アプローチ?
「たくちゃん、聞いてもいい?」
「え、なにまたー? 改まって。今度は僕のスリーサイズでも聞きたいの?」
「聞きたい」
自室でごろごろしながら、デジャブかと錯覚するほど先日と同じ雰囲気だされたので茶化したら、普通に返答されて思わず顔を見る。目が合ったかなちゃんは、はっとして片手をあげてすっと何かを投げるような動きをして、ごほんと咳払いした。
「じゃなくて。真面目な話」
「え、今完全に素で答えたよね」
「そうだけど、じゃなくて、滝沢先輩のこと、いいの?」
「え? なに、いいのって。なんかあったっけ?」
全然話が読めないけど、真面目な話らしいので、とりあえず起き上がってかなちゃんと目線を合わせる。かなちゃんはちょっとだけ躊躇ったように、頭を掻きながらも口をひらく。
「いや、おっぱいのこと、めっちゃ気にいってたし、愛人候補として考えてるんじゃないかなって」
「え?」
あ、愛人候補って。いや、そりゃあ、あのおっぱいだし、そもそもめっちゃいい人だし、もし好きだって言われたら結構ぐらっとするし、愛人前提の恋人前提の友達くらいから始めたくなるかもだけど。でも別に好きって言われてないし。
おっぱいが大きいからって愛人にって、馬鹿なの? 僕はアラブの王様なの? 指名したら誰でも愛人にできちゃうの?
「かなちゃんは、僕のことなんだと思ってるの? まぁ、そりゃ、おっぱいは好きだけど。正直心惹かれるけど、でもそれとこれとは別でしょ。知らない人を、なんて考えてないよ。すぐ僕をビッチとか言うけど、本気で僕の身持ちを疑ってるわけ? その部位が好きなだけで、本当に好きで、大切にするって覚悟した相手としかしないよ」
「知らない人って言っても、いい人なのはわかってるし、それ言ったら一目ぼれとかこの世にないことになるよ。一目見て気にいって、恋愛感情持って、愛人にって考えてるのかなって、そう思ったんだよ。別に部位でとか言ってないし、むしろこの間部位しか見てなかったの?」
「ぐ」
怒り気味に説明したら、正論で返された。た、確かに。知らない人なのに愛人に考えるわけない! 馬鹿にしてる! ひどい! と思ったけど、一目惚れは理屈としてあるし、もし僕が一目惚れしたなら、現状だと恋人の一人として愛人としてって考えるのも、ありえなくはないのか。
馬鹿にしてるとかじゃなくて、普通に、僕の態度がそのくらいおっぱいに反応してたってことか。はい。ごめんなさい。確かに、あの日の記憶はもうおっぱいしかないし、むしろ顔とかうろ覚えだ。
「まぁ……確かに、そうだった。あの日は、おっぱいに夢中だった。それは認める」
「あ、はい」
「でも実際、それだけではならないし、向こうから好きとも言われてないし、むしろこれから一切接点ないのに、なんでそんな発想になるのかな」
「うーん、まあ、実際、愛人までいかなくても、友達関係続けようとするかなと思ってたから。だから、普通にあれから連絡ないままで、ビックリだし聞いたんだよ」
「ん? 友達関係って、なんで? あ、いや、そりゃそうなってもいいんだけど、別に積極的になることなくない? 知らない人と話す練習って言っても、滝沢先輩にこだわることないし」
「え、ああ。そういう感じなんだ? ならいいんだけど、おっぱいが気にいったみたいだから、とりあえず友達になっておけばこの間みたいに触るくらいならいつでもできるだろうし、そうしたいのかと思ってたから」
「……」
え? いつでも、触れる……? あ、駄目駄目。今凄い揺れてた。いや、友達関係にだからほんと、いいんだけど、それ目当てで友達関係とか駄目でしょ。世間体が許しても駄目でしょ。体目当てじゃん。ていうかそんなことしてたら本気で性欲だけの為に愛人にしたくなるから駄目だって。
確かに名前は愛人だし、ふしだらな感じだけど、ちゃんと合法だし、本気で好きあっている恋人の一人なんだから。そう言うのは駄目です。
「……え、なんか急に黙って明らかに動揺してるよね? 全然考えてなかったの? そういう事」
「そ、そういう事って」
「てっきり、あのおっぱいにしばらく意識持って行かれたりしてたのかと」
「そんなわけ、って言うか、帰り道で無理やり戻してきたじゃん」
正直、帰り道もあの衝撃的すぎるおっぱいが脳裏に焼き付いていたけど、ぼーっとしてる僕に腹をたてたかなちゃんが、胸をおしつけてくるわ、普通に触らせてくるわ、頭まで抱き寄せてきた。帰り道でそれで、相当上書きされてたのに、しかも帰ったら帰ったで、色んなおっぱいを見せてくれようととても頑張ってくれたので、おっぱいはやっぱり大きさだけではないなって実感したのに。まさかそこまで気にしてたとは。
「それはまぁ、へへ。ごめん、つい。たくちゃんがあんまりぼんやりしてるから、振り向かせたくて。結構必死過ぎて、みっともなかったかな?」
「んー、まぁ、よかったけど。えへへ、うん。かなちゃんのおっぱいが一番だよ」
「たくちゃん…っ。一瞬、すごく嬉しくなったんだけどどうしよう」
「普通に喜んでいいんだよ?」
「なんか冷静に今のセリフ考えたら微妙って言うか」
「れ、冷静にならないでよ」
それはダメでしょ。こんな会話、気心知れたラブラブな恋人と自室で二人きりだからしてるだけで、冷静に考えたらもう、そりゃ馬鹿みたいな会話になるに決まってる。ていうか僕とかなちゃんで実のある会話なんかしたことある? ってレベルだ。
「まぁ、そういう嬉しいこと言ってくれるなら、いいんだけど。でもほんと、無理しなくていいからね? 大きいのが好きで、滝沢先輩が気にいったなら、普通にアプローチかけるの手伝うよ?」
「あ、アプローチ?」
「え、不思議そうにしてるけど、あー、まぁ、今まではね、向こうからきて、たくちゃんが攻略された感じだけど、別にたくちゃんからいってもいいんだよ? さっきも好きって言われてないからない、みたいにいったけど」
目からうろこが落ちた気分だった。
確かに。何を僕は好きって言われてないとか言ってるんだ。そんなの当たり前だ。男が少ないだけで会う人みんな僕を好きになるわけでもないのに。好きって言われないのが普通だ。かなちゃんはあくまで僕の気持ちの方を聞いているのに、相手のこと言って、恥ずかしい。
それに、僕から気になった人にアプローチして愛人にしていいと言うのも、すごい、発見した気分だ。あくまでかなちゃんが一番なのは変わらないけど、他の子とも心通わせた結果の愛人だ。でもそれも、向こうからアプローチしてくれた後のことだ。
なら、普通に僕から他の子にアプローチしても、それはかなちゃん的にも世間的にもOKな行為だったのか。
たった今まで、滝沢先輩を愛人にとか、恋愛感情は全くなかった。ただただ、おっぱいが魅力的なだけの人だった。でも僕から積極的にもっと仲良くなって、自分が好きになるかも確かめて、そして相手にも好きになってもらえるよう努力して、相思相愛になって愛人になる。そう言う選択肢も、あるのか。
そう気づいた。
「そっか……僕から、行ってもいいんだ」
「うん……あれ、もしかして私余計な事いった? 積極的にこれから愛人増やしていこうね、みたいなことじゃないからね? あくまで私に遠慮しなくていいし、その気なら自分からいけばいいってだけだよ?」
「わかってる。僕だって、友達100人はともかく、愛人100人とか嫌だし、人数は、えっと、かなちゃんいれて5人だっけ? そのくらいでももうかなりキャパオーバーだってわかってるよ。だから無理に増やす気はないから、安心して」
「う、うん。それならいいんだけど。えっと、じゃあ、どうする? とりあえず、友達関係築いてみる?」
「うん。やってみる。恋愛感情関係なくても、いい人そうだし、僕のコミュ力向上のためにも、世代違う人と付き合うのもいいもんね」
今回の滝沢先輩がどうともならなくても、それをきっかけに、人間関係も広がるかもしれないもんね。そう思うと、やっぱり少し不安だけど、でもかなちゃんがいるんだから大丈夫でしょ。頑張ってみよう!




