恋かどうか
「そっか、滝沢先輩、か。うーん、まぁ、わからないでもない。と言うかむしろ予想通りと言うべきか……、まぁ、複雑だけど」
「う、うん。ごめんね。でもかなちゃんにしか、相談できないから」
「ああ、謝らなくていいよ。むしろ、言ってもらえて嬉しいよ。そこで気使って、一人で悩まれるとか嫌だし。たとえどんなことでも、私はたくちゃんの力になるから、安心して、今後も何でも相談してよ。ね?」
「う、うん……ありがとう」
滝沢先輩への気持ちって、どうなんだろ。恋なのかな。と言う旨を相談すると、かなちゃんは苦笑しつつも受け入れてくれた。
やっぱりかなちゃんに相談で合っていた。よーし、このまま、この気持ちをはっきりさせるぞ。
「じゃあ、とりあえず、滝沢先輩に、一応恋人がいるかとか、確認してから、どうアプローチしていくかが問題だよね」
「ん? あれ、僕の話うまく伝わってないね。あのね、まずこの感じが、もう恋とかって言っていいのかってことなんだけど。凄い微妙だし」
「……えへへへぇ、照れる。ほんと」
「え? 急に何、引くんだけど」
蕩けそうなほどの照れ顔は、可愛いんだけど、唐突にこっちの気持ち追いついてない状態でされると、普通に引く。
真面目な相談の最中だって言うのに、なに、ほんと。僕の視線に、かなちゃんは頬に手をあて、引き締めようとしているのか咳払いまでしてから口をひらく。
「そう言われても。だって、恋って言っていいか微妙って言うのが、私のこと大好き過ぎて、それに比べて少ないからって言うのが、ね。照れるじゃん。私もたくちゃんのこと、めちゃくちゃ愛してるよっ」
「……いやまぁ」
そ、そういう意味に、なるけど、さ。うう。でも調子に乗って軽く愛してるよとか言われても、うー、嬉しいけども! ああ、何だか僕も恥ずかしくなってきた。
違う。違うんだよ。そりゃ、ほんと僕だって大好きだし、もう、愛してるけどさぁ。でもそれと全然違うって言うかむしろ逆な話じゃない?
「ふふふふ、照れてほんと、可愛いなぁ。ねぇ、キスしていい?」
「ば、馬鹿じゃないの? お姉ちゃんもお母さんも下にいるんだよ?」
「そこまで言ってないでしょ? ほっぺにちゅっくらいいいでしょ?」
「う……、まぁ、そのくらいなら」
「ありがとう」
かなちゃんはにっこり笑って、僕は少しだけどきどきしつつ目を閉じて待つ。かなちゃんの気配が近づいてきて、普通に僕の唇にキスした。
「……かなちゃん?」
「へへ、ごめんごめん、だって。目まで閉じられたら、しょうがないでしょ」
目を開けると、かなちゃんはいたずらっ子みたいな笑顔で、悪びれずに謝ってきた。うう。可愛いから、普通に許してしまう。ていうか、まぁ、最初から全然怒ってない訳だけど。
でも一応、嘘をつかれたことになるので、形だけ怒って、めっとおでこをつついておいた。反省したふりをするかなちゃんは、はーいとお行儀のいい返事をした。
「とにかく、本題に戻るよ」
「本題? ああ、滝沢先輩でしょ? ていうか、ずっと一緒に居てほしいレベルで十分でしょ。むしろ、それが霞むくらいって、ほんとどんだけ私のこと好きって言うか」
「もう、それはもういいでしょ」
「うん。今度、ちゃんと二人きりの時に蒸し返そうね」
「……」
「で、じゃあ、今度はアプローチしていくことについて、だね」
「う、うん。でも、ほんとに積極的に協力してくれるんだね」
「まぁ、だって、そりゃ、嫉妬なくはないけどさ。たくちゃんの一番は私だって信頼はあるのとは別にね。でもまぁ、たくちゃんがより幸せになるなら、その手伝いをしたいってのも本音だよ。誰より一番近くで、たくちゃんを支えるって、決めてるから。たとえどんなことでもさ」
「かなちゃん……」
すごい、わざとらしいほどのキメ顔で、手を握って言われた。本音なのは間違いなくても、二人きりのいい雰囲気を続けたいが為ってわかってる。
わかってるけど、すごいときめく。はー、心臓ドキドキする。カッコイイなぁ! そんで僕のことめちゃくちゃ好きじゃん! 僕も好き! 愛してる!
「ねぇ……、その顔、キスしたくなってるでしょ」
「……今ので台無しだよ」
「え、嘘っ。えー、あ、でもちゃんと本気だからね?」
「そこは疑ってないし、ドキッとしたけどさ。とにかく、今日はもうしないから」
「えー、まぁ、しょうがないか。じゃあ、とりあえず、恋人の有無確認するでしょ? それから、男の子のタイプとか聞くでしょ? えー、あと、なんだろ」
まぁ、とりあえずそこからだよね。恋人いたら普通に無理だし。僕だって、奪うとかそんな気は全くない。まぁ、今のとこ影も形もないし、本人も男の子と話すことすらないって感じだったし。でも好きな人くらいいるかもだし、タイプは大事だよね。
「タイプが全然違ったら、もう無理だし、諦めるしかないけど、行けそうだったらどうするか、だよね」
「え、なにその諦めの良さ。頑張ろうよ」
「そんなこと言われても。ごりマッチョが好きとか言われたらさぁ」
「あ、それはあきらめて。と言うか、ぶっちゃけタイプとか関係ないと思うけどね」
「ん? なんで?」
「だってたくちゃんくらい可愛い男の子に近くで微笑まれたら、もうタイプとか関係なく好きだもん」
「それはかなちゃんのタイプが僕だからでしょ」
何の参考にもならないこと言わないでほしい。まぁ、そんな外見重視って感じしないし、強さ求めそうなタイプでもないし、割と希望は持ってるけど。でも年上とかだと困る。大人になってからなら話変わるかもだけど、今だと年の差って大きいし。
ていうか、仮に性格で、頼りがいがある人とか言われて、それに寄せることはやろうと思ったらできるでしょ。できるけど、それで好かれても微妙って言うか、だって滝沢先輩には家にいて癒してほしいわけだし。
「いやまぁ、その通りだから、完全に客観的に見るの難しいけどさ。でもほんと、十分たくちゃんは、世間的に見ても上位の可愛さだと思うんだ。そんな子に、笑顔で手とか握られたりスキンシップでもされたらもう、好きになるでしょ。アイドルだってそんな感じじゃん」
「あ、アイドルって。まぁ、でも理屈はわかる。やっぱり一緒に居て、距離近いと、心の距離もちかくなりやすいもんね」
「そうそう。そうじゃなきゃ、たくちゃんが私をそこまで好きとかおかしいでしょ?」
「いや、なんでそこそんな急に卑屈なの? おかしくないよ、別に」
そりゃ小さい時から傍にいたの大きいけどさ。アイドルの商法とかでも、握手とかあるし、言わんとすることはわかるんだよ。わかるけど、別に僕らそれだけで相思相愛なわけじゃないからね? 普通にかなちゃんが魅力的な女の子なんだっての。
「かなちゃんには魅力的なとこいっぱいあるし、別に距離だけじゃなくて、普通に好きだよ。……言わせようとしてわざと言ってる?」
「え、うーん、別に、そういう訳じゃないよ。たくちゃんはそう思ってくれてるかもだけど、私って別に、中肉中背で特にこれといった特徴のない平凡女子なわけだし」
かなちゃんは頭を掻きながら、本気っぽくそういう。いや、何その表現。顔だって普通に可愛いし、成績とか余裕で平均以上でしょ。そりゃまぁ、飛びぬけているって程じゃないけど。でもそれ、特に勉強も運動もできない僕をディスってない?
「そんなこと言ったら、僕だって特徴あるわけじゃないでしょ」
「いや、明らかに天然ボケでしょ」
「そ、それ言ったらかなちゃんだって天然なとこある、って言うか、プラスなポイント言うとこでしょ!?」
「えー、プラスだよ」
「ボケまで言ってるじゃん、ていうか、別に、何か優れたところがあるから好きになるとかじゃないしね。もっとこう、雰囲気とか、話が合うとか、そういうとこでしょ」
「うーん。言ってることはもっともだけど、たくちゃんの愛人みんなタイプ違うしね」
「それはまた、別のお話なんですよ」
一番以外はまぁ、割とバリエーションあってもそれはそれって言うか、ね?
とにかく、別に、何があったからとか、そう言うので好きになったわけじゃない。そんなこと聞かれても困る。あえて言うならかなちゃんの全部が好きなわけだし。
「とーにーかーく、かなちゃんのことは、全部好きなんだから、変に卑下するのやめて。そう言うのは好きじゃないよ」
「う、うん、わかったよ。へへ、でもいっぱい好きって言ってもらって、得しちゃったな」
「……本当は、言わせるためにわざと言ったでしょ」
「そんなことないってー、もう、疑り深いなー」
まぁ、とりあえず、滝沢先輩にはそれとなく聞いて、アピールしてみるということで、話はまとまった。




