愛人暴露 後半 滝沢視点
「え、愛人がいるの? い、意外ね……」
滝沢先輩にかなちゃんが、友達になりたいと直接的なアプローチしたことで、なんとなく始まった友人関係は、週に一回くらい三人であって遊んだり勉強を教えてもらったりしている。一カ月が経過して、滝沢先輩も僕らに慣れて普通に話せるようになった。
そして今日も滝沢先輩の部屋で勉強して、雑談していると、そろそろクリスマスだねーという会話から、どう過ごすかとなった。
僕はクラスメイト込みでクラス会してからの、順番にクリスマスデートをする予定だ。と言うことを話すと驚かれた。
「あれ? 言ってなかったでしたっけ? まぁ、愛人って言っても、あくまで予定で、今は普通にみんな恋人って感じなんですけど」
「……す、すごいですね」
「……はぁ、まぁ」
なんか最近感覚マヒしてきてたけど、滝沢先輩が普通にドン引きしてて、冷静になる。確かに、世間的な評価をすっかり忘れていた。
僕は隣のかなちゃんの太ももを机の下で叩いて、フォローしてくれるようお願いする。
「ん? なに?」
真面目に勉強していたかなちゃんは全然会話を聞いてなかったみたいで、普通に聞いてきた。もう!
こうなったら隠してもしょうがない。小さな机で向かい合って勉強を教えてもらっているので、さすがに内緒話は難しいので、普通に話す。
「僕に愛人いることで引かれてるから、フォローして」
「え? ああ……えー、滝沢先輩、その、まぁ、ご覧のとおり、たくちゃんはあまりに魅力的すぎて、私一人の器におさまりきらないので、愛人形式をとってます」
「それはそれでどうかな」
フォローしました感やばいね。まぁ、思いっきりフォローしてって丸見えで促してるんだけどさ。
僕のつっこみに、かなちゃんはむっとしたように眉をよせて、太ももに置きっぱなしになっていた僕の手を払って、仕返しとばかりに僕のふとももをさすりながら文句を言ってくる。
「うるさいなぁ。急にふられても無理でしょ。それに、合ってるでしょ? 実際、私ひとりじゃ足りないところの為に、愛人をってのが始まりなんだから。私責任でって、たくちゃんが女好きだからじゃないってフォローしたのに、何が不満なの?」
「うー、不満って言うか、事実だし。僕はもっとこう、いい感じにフォローしてほしかったんだけど」
「曖昧過ぎ。駄目。出直して」
「えぇ、なにそのダメ出し」
「ふふ」
あ、笑われた。室内で床に座って机に向かっていると、つい自室感覚でゆるんでしまって、滝崎先輩を無視していた。不快じゃないだけマシかもだけど、笑われてもちょっと。
顔を向けると、目が合った滝崎先輩は微笑んだ。
「ふふふ、ごめんなさい。でも、うん。よくわかったわ」
「え、何がですか?」
「2人が凄く仲良しだから、愛人でもきっと、そんなぎすぎすした感じじゃないんだろうなって」
「あー、まぁ、二人が本心からどう思ってるかはともかく、割り切って、普通の友達付き合いはしてますよ。普通に他の友達込みで遊んだりしますし」
見守るような笑顔で言われて、なんだか照れくさくなった。かなちゃんも同じらしく、頭を掻きながらそう付け加えると、ますます滝沢先輩は驚いたように目をまるくした。
「へぇ。なんだか、すごいのねぇ。何というか、そもそも私は男の子と縁遠いからあれだけど、愛人予定の子がいるなんて全然聞かない話なのに、普通に言って、平和にそういう関係ができるものなのね」
「まぁ、特殊事例かもしれませんけど、男の子の数が少ないわけですし、あんまり気にしてもしょうがないですよね」
「そうね。本人たちが納得していれば、それでいいわよね」
なんとなく綺麗にまとまった。さすが滝沢先輩だ。何というか、ものすごいほんわか力。
友達付き合いしてわかったけど、基本的に滝沢先輩って、すごい善人って言うか、ポジティブって言うか、怒ったりとか全然ないし、空気感がやわらかいんだよね。だから滝沢先輩の部屋でも自室レベルでくつろいでしまうくらいになったし。
「はい。そう思います」
「あ、そうだ、滝沢先輩。クリスマス、よかったら滝沢先輩とも遊びたいです。忙しいでしょうし、年末年始と混ぜて一気にでどうでしょう。あ、てかもしかして、実家帰ったりされます?」
滝沢先輩はマンションで一人暮らしをしていて、実家は隣の隣の市だ。大学に受かったので出てきたらしい。
なので長期休暇は実家かな、と思ったんだけど、そうではないらしい。
「いえ、一時間くらいで帰れる距離だし、わりとちょくちょく帰っているから、そこは気にしなくてもいいわよ。二人がいいなら、是非、一緒にお祝いさせてください」
「もちろんです。いつが都合いいですか?」
「ん、うーん。そうねぇ、冬休みに入ったら、いつでも大丈夫よ」
「じゃあまた連絡しますね」
「はい、待ってます。ふふ」
「ん? どうかしました?」
「いえ。お友達とはいえ、男の子とクリスマスの予定ができるなんて、なんだか嬉しくて、えへへ、気持ち悪くてすみません」
……。滝沢さんのテレ顔に、ちょっと、ドキッとしてしまった。すっかり忘れてたけど、滝沢先輩も愛人候補候補的な調子に乗ったこと最初考えてたな。ほんわかオーラに癒されて、すっかり忘れてふつうに人付き合いしてきたけど。いまではかなちゃんも親戚の家くらいのくつろぎようだし。
でも考えたらまだ一か月くらいで、この家にきたのも二桁いってない。それを考えたら、恐ろしいくらいのコミュ力と言える。おどおどした感じに騙されたなぁ。
「あ、すみません、滝沢さん。ここが分からないんですけど、いいですか?」
「あ、はい。どこですか?」
かなちゃんが顔をあげて質問した。まだ勉強してた。と言うか、僕も本当はするつもりで来たんだけど、いまいち集中できないんだよね。テストも近づいてきてるし、クリスマスに浮かれてないで本腰入れなきゃね。
○
可愛いなぁ、とまた口から出そうになって、一の字にするように口を結んで耐える。
さっきまでおしゃべりしていた時の笑顔も、加南子ちゃんに向ける拗ね顔も、そして今の真剣な顔も、全部可愛い。
この世界の可愛いを煮詰めたような可愛さだ。テレビとかで男の子を見れなくはないけど、だいたい自分の美貌を自覚していて、相応のふるまいなので、この素直な自然体な感じが、ほんとうに可愛い。結婚したい。
卓也君と加南子ちゃんと、電車でたまたま出会って、こうなってまさか友達付き合いをするとは想像もしていなかった。正直に言うと、彼のことは知っていた。電車で見かけてから、ひそかに見ていた。電車内でもいつも可愛かったし、みんなさりげなく彼を気にしていた。
だからこそ、みんな彼を痴女できるものならしたいと思っただろうけど、その分絶対すぐばれるとわかっていた。電車中が彼の監視役みたいなものだ。幸運にも、あ、いや、それは申し訳ない。恐かっただろうし。でもとにかく、たまたまその時隣にいたおかげで、家にまできてくれる関係になるなんて。
「んー? あれ、かなちゃん、これどうだっけ?」
「ん? ああ、これはね」
せっかく勉強会と言う名目で着てくれているんだけど、卓也君は一回加南子ちゃんに聞いてから、わからない時だけ私に聞く。残念だけど、それだけ二人が仲良しと言うことだ。羨ましいけど、微笑ましい。
それにしても、愛人、かぁ。
予想外だった。こんなに仲良しだから、二人に入る隙間もないほどいつもラブラブだと思っていた。それが見れるだけでも眼福だし、二人とも可愛くて幸せだと思っていた。
だけど、愛人が二人もいて、しかもみんな仲良くやってるなんて……そんなのを聞いてしまうと、欲がでてしまう。いいなって、思ってしまう。
こんなに可愛い彼が、私だけを見て、私の為だけに笑顔を向けてくれて、私とキスして、肌を合わせてお互いにお互いだけを見て感じあえるなら、それは例え年に一度だけでも、とても幸せなことだろう。
私は今まで、同年代の男の子に話しかける勇気もなかったから、遠くから見ることしかなくて、とっくに諦めていた。だから彼のことも、たまたま同じ電車の時に見ていただけだった。
それがこんな関係になり、それだけで幸せなのに、愛人がいると聞けば、わずかでも可能性があると思えば、もっと、と、望んでしまう。人間と言うのは欲深いなと思う。
「じゃあこれは?」
「あ、うーん。これは、あれ、どうだっけ。あの、すみません、滝沢先輩」
「あ、はい。どれ?」
身を乗り出して、教えてあげる。こうして友達関係になれるだけで、勉強頑張ってよかったと思えた。でも今は、もっと頑張って、いい会社にはいって、たくさん稼ぐから、愛人も全部養うから、私も入れてくれないかなって、そんな風に思ってしまう。
でもこれはこれで、いいかもね。例えそんなこと口に出せなくて、叶わなくても、夢を見ているうちは、人生を頑張る力になるんだから。




