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あべこべ世界も大変です  作者: 川木
愛人編
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文化祭

 痴女騒動でとても疲れたけど、翌日は普通に文化祭だ。昨日頑張って準備したので、今日は特になんにもない。

 市子ちゃんと歩ちゃんがボランティア部の活動に行くことになり、智子ちゃんは何となく空気を読んで二人について行った。空気を読んで2人きりにしてくれたけど、別に僕とかなちゃんが変にイチャイチャしたとか、そういうことじゃない。


「かなちゃん、いい加減にしてくれない?」

「え? なにが?」

「なにがって、今日は朝から挙動不審ていうか、すごい僕のストーカーちっくって言うか」


 そう、かなちゃんの様子がおかしいので、僕になんとかしろと言うことで揃っていなくなったのだ。

 昨日のあれだろうけど、落ち込んでないのはいいけど、異様に朝から張り切って僕を警護しているのだ。あからさまに常に僕を気にして、僕の周りをさりげなさを装っているんだろうけど不自然に周回したり、自分の立ち位置の反対側からなにもないかちょくちょく首を伸ばして確認したり。


 もう、三人とも不審感持ってるの隠さなかったのに、かなちゃん全然気づかないんだもん。どうしたの、って市子ちゃんに聞かれたのに、何がとか普通に首傾げてるんじゃないよ。

 文化祭だし、朝一の適当に集まっての号令だけでもう自由行動なので、他のクラスのみんなはそこまで気づいてないだろうのが救いだよ。

 とにかく、今日中に改善してもらおう。こんな不審者が隣に居たら落ち着かないよ。


 だから僕はかなちゃんと、人気のない中庭のベンチに座ってそう切り出したんだけど、かなちゃんは不満げに眉を寄せた。


「ストーカーって、なにそれ」

「なにそれって、まさか今日の自分がいつもと全く同じだと思ってるんじゃないだろうね」

「……まぁ、いつもよりたくちゃんの周囲に気を配ってはいるけど、そんな酷くないでしょ?」


 かなちゃんは僕の質問に一瞬視線をそらしたけど、すぐに戻してふっと口の左側をあげてそう言った。


「いや酷いよ! 市子ちゃんにも、どうしたのって聞かれてたのに何でそこ自覚ないの」

「えー、あれ、それ? うーん。そんなに露骨だった?」

「露骨だよ」


 思わず突っ込んでしまった僕に、かなちゃんは普通に首を傾げてきた。ボケとか誤魔化しで言っているならともかく、ガチだから呆れるしかない。半目になる僕に、かなちゃんはえへへと笑いだす。


「さりげなく、SP気分でちょっと楽しかったのに」

「ノリノリだったのはわかる。でもさりげなくないし、やめて」

「うーん。まぁ、わかった。自重はするよ。でもね、昨日みたいなことがないように、気をつけなきゃいけないのは事実でしょ?」

「気持ちはありがたいけど、ここ学校だよ? 満員電車でだけ、気を付けてくれればいいから」

「そんなんじゃ駄目だよ。万が一にも、たくちゃんには、二度と恐い思いをしてほしくないんだ」

「……」

「私が言うなって思ってる?」

「あ、いや」


 ちょっと思わなくもないけど、僕が今黙ったのはそうじゃなくて、かなちゃんが真剣だから、何て言えばいいかわからなかっただけだ。


「でも、だからだよ。だからこそ私は、もうたくちゃんに、あんな思いはしてほしくないんだ。もう、たくちゃんがトラウマを思い出して傷ついてほしくないし、あれ以上のトラウマを持つほど傷ついてほしくないんだ。そうならないよう、守りたいんだ」

「その気持ちは嬉しいけど、でも、本当に、そんなに気にしなくていいんだよ」


 僕がかなちゃんと付き合うまでなら、確かにそうだったかもしれない。僕はまだ女の人が恐かったし、痴女なんてされたら、もう誰も信じられないとか、そんな発想になったかもしれない。

 でも今は違う。他の誰でもなく、あのかなちゃんと一緒になって、もう絶対にかなちゃんは僕が本気で嫌がったり痛がることはしないってわかった。何より僕が、かなちゃんにならないをされてもきっと本気で嫌にならないって思う。


 だからこそ全然知らない人に触られても、気持ち悪かったけど、かなちゃんさえいれば、それがトラウマとか、そんなことはない。日が変わった今日はもう全然気にしてない。

 もう僕にトラウマなんてない。だから過去を思って過剰に守ってもらったり気をつかってもらう必要はないんだ。


「あれがずっと、トラウマとして大きく僕の中にあったのは確かだけど、もう、ないよ。僕にもうトラウマはないんだ。だからもう、昔のことは忘れて、普通に守ってくれたら十分なんだよ」

「……わかった。じゃあ、気を付けるよ」


 かなちゃんは僕の言葉に、全然納得してくれていないような顔をしているけど、それでもそう言って頷いた。

 いやいやいやー、もうその感じ。表情も取り繕って、言葉でそう言っても、絶対そうじゃないってわかるよ。何年かなちゃんと一緒にいると思ってるのさ。


 でもなー。かなちゃんも、これで頑固だ。いやまぁ、これでって言うか、普通に考えて、犬になってもずっと僕のこと好きな辺り、むしろ僕に関しては一途を通り越して頑固一徹と言ってもいい。告白もどきの時だって、ああなったわけだしね。

 それを思うと、今強引に話を続けても、話術で何とかなると思えない。と言うか僕が言いくるめられそうだ。しょうがない。もうちょっと様子をみるか。


「折角の文化祭だし、まわろうよ。体育館見に行かない?」

「いいね。そうしよっか」

「へへ。三人が帰ってくるまで、文化祭デートだね」

「ん……うん」


 急にかなちゃんは積極的になると、僕の手をとってそう言ってきた。いつも他の子がいるから、学校でそんなこと言ったことないのに。でもなんか、ちょっとドキドキするな。三人には悪いけど、どうせお昼まで時間はあるし、楽しむか。


 気持ちを切り替えて、素直に楽しむことにした。いそいそとかなちゃんの手を握り返して、体育館へ向かう。

 中に入ると、薄暗い。全体に暗幕が張られていて、入った正面ドアを閉めると暗いので足元が見えにくいため、壁伝いにとりあえず隅に避ける。奥の舞台で、演劇がされている。

 少し遠いけど、マイクで声はよく聞こえるし、スポットライトがしっかり当たって人影もわかるから、何となくわかる。しばらく見ていると目がなれてこっち側も見えるようになってきた。


 たくさん椅子が並べられていて、そこに生徒もいっぱい座っているけど、前の方が特に座っているけど、後ろの方はそれほどでもない。結構僕らみたいに立ち見している人もいる。と、かなちゃんが顔を寄せて小さな声をあげる。


「ねぇ、上、あがってみない?」

「え?」

「今なら怒られないって。いいからいいから」

「う、うん」


 体育館はテラスじゃないけど、バスケットゴールとか操作するための、体育館全体を囲うような二階部分がある。そして何でかはわからないけど三階もある。一応全部、四隅の梯子で繋がっていて、確か舞台辺りも三段につながっていたはず。


 とりあえずかなちゃんが楽しそうに誘ってくるし、上がったことなくて興味もあったので、行ってみる。梯子は地面から1メートル以上、僕の頭上くらいまでなくて、壁から梯子がはえている感じだ。

 できるだけ手を伸ばして上の方の梯子の棒を掴んで、体を持ち上げて、さらに上の棒を掴んで体をあげていき、足を引っかけて登っていく。と言う形だ。

 下からかなちゃんに支えてもらってなんとかいけた。いやだって、多分生徒が勝手に登れないように下の方に梯子ないんだよね? これ普通に行ける女子がおかしいでしょ。


 普段なら怒られるだろうけど、今日は特別だからか、女子にとっては全然危険じゃないからか、舞台近くのあたりでライトを操作している生徒以外の、僕らみたいに今やってる劇と無関係だろう生徒も数人立ち見しているから大丈夫だろう。。


「この辺で見よっか」

「うん。なんだか、わくわくするね。上からって」

「そうだね。暗いし、ここだったら、あんまり周りから見られないだろうね」

「どこにいても、これじゃ誰も見えないよ」


 かなちゃんと並んで、バスケットゴールのあたりから覗き込むように劇を見る。バスケットゴールって上から見るとこうなっているのか。

 たまに生徒でも、体育の時間に何人かがあがってゴールの出し入れしたりするけど、僕はやらせてもらえないから、興味あったんだよね。


 劇自体は、ロミオとジュリエットと言う、さすがに僕でも知ってるやつで、あんまり面白くない。先を知ってるし、なにより、棒読みだ。もうちょっと練習できなかったのか。

 両方女子で、二人とも結構顔はいいみたいだから、容姿で選ばれたのかな? なんて下衆な勘ぐりをしていると、ふいにかなちゃんが僕に身を寄せてきた。


「ん? かなちゃん?」


 振り向いて小声で名前を呼ぶも、かなちゃんは知らんぷりして舞台を見たまま、僕のお尻に手をまわしてきた。もしもし? 加南子さん? 何してるんですかね?




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