滝沢先輩とクリスマス
「メリークリスマス、滝沢先輩」
今日は滝沢先輩との三人でのクリスマス会だ。いつでもいいと言う言葉に甘えて、みんなとデートして一番最後だ。家族のも当然済ませて、もう相当クリスマスを満喫したけど、今日もクリスマスと言っていることに違和感を覚える。
でもまぁ、楽しいからいいよね! クリスマスは今日で終わるけど、すぐに年明け! そしたら今度はまたお祭り騒ぎだ! いやー、昔はこんなに、冬休みが楽しいなんて思わなかったなあ。
「わあ、ありがとうございます!」
「こちらこそありがとうございます。開けますねー」
僕とかなちゃん、そして滝沢先輩でプレゼント交換だ。プレゼントは無難にタオルにした。一人暮らしだし、消耗品だから何枚あってもいいかと思って。
そして、滝沢先輩からはー。と。かなちゃんが横から覗き込んできているので、丁寧に包装紙を解いて空ける。
「ん!? あれ、なんか、え!?」
「た、滝沢先輩、間違えてません!?」
出てきたものにびっくりして変な声が出る僕の肩を叩きながら、かなちゃんが滝沢先輩に確認すると、滝沢先輩はえへへと何故か照れ笑いする。
「え、あ、はい。えっと、その、何回も来てくださるので、その、二人専用の食器があるといいかなーと思いまして」
「あ、あー」
入っていたのはカップセットだ。カップに受け皿、小さいスプーンとフォークもついている。赤と青で、なんか植物系の柄も入っていて、立派でしっかりしたいわゆるお高そうなものだ。
こんなのをもらうのはさすがに、と思ったけど、どうやらよく来るから専用の物を用意したいとは思っていたらしい。だけど勝手に用意しても専用ってわからなかったら意味ないし、だからって勝手にして言うのも恩着せがましいって言うかなんか、ってことで、いい機会なので用意したらしい。
うーん。なんか、申し訳ない。申し訳ないけど、本人曰く安物、らしいし、ここにおいておいて使うなら、仮に僕らが使わなくなっても他の誰か専用にできる。お客様のを使い続けるのがなんか嫌って思うのは滝沢先輩の自由だし、まぁ、ここはありがたく受け取っておこう。
「ありがとうございます! 大事に使いますね! あ、今度みんなでお茶できるようなお菓子とか買ってきますよ!」
「あ、ありがとう。でもその、できればでいいんだけど、お菓子とかはいいから、その、できるだけ長く、多く、家に来てくれる関係が続けばいいな、何ていう感じの、そう言う願望込みだから、その、えへへ、また、遊びに来てよ」
ちょっとだけうつむきながら、照れて頬を染めながらそんな風に言われて、何だか僕は嬉しくて、ちょっとドキドキしながら元気よく頷く。
「滝沢先輩……! はい!」
「滝沢先輩、ありがとうございます。気をつかわせてしまってすみません。今後とも、よろしくお願いしますね」
「うん。ありがとう、加南子ちゃん、卓也君」
ほんわか、と言う形容詞が似合う柔らかな笑顔で頷いた滝沢先輩。
あー、なんか、結構、好きかも。と自然に思った。本当にめっちゃいい人で、かなちゃんにも優しくて、こんな風にゆっくりした時間を過ごしたら癒されるし、ずっとこんな空気でいれたらいいなって自然と思った。
う。やば。なんか、かなちゃん切っ掛けで、半ば冗談で愛人候補候補的に言ってたのあるけど、本当に結構、真面目に好きになっちゃったかも。
もちろん、かなちゃんに比べたら別だけど。なんていうか、上手く言葉が出ないけど。かなちゃんが絶対必要な空気なら、できればずっと傍にいてほしい、休憩所って言うか。酸素ボンベって言うか……僕、めちゃくちゃ例え下手だな。なんだ。自分で考えて冷めたわ。
ま、まぁまぁ。とにかく。どうしようかな。別に、今の友達関係でも全然不満はない。でも、できるなら他に恋人をつくってほしくないし、できるなら、おっぱいだけじゃないけど、そう言う関係もいいなって思う。
うーん。こういうのも、恋って言っていいのかなぁ? ていうか、かなちゃんアプローチとか言ってたけど、実際にするのどう思うかな? だいたい、まだ何十回も顔を合わせたわけじゃないし。
「ん? あれ、たくちゃんどうかした? お腹でも痛い?」
「え? な、何で?」
「いや、なんか、ちょっと挙動不審って言うか、若干助けを求める感じで私見たでしょ?」
「んー。そういう訳じゃないけど、まぁ、相談したいことはあるけど、急ぎじゃないから」
「え? そ、相談? そんな、悩みなんかあったの? 気づかなくてごめん」
「いや、大丈夫だから、変にシリアスしないでよ」
「そ、そう?」
「あの、何か、あれなら私、席外そうか?」
「あ、いやいや、滝沢先輩の部屋なのにそんな! すみません、ちょっと気になることがあるだけですから。ほんと、全然大したことないんで」
「そ、そう? ならいいんだけど。私のことは気にしないでいいからね? 確かに年上だけど、私は対等な友達だって思ってるからね?」
う。いい人。身を乗り出した拍子におっぱいも揺れてるし。好きだと思うと、いつも素敵なおっぱいが、さらに魅力的に感じる。はー、触りたい。
「はい。ありがとうございます。でも今はほんと、大丈夫なんで、急に思い出しただけで、全然緊急性ないんで。じゃ、そろそろご飯食べましょうよ。このチキン、評判良かったんですから!」
「あ、うん。じゃあ、そうね。冷めないうちに食べましょうか。せっかく作ってくれたものだものね」
僕がやや強引に話題を変えると、すっと表情も引きずることなく自然にのってくれた。こういうとこ大人だなって思うし、うん、いいね。
「じゃあ、いただきます」
「いただきまーす」
「たくちゃん、後でちゃんと相談してよ?」
「わかってるから、食べるよ」
「あ、うん。いただきます」
とにかくクリスマス会は無事に終了した。持って行ったおかずも、ちょっと大口叩いたから口に合わなかったらどうしようかと思ったけど、美味しい美味しいと言ってくれて、とてもいい気分だ。
夕方ごろ、まだ早いと思うけど、滝沢先輩は心配していつも早めに、しかも時間じゃなくて日が暮れる前にと帰させる。冬だからまだまだ早いのに。しかも、駅まで送ってくれる。本当いい人。はー、なんか、僕が将来働くとしてさ、毎日駅まで送り迎えしてくれるとかさ、何かそう言うのよくない?
滝沢先輩って、絶対いいお嫁さんになるよね。
「で、なんなの? 気になることって?」
さすがに人が近くにいる電車内では聞かれなかったけど、そわそわした様子を隠さず、最寄り駅についてすぐに聞かれた。早い早い。確かに緊急じゃないとか、別に重要なことじゃないって風にはしたけど、普通に公道で聞くのやめて。
「家で言うよ」
「え、もったいぶる。真面目な話なの?」
「一応、相談って言ったじゃん。真面目な話だよ。だから、明日、僕の部屋でいい?」
「てか、まだ時間あるし、今から部屋行ってもいい?」
できるだけ早く聞いて、少しでも早く、たくちゃんの悩みを解決したいんだ。とか言われた。うぐ。あー、めっちゃ好き。ほんと。心臓うるさいくらいだ。
こういうの感じると、やっぱり、滝沢先輩へのときめきって小さいし、ホントに恋って言っちゃっていいのか微妙だ。それも含めて、相談してみよう。
恋人にする相談かよくわからないけど、でも、かなちゃんだ。なら話は別だ。こんなの、かなちゃんにしか相談できない。
「うん。じゃあ……お願い。相談に乗ってよ」
「うん!」
かなちゃんは力強く頷くと、僕の手をぎゅっと握ってくれた。




