ボランティア部の同級生2
なんだそれ。ハーレムって。いやたしかに、そう見えるかも知れないけども。でもいずれも真剣に将来を見据えたお付き合いな訳で。そんな部活に参加させてみたいなノリでこられても。しかも一回だけって、もう隠すことなく体目当てだ! うわぁ……。
僕は遠回しにやらせてとお願いしてきた同級生の並んだ後頭部を見て、めっちゃドン引きする反面、ちょっと興奮した。うん。普段みんな理性的で意識しないけど、男女逆転して、女の子の方が性欲強いもんね。ビッチな男の子がいたら、そんなとんでも発想しちゃうよね。はい。
まあでも、ちょっとだけ興奮するけど、でももちろんそれ以上に、嫌だなって気持ちの方が大きい。そんな風に考える理屈も、頭ではわかるけど、感情は別だ。真面目に交際しているのに、軽んじられているんだ。正直腹立たしいし、そんな風に周りに思われていたのかって、悲しさもある。
「あのねぇ! たくちゃんは、そんな軽い気持ちで付き合うほどビッチじゃないよ! 馬鹿にするのもいい加減にして!」
だけど僕が口を開くより先に、かなちゃんがそう声を荒げた。思わず、驚いてかなちゃんを見つめる。
かなちゃんの勢いに、三人が顔をあげてビビった感じになりながらも、半笑いの感じだ。
「ご、ごめんなさい。でも、その、ねぇ? 私たちだって軽い気持ちってわけじゃ」
「じゃあ本気で好きなの!? 一回って、それで子供できたら学校やめて産んで育てるの!?」
「な、そ、それはさすがに」
「じゃあその程度ってことでしょ!? たくちゃんは確かに馬鹿だけど、あなたたちみたいなのと付き合うほど、馬鹿でも暇人でもないよ! 行くよ!」
「あ、う、うん!」
かなちゃんは立ち上がって、その勢いのまま握ったままの僕の手を引いて歩き出そうとする。
「ちょっと待って! それは小林さんの意見でしょ!? せめて酒井君の口から聞かせてよ!」
「……たくちゃん」
「あ、うん。あの、ごめんね。変な噂になっているのかも知れないけど、僕は別に、誰でも恋人にするわけじゃないし、断った子だっているよ。相手が僕を好きで、僕が相手を好きだから、将来も一緒に居たくて、恋人になっただけだよ。だから、そういう風に言われても嬉しくないし、いやだよ」
「これでいい? じゃあ、悪いけど部活でももう私たちに必要以上に話しかけないでね。あ、別に言いふらしたりはしないから、じゃあ、さよなら」
僕がちゃんと断ると、かなちゃんはさっさと僕と店を出た。それからさらにしばらく、かなちゃんはしかめっ面で、黙ったまま歩いていた。
「……かなちゃん、まだ、怒ってるの?」
最初は格好いいし、ドキッとしたけど、でも、ずっとこのままだと困る。僕はやっぱり、かなちゃんの笑顔の方が何倍も好きだ。
僕の問いかけに、かなちゃんははっとしたように、握っていた手を離した。
「ご、ごめん、痛かったよね? もちろん、たくちゃんに怒ってるわけじゃないよ? わかってるよね?」
「あ、うん。大丈夫。わかってる」
本当は、手は少し痛かった。よっぽど腹が立ったのか、結構力が入っていたし、乱暴な感じだった。無言な雰囲気も気まずい感じだったし、たぶん、かなちゃんと付き合う前だったらだいぶビビッて半泣きになっていたくらいだと思う。
でも今は違う。かなちゃんがどうしたって僕に危害を加えないことはわかっている。だから少しくらい強かったり痛かったりしても、全然恐く何てない。
「かなちゃん、怒ってくれてありがとう。格好良かったよ」
「……ありがとう。そう言ってもらえると、助かるよ」
僕からかなちゃんの手をとって握って微笑んで見せると、かなちゃんはほっとしたように、いつものちょっと困った感じの下がり眉の笑顔になった。
僕は空気をかえる為、ことさら明るく声をあげる。
「でもほんと、びっくりだよね。あんなこと言われるなんて。ちょっとドキッとしちゃった」
「もう……変態」
くすっと笑って、かなちゃんは囁くような声で言う。冗談が伝わって、空気が軽くなった感じがする。ほっとして僕も笑う。
「ちょっとだけだって。それにやっぱり、あんな噂が流れてるなら、悲しいし、腹も立つよ。でもまぁ、確かに珍しいわけだから、多少の風評被害はしょうがないよね」
全部が出鱈目ってわけじゃない。みんなには申し訳ないけど、多少変な噂が流れても、しょうがない。
「……しょうがなくなんて、ないよ」
「え、でも」
かなちゃんは立ち止まって、僕を見た。僕も足を止める。また、真剣な顔だ。声からしてちょっと、怒ってるのかも知れない。
「しょうがなくない。たくちゃんは、そりゃ、だらしないとこあるし、惚れっぽいし、女好きだし、すぐその気になっちゃうけど、でも……節操なく、いい加減なことしないよ。ちゃんと真剣に向き合ってくれるじゃない。私はそんなたくちゃんのことが好きなんだ。知らない人に、勝手に変に思われて、それでいいなんてこと、絶対ないよ」
「……ごめん、ありがとう」
かなちゃんの、言う通りだ。確かに、正直ドキッとしたりとか、そういうのは割と無節操だ。でも、だからってそういう大事なことは、やっぱり恋人でもないのにできない。責任を持つ気もない相手とは、無理だ。そこはせめて、ちゃんとしたいって思う。
かなちゃんがそんな僕を好きだと思ってくれているなら、なおさらだ。なのに、噂はしょうがないなんて言って、そんなかなちゃんの気持ちを軽んじるところだった。
「かなちゃん、大好きだよ」
「……と、唐突過ぎ」
「え、駄目だった?」
素直に、心からの思いをつげたのに、かなちゃんはぱちくりと目を丸くして瞬きしてから、少し俯き気味になって視線をそらした。
確かに、ちょっと突然だけど、かなちゃんだって今僕のこと好きって言ったのに。それに、本当に思ったんだ。本当に、改めて、大好きで、そしてかなちゃんを好きになってよかったって。心から思った。
「駄目ではないけど……、急にそんな顔されたら、我慢できなくなるから」
「……かなちゃんの方が、変態じゃん」
顔って。どんな顔だよ。だいたい別に、いつも好きって言ってるし、性的なことでもないじゃん。ジト目になる僕に、かなちゃんは赤くなって誤魔化すように、また歩き出す。
「う、うるさいなぁ。女なんだし、しょうがないじゃん、ほら、早く帰るよ」
「ねぇ、かなちゃん」
「なにさ」
何度も僕を変態呼ばわりしたからか、ちょっと気まずそうに、ふてくされた感じでかなちゃんは僕を振り向く。僕は笑いそうになる口元を抑えて、ちょっとだけ顔をよせて気持ち小さめの声で話しかける。
「どこに帰るの?」
「どこって、家でしょ?」
「僕の家? 今日は、お母さん家にいるけど」
「……私の家、今日、誰もいないけど、いい?」
「ふふっ、いいよ」
視線をそらしつつも、にやけ顔で誘われて、思わず声に出して笑ってしまった。睨まれたので、できるだけすまし顔を装って頷いた。かなちゃんはぐっと僕の手を引いたかと思うと、その手を離すと、馴れ馴れしく僕の腰に手を回してきて、急ぎ足になった。




