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あべこべ世界も大変です  作者: 川木
愛人編
123/149

ボランティア部の同級生

「たくちゃん、これで全部だよ」

「はー、疲れたー」

「お疲れ」

「かなちゃんもね」


 今日は休日だけど、定例のボランティア部の活動だ。文化祭でボイコットする分、今日は真面目にやってみた。本日は近くの公園でのゴミ拾いだ。ちなみに今日は市子ちゃんと歩ちゃんは欠席だ。二人共用事があるらしい。

 朝から頑張って、なんとか担当地区を一通り掃除できた。うん。我ながらよい仕事をした。気持ちいい。


 智子ちゃんには楽しくないって言ったけど、うん、やっぱりやりがいはある。汗水たらして、やっている最中はなんでこんなことやってるんだろう、馬鹿らしいなぁとか考えたりもするけど、終わったらやっぱり、気持ちいいもんね。


「お疲れさまー」


 ゴミ袋を固く縛って、集合場所に持って行く。他の部員も集まってきていた。それぞれに労っていると、先生が立ち上がってゲーム機をポケットに入れる。


「はい、お疲れさまです。んじゃ、全員集まったな? ゴミ捨てに行くぞ」

「はーい」


 この公園にはまとめてゴミを置ける集積場がある。そこまで移動する。かなちゃんがゴミを持ってくれているので、僕は身軽だ。ありがたいありがたい。

 誰でも捨てられては困る。先生が一時的に管理者から鍵を借りているらしく、開閉をしてくれて、ゴミを捨てる。


「よし、じゃあもういい時間だな。解散するか、はい、解散」


 先生の掛け声で解散となる。みんな一斉に、疲れたねーとか、汗かいたーとか言ってる。僕らも帰ろうか、と顔を合わせたところで、声をかけられた。


「あー、おい、酒井」

「あ、はい。なんですか?」


 先生が特に近寄ってくることなく僕を呼んだので、ざっと先生と僕の間にいた先輩たちが退いた。先生は何だか少し気まずそうに頭を掻きながら、離れた距離のまま口を開く。


「まぁ、なんだ。最初は男子だからと軽く注意したが、どうやら杞憂だったみたいだしな。先入観で釘をさして、悪かったな」

「ん? あー、ああ。そうでした、ね。大丈夫です。気にしてません」


 そう言えば最初にボランティア来た時に、調子乗るなよ的なこと言われたっけ。それ以外の態度がひどすぎるので、全然気にしてなかった。


「そうか? ならいい。真面目にやっているからな、まぁ、一応気になっていただけだ。以上。お前ら何見てんだ。散れ散れ」


 言いたいことを言うと、先生はさっさと帰って行った。不真面目に見えるけど、実際、残暑はすぎてもまだ日差しもきつい中、生徒に付き合って監督役をしてるんだし、真面目な面もあるんだろう。気にしていたんだから。とんでもない不真面目教師だと思っていたけど、意外といい人なのかな?

 僕は内心で評価を上げながら、今日は委員長の井上さんもいないし、二人だと特に真新しいこともない。さっさと帰ろう。


「じゃ、帰ろうか」

「うん」

「あ、あのー」

「ん?」


 今度こそ解散して、公園の入り口まできたところで話しかけられた。振り向くと、そこには同じボランティア部で、僕らより後に入ってきたボランティア部の一年生の女の子がいた。

 ボランティア部は急いで入ってくる人の方が少ないと言っていたけど、今のところ僕ら以外に入ってきたのは三人だ。まだ、最初に入った僕らの方が多い。


 えっと……なんて名前だっけ。あー、確か入ってきたときに挨拶はしてたんだけど……。忘れた。だってしょうがないじゃん。他のクラスだし、部活動だって毎回全部参加するわけじゃないし、参加しても挨拶くらいするけど、先に出会った先輩たちが話しかけてくれたら、そっちとも友達になりたいから応えるし、どうしても同級生とはそんな、会話までいかないし。だからしょうがない。

 ここは失礼のないよう、かなちゃんに任せる!


「えっと、なんですか?」


 答えながら、かなちゃんの手をとって、さりげなくかなちゃんの後ろ側にまわりこむ。かなちゃんは一瞬不思議そうにしたけど、すぐに僕の前に一歩出るようにして、相手が口を開く前に先制した。


「矢口さん、どうしたの?」

「えっと、何ってことはないんだけど、さ。あの、せっかく同じ一年生だし、その、ちょ、ちょっと交流してみたいなって言うか。駄目かな?」

「駄目、ってことはないけど、ずいぶん急だね? 別にそれくらいなら、普通に入った時に言えばいいのに」

「えっと、それはさすがに、男の子いるし、ねぇ? でも、あの、酒井君って、優しそうだし、大丈夫かなって、思って、でもその、時間たつほど言いにくくなって、でも、なんていうか、今日は二人だけだし、誘いやすかったって言うか……ど、どうですか?」


 ふーん。なるほどね。僕もかなちゃんと同じで、え、今更? と思ったけど、確かに僕がいるから言いにくかったってのはわかる。そんで時間たつほど言いにくいのもよーくわかる。


 なので振り向いたかなちゃんに、僕はにっこり笑って了承した。今まで機会はなかったけど、友達なら大歓迎だしね!


 と言う訳で適当に近くのファーストフード店に入る。お昼時だしね。お腹減った。注文して席につく。

 僕らの向かいに三人が座る。う。でも三人か。顔見知りとは言え、一気に三人に対峙するとなると、ちょっと圧迫されるって言うか、緊張するな。

 まずはさりげなく、改めてってことでこちらから自己紹介することで、まんまと全員に自己紹介してもらった。えっと、右から矢口明日香、福田希美、阿部麻里、と。よし。


 まずはお昼を食べながら、ボランティア疲れたね、なんて当たり障りない会話から始めた。そしてお互いにボランティア部に入ったきっかけとか話すと、意外と盛り上がった。

 男子が入っているのも噂になっていて、入るかどうか迷ったとかも言われて驚いた。僕は自分で思っている以上に、男子ってだけで注目浴びる以上に噂になっているんだなぁ。もうちょっと、今後気を付けよう。その時見られるだけなら慣れたけど、噂されるとなると、さすがにね。


 そして食べ終わって、お腹もいっぱいになった。そろそろ話題も尽きてきて、沈黙が訪れたので、最初だし帰ろうと言いだしても違和感ない頃合いかな、と思って時間を確認する。1時間ほど滞在しているし、十分だろう。

 かなちゃんを見ると目が合った。にこっと笑ってかなちゃんは三人に向いた。


「それじゃあ、そろそろ」

「あの! えっと」


 かなちゃんの言葉を遮るように、矢口さんが声をあげた。何だか三人とももじもじして、とても不自然だ。


「その、さ、最後に、卓也君に聞きたいことがあるんだけど、いい?」

「え、うん。いいけど、なに?」

「その、小林さんとは恋人って聞いたんですけど、木野山さんとか、他のクラスの人とも、付き合ってるんだよね?」

「え? ……まぁ、そうだけど」


 そんな、噂になってるの? そんでそれまず最初に聞いてくるか、普通。いや、まぁ、気になる気持ちはわかるけどさ。

 僕が頷くと、三人はキャッと一瞬盛り上がった声を上げて、顔を見合わせてにやっと笑ってから、僕にまた向いた。


「あ、あのっ! それって、私たちもいれてもらえませんか!?」

「はい?」


 え? なに? いれてって。ちょっと意味が分からない。えっと、付き合っているかと聞かれて、私たちもいれて? え、どういうこと。

 混乱する僕をはげますように、かなちゃんが僕の手を握ってきた。はっとしてかなちゃんを見ると、かなちゃんは少し怖い顔をして、三人を見ていた。その真剣な横顔に、訳もわからずドキッとした。


「ちょっと意味が分からないんだけど、自分たちが変なこと言っている自覚、ある?」

「え? まあそれは確かに、そうなんですけど、でも、酒井君ってどんな女の子でもオッケーな人なんですよね? だったらいれてくださいよ、もちろん結婚とかそんなこと考えてませんし、高校時代だけ、いや、今だけ、何なら一回だけでいいんですって! 酒井君のハーレムに混ぜてください!」

「……」


 僕はそう言って揃って頭を下げた三人に、言葉を失った。

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