と言いますか、敬語も、恋人になっていただけるなら、ないほうが」
「いや、まぁ、本人がいいならいいんだけど、むしろ逆に、ずっと敬語つかってるよね? そろそろため口に戻ってきてよ」
何故か遠慮がちに言われたけど、まぁ不自然ではないので従うことにする。今だから年の差も気になるけど、いずれ大人になれば気にならないだろうし、恋人っぽさのために僕が呼び捨てとかは全然いい。多少違和感なくはないけど、まぁ、してほしいって言うなら努力する。
でも、たき、加恋こそちゃんとため口に戻ってきてほしい。敬語じゃない方が、包容力感じるし、時々使ってくるのはぐっとくるけど、ずっとだと距離感じるし。
僕の指摘に、加恋は慌てたように口元を抑えてから、両手を頬に当ててぐにぐにと揉み始めた。何してるの? 目元はすごいにやけてるけど。
「す、すみ、ご、ごめん。あの、なんか、すごい、照れて。年上なのに、すごい狼狽えてしまって、誤魔化したくて、敬語をつかって、た、はい。ごめん、情けなくて」
「可愛い」
「えっ、……あ、ありがとう? えっと、格好いいって言ってもらえるよう、頑張るわ……ぇへへ」
困ったように首を傾げて眉尻をさげつつも、まだ喜びは持続中らしくてにへらと笑う加恋、可愛い。頭撫でたい。こんな小動物的可愛さを隠していたとは。侮れないな!
「別に格好良くならなくても、この間までの感じが好きだから、そのままでいいですよ」
「……うぅっ、た、卓也君、すごい、嬉しいんだけど、その、私まだ、慣れてないから、できれば手加減してくれると、嬉しい。もう、理性振り切れそうだから」
「えー、理性振り切れるとどうしちゃうんですかぁ?」
「……む、無理やりキスとかしちゃうから」
ほほう? 真っ赤な顔で言われて全然説得力ないし、可愛いし、ついつい、意地悪をしたくなってしまう。
机越しに身を乗り出して、顔を覗き込んでみる。真っ赤な顔で、瞳は潤んで、でもけしてそらさない。僕のことが好きって感情が伝わってくるような熱のある目で、なんだかドキドキしてくる。
「加恋にできるの?」
「……か、加南子ちゃんいるのに、そういうのやめてよ。嬉しいけど、無理だから」
「えー。別によくない? 駄目?」
視線をそらされたので、かなちゃんを振り向いて聞いてみる。さっきから黙って気配を消してくれているかなちゃんは、いつも報告したあととても燃えているようなので、まぁいつも燃えてるけど、そういうの好きな感じの性癖だろうからむしろ喜ぶんじゃない?
と思っていたんだけど、かなちゃんは困ったように苦笑する。
「さすがにちょっと、やめてほしいんだけど。と言うかこの会話も、あんまり私の前でしてほしくないんだけど」
「えー?」
どうせ後で全部言うのに? しかもかなちゃん、僕から相手に言ったことは割と詳細を聞きたがるのに。
でもさすがに、加恋の前でかなちゃんに全部報告してるみたいなのは言いにくい。そこはさすがに。ていうかどういう空気で言ってるのとか聞かれたら気まずい。
「じゃあ、今度二人っきりの時にまた追及するとして、とりあえず今日は、これからよろしくお願いしますってことで、えっと、とりあえず、お互い呼び捨てで、ため口ってのはいい?」
「え、ええ。お願い。あの、他の愛人の子とかとは、どういう感じなのかとか、そういうの知りたいんだけど。加南子ちゃんとかとも、その、どういう感じなのかとか、知りたいんだけど、お願いできないかな? 加南子ちゃん」
「あれ?」
「わかりました」
「あ、ごめんね、加南子ちゃんも、ため口でいいよ。私は愛人予定で、加南子ちゃんが正妻になるんだし」
「えぇ、いやそんな、えーっと、やりにくいので、そこは普通に敬語でお願いします」
「そう? じゃあ、それはわかった。できれば二人で話したいんだけど、都合のいい日教えてくれる」
「ちょっと待ってくださいね」
……え? なんでかなちゃんに聞くの? そこ普通僕に聞くとこじゃない? そんでかなちゃんもなんで普通に応えてるの?
正直ちょっと不満だ。たき、じゃなくて、加恋がさっき動揺しまくってたみたいに、僕だってちゃんと嬉しいし、浮かれてる自覚はあるのに。なんだもう落ち着いて、僕置いてかなちゃんと話しちゃうかな。
何か空気変わってしまって、その後二人が予定合わせてからは普通に改めて映画見ることになった。なんだか釈然としない展開だったから、二人と一緒に手を繋いでおいた。
なんか知らないけど喜ばれて、それぞれが左右から飲ませてくれたりポップコーン食べさせてくれて王様気分になったので、まぁいいか。




