クリスマスが今年もやってくる
「どやぁ!」
「うわぁ、たくちゃんが口で効果音だすくらい成績あがってる!」
「……説明的なセリフやめて」
終業式の日、頑張っただけあって、ちゃんと成績は上がった。成績表にも表れていて、平均3.8。確か1学期はもうちょい低かったから、三学期もうちょいあげる必要はあるけど、まだ一年なことを考えたら、十分目標の大学が圏内だと思う。
だからみんなで見せ合う時に、つい得意になって効果音をつけたらご丁寧に説明された。なんだこのかなちゃん。
「そ、そういうかなちゃんはどうなのさ」
「ん。まぁ、一応上がってるけど、たくちゃんほどじゃないかな」
「……ふーん。みんなは?」
見せられた通知表は、数値的には確かにそうだけど、3から4にあがるのと、4から5に上がるのでは難易度が違う。僕は静かにスルーした。
え? みたいな顔のかなちゃんは無視して、他のみんなのを見る。ていうか普通にみんな見せてくれるな。
ほー。なるほどー、うんうん。
「智子ちゃんは予想通りすぎて、面白みはないね」
「う、うるさいな」
「2人は前回と同じ感じだね」
「いいんだけど、なんか卓也君が寸評する感じになってるね」
智子ちゃんは平均よりちょっと下、二人は前回と変わらず、平均よりちょっと上って感じだ。
市子ちゃんのツッコみを、面倒なのでこれまたスルーする。なんてったって、今日は終業式。式も終わって、部活もないし帰るだけだ。
今年は少し早くて、明日はまだ21日。クリスマス会もまだだ。時間的に余裕があるし、別にそれが嫌とかじゃなくてもちろん楽しみだけど、予定がないとなんとなく気楽で、楽しくなる。……いや、わかってるよ? こういうとこがコミュ障何だって。気心知れてる相手なのにって。でも、気楽なんだからしょうがないじゃん! 会ったらそれはそれで楽しいけど、それとは別で予定ないと気楽でそれはそれで楽しいんだよ!
……誰に言い訳してるんだ、僕は。とにかく、それとは別に、知らない人とかとのコミュ力を鍛えるとこだから、これは別にいいんだ。
「ねぇ、24日のクリスマス会だけど、食べたい料理とかある? リクエスト聞くよっ」
「え? 卓也君が作ってくれるんですか?」
「もちろん」
「え、そうなの? 確かに得意ってのはわかるけど、てっきり惣菜を買うのかと」
「うわ、それめっちゃ楽しみなんだけど。え、リクエストいいのか? まじで?」
「うん。あ、一人一品でお願い」
あんまりいっぱい言われて、全部作れないとなると、誰の選ぶかとかあるし、やめとこ。
クリスマス会は僕の家で行うことになっている。24日は火曜日だ。なので昼間のクリスマス会にお母さんはいないけど、お姉ちゃんがいる。と言っても、途中から退出してくれるらしいけど、どうやら僕のかなちゃん以外の彼女とかを見たいらしい。
一応、みんなにも言っている。プレゼント交換前にはいなくなるけど、お昼もあるし、単なる恋人じゃなくて、将来を見据えた関係だし、顔を合わせてくれてもいいかなって。まぁ、今のとこ市子ちゃんとかなちゃんの両親に挨拶してない僕が言うのどうかと思うけど、みんなは納得してるしね。
「じゃあ、私はお味噌汁でお願いしますっ!」
「私は唐揚げかな」
「えっと、じゃあ、私は……カレー、とか、結構家庭の味出るし、食べてみたいんだけど」
「……いいけど、めっちゃ普段の家庭料理だね」
カレー、唐揚げ、味噌汁って。普段つくるメニュー過ぎじゃない? いやどれも作れるし、どれもそれなりに作ってるから、困らずすぐ作れるけど。
けどさぁ、なんか、もうちょい特別感欲しいでしょ!? クリスマスっぽさ下さい! そりゃタンドリーチキンとか言われたら微妙な反応になるけど!
「か、かなちゃんはなんか希望ある?」
「ん、そうだねー。クリスマスだし、タンドリーチキンとか?」
「ピンポイントで!?」
「え?」
な、なんなの、かなちゃん! 僕と同じでクリスマスっぽさを求めたのはいいけど、ピンポイントでタンドリーチキン、求める!? そもそも僕、タンドリーチキンのことビジュアルすらよく知らないんだけど!?
「と、とりあえず、調べてみるね。できそうならするよ」
「あ、ほんと? 嬉しいけど、なんだかやる気なさそうな返事だね」
行けそうなら行くと一緒にするな! ちゃんと検索位するよ! そんでマジで簡単ならするよ!
と言いながら、ささっとググってみる。ふむ? ん? あ、タンドリーチキンってインド料理じゃん! クリスマス関係ない! 完全に間違って覚えてたし、かなちゃんも同じ間違いしていたから、普通に会話が成立してしまった。
えっと、クリスマス、チキンで検索、と。あ、ローストチキンね。ていうかレシピ見たら丸ごとじゃなくてもいいっぱいし、普通に味付けして焼くだけじゃん。できそう。
「よし、いいよ。ローストチキンは僕に任せなさい」
「ありが、ん? うん。ありがとう。楽しみにしておくね」
「うん」
さりげなくワードも入れ替えて、勘違いしたのはなかったことにする。
あ、そうだ。滝沢先輩にも持って行ってあげよ。さすがに滝沢先輩を一緒に呼ぶわけにいかないけど、お世話になっているお礼も兼ねてね。同年代でもないし、愛人なわけでもないんだから、呼んでもお互いに困るよね。
ていうか、学校が同じだからともかく、仮に学校外で愛人ができたとして、普通に会う機会ってあんまりないし、別に紹介することないのか。
○
学校から帰って、改めて着替えてから家をでる。クリスマス会で交換するプレゼントの用意をしなきゃ。一応、恋人への個別のやつはそれぞれ本人とのデート時に買っている。
僕にさりげなく相手が欲しいものを察する能力とかないのはあきらめてるし、相手からいらないものもらっても嫌だしね。
でも交換会だとさすがに、誰にあたるかわからないから、まだ悩んでいたのだ。と言う訳で、ネタバレを避けるためにお姉ちゃんと買い物に来ている。
「今日はありがとうね、お姉ちゃん」
「いや、たまにはいいさ。それに、母さんへのプレゼントなら、のるに決まってるだろ」
ついでに、今年はお世話になりましたってことで、家族にも何かって考えている。お母さんに何か一緒にプレゼントしない? と持ち掛けると、すんなり乗ってくれた。お姉ちゃんあては、これこそ別に全然好きなものじゃなくても弟補正で許されそうだし、サプライズで今日の様子を見て決めることにした。
「とりあえず、先にみんなのへプレゼント何がいいと思う?」
「適当でいいだろ。誰かわからないんだから、食べ物とか好き嫌いあるものは駄目だし、かさばっても困る。小さくて消耗品がいいだろ。季節感から手袋、なんてのもサイズがあるからな。文房具か、ハンカチとかくらいがいいんじゃないか?」
「う、うん」
テキトウ、とか言いながらめっちゃ的確にアドバイスしてくれた。さてはプレゼントになれてるな! リア充め!
まぁいいや。確かにその通りだ。まぁ飲食系に関しては、少なくともみんなの嫌いなものはだいたい知ってるけど、共通した好物ってなると微妙だしね。
「じゃあ、ハンカチかな」
文房具だとさすがに、ちょっとクリスマスっぽくなさ過ぎって言うか、実用品一辺だし、今持ってるのを同じとかだったら、見分けつかないし微妙だ。
ハンカチなら、クリスマスっぽい柄にできるし、文房具ほど使い捨て感もない。お姉ちゃんと相談しつつもハンカチを買った。
「じゃあ、お母さんだね」
「そうだな。母さんには、やっぱり、形に残る方がいいな」
「え、そう?」
「そうだ。お前が元気になった記念の年だしな。初回だし、私が多めに出すから、少し奮発しよう」
「うーん……いや、僕だって、お年玉溜まってるし、だせるよ。ここはちゃんと、等分にしよう」
「そうか。わかった。じゃあ、なにがいい? 部屋に飾って長持ちするような、目につくものがいいな」
「花は枯れるもんねぇ」
「そうだな。花もつけてもいいが……時計はどうだ?」
「えぇ……いや、なんか微妙じゃない? 欲しがってるわけでもないのに」
お礼の気持ちで、日々見れるようなものって。そりゃ時計毎日見るけどさ。でも単なる飾り……木彫りの熊とか迷惑だし、そうじゃなくてオシャレなやつでも、本人の好みあるしなぁ。
最初は軽い気持ちだったけど、お姉ちゃんの言葉を聞いたら、僕もちゃんと記念になるようなものがいいって思うし。
「あ、写真たてとかどう?」
「ん? そうだな、我が家にはあまりないな。確か母さんの部屋には一つあって、子供の頃の家族写真があるが、新しい写真をとって、リビングのテレビ台辺りにおいてもいいな」
「うんうん。いいと思う! ちょっと欧米っぽいけど。家族記念っぽいでしょ」
「ああ。それだけだとさすがに寂しいし、花……そうだ。ブリザードフラワーなんかどうだ?」
「ブリザード? よくわからないけど、造花のこと?」
「私もよく知らんが、長持ちするらしい。たぶん名前からして、押し花みたいに乾燥してて長持ちする本当の花なんじゃないか?」
「はー、なるほど。じゃあそれで!」
ブリザードフラワーが予想以上に高価だったけど、でも最初に思い切って出そうと思っていたので、それほどではなかった。生花が安いから予想外だっただけで。
ちなみにお姉ちゃんにも、小さいブリザードフラワーをこっそり買った。こっそりって言うか、お姉ちゃん以外に上げるぶんとして買った。
クリスマスを家族でする日に上げようと言うことになったので、それまでお姉ちゃんに保管していてもらう。えへへ、当日が楽しみだなぁ!




