文化祭について
僕らの通う高校の文化祭は、近隣の高校より少し遅くて、11月の頭になる。夏休みが終わってすぐに話し合いがされ、それに向けて準備が始まる。と言っても出し物の内容によって、夏休みの間に準備をするところもあるらしいけど、一年生はいずれも教室をつかっての出し物と決まっている。
漫画みたいな飲食店は禁止だ。と言うか、お金のやり取りはない。二年生は体育館を順番に使っての演劇、三年生はまた教室での出し物。そして別途部活別の出し物。そんな感じで、中学の時とそれほど変わらないみたいだ。
僕らのクラスは一時間の話し合いと多数決の結果、プラネタリウムに決定した。なんでも、割と簡単に作れるらしい。事前にその装置をつくったり用意する班、前日に教室を片付けて暗幕はったり用意する班、当日にお客さんを案内する班に分かれる。終わった後の片づけは全員一緒にする。
もちろん準備する班が一番人数が多い。準備班の中でも、装置作成、ポスター作製、買いだしの3グループに分かれる。
僕らは無難に、前日に準備する班になった。だって作り方知らないし、正直あんまり興味ないし。星座とか、何となく格好いいけど、全然そんな形に見えないし、無理やりすぎじゃない? って思ってしまうので。
「てか、私、文化祭ってもっとすげーの想像してたわ」
「すげーって、例えば?」
放課後、なんとなくぶらぶらしてファーストフード店に腰を下ろすと、自然に話題はホームルームで話し合った文化祭におよんだ。
「例えばって……いや、具体的にはないけど、こう、準備することとかたくさんあって、クラスみんなで協力し合って、青春する、みたいな」
「あ、わかる。私もそんなイメージだった。中学の時は先生が決めたことしてただけだし、なんか高校では凄いことすると思ってた」
「だよねっ」
智子ちゃんの曖昧な発言に、市子ちゃんが相槌をうった。それに智子ちゃんは嬉しそうに身を寄せたけど、そんな二人に歩ちゃんはクールな感じで口を開いた。
「いや、そんなこと言って、二人は文化祭に対して青春捧げたい、みたいな熱量、どうせないでしょう?」
「ん? なんだ、歩、意外とクールなやつなんだな。結構そう言うの、私は嫌いじゃないんだけど」
「いや、歩は結構熱血型のはず……どうかした?」
「どうかしたって言うか、そんな熱血してたら休日出勤になるじゃないですか。私はともかく、二人は恋人がいるし、忙しいでしょう」
「あー、なるほど」
あ、なんか傍観してたら一気に三人から見られた。さすがに馴染んだ三人とは言え、いきなり一斉に見られると、なんかちょっと恥ずかしいな。
「ぇへへ」
とりあえず笑って誤魔化しておこう。
「う」
「ぐ」
「うっ」
「え、な、なに? 恐いんだけど」
誤魔化した途端、三人は胸を押さえた。その妙に揃った動きにびびって、思わず隣のかなちゃんの服をつかんでひく。かなちゃんは普通に首をかしげている。
「どうかした?」
「いや、どうかしたってこともないけどさ…」
「うんまあ、なんでもないよ」
「そうですね。普通に卓也くんが可愛すぎただけです」
「え、今さら?」
は? なにそれ、と思った歩ちゃんの言葉に、何故かかなちゃんが斜め上につっこむ。今さら? じゃないよ!
かなちゃんのアホすぎる台詞に、市子ちゃんと智子ちゃんは苦笑して、歩ちゃんはやれやれと言わんばかりのオーバーリアクションで肩をすくめた。
「そりゃあ、可南子さんにとったらそうでしょうけど、私たちには違いますよ!」
「いや、もう何ヵ月も顔を合わせてるんだから、普通にたくちゃんが可愛いことはわかってるでしょ?」
「もちろんそうですけど、それでも改めて正面から笑顔みたら可愛すぎるんですよ!」
もうやめて……なんだこの会話。可愛いとかなちゃんとかに思われるのはいいよ。でもそんな、世間的にも可愛いが当たり前みたいな会話はおかしい。身内贔屓もほどがあるし、ましてそれを公共の場で言わないで!
「ちょ、ちょっと、やめてよ。普通に迷惑だから」
「あ、すみません。つい。卓也君が可愛すぎるので」
だからそれをやめろっつーの! あああ、恥ずかしい。
「まぁ、確かにそうだな。そろそろ私らも、卓也君の笑顔になれてもいいと思う」
「そうだね、つい」
二人までしみじみと真顔でそんなことを言う。そんな慣れるとかってもんじゃないでしょ。僕は化け物か。ていうか、仮に、万が一、世間的にも可愛いにカテゴライズされるとして、そんな慣れるとか言うくらい可愛く感じるのは、みんなが僕を好きだからだよ! 惚れた弱みだよ! でもそんなこと言えるか!
「は、話がずれてるよ。戻そう」
「あ、そうだね。確か、文化祭の話だったよね」
「そうそう! 僕らのクラスのことはともかく、他のクラスの出し物もあるわけだし、楽しみだね!」
強引に話を戻す。かなちゃんが促してくれたのもあって、すんなりとみんなの意識は文化祭に戻った。
部活動ごとにも文化祭に参加するわけだけど、ボランティア部はいつも通りそれも自由参加だし、出し物ではない。なんでも、当日近くから老人ホームからお祖母さんが来るから、それのお手伝い、みたいな感じらしい。
これは車いすの人を、階段移動時とかに手伝うのが特にメインらしく、僕は最初から戦力外通知をされている。一応、案内もするけど、普通に運ぶ人がそのまますればいいし、別に来るなとは言われてないけど、うん、そんな感じらしいので遠慮した。
そんなに長い時間ではないらしいし、じゃあ全員やめたってなるのもなんか申し訳ないってことで、市子ちゃんと歩ちゃんは参加することになった。
「へー、てかボランティア部って楽しいの? 私は基本、家のことあるから、絶対参加ができないし、部活動とか興味なかったけど、そんな緩い感じなら、私も参加してもいいのかな?」
智子ちゃんが興味を持ったように、肘をついて前にのりだすようにそう言った。
「んー。楽しいかと言われたら、掃除とかだし、僕個人としては、やりがいはあるけど。みんなでやるから楽しいって感じかな。全然気の向いた時だけでいいみたいだし、よかったら入る?」
「へぇ? うーん、でもまぁ、やめとくか。あんまりあれだし、卓也君を追いかけてみたいなのも、かっこわるいし」
ちょっと考えるように顎に手をあてた智子ちゃんだったけど、僕の特にアピールしない紹介に、あまり興味はひかれなかったらしく、諦めた。
「そう? まぁ別にいいけど」
「いいけどって、強制されても嫌だけど、そっけないのもなんだかなー」
「我儘だなぁ」
僕としては、入りたいなら全然強制はしないけど、でも入ってきたらきたで、部活の人にもしかして愛人候補ってことが知られたら、なんかあんまり嫌だし、あくまで部活は部活で、恋愛感情とは別なので、いなくてもいいっちゃいい。まあいたらいたで楽しいだろうけど。
なので別にいいけどってのが、正直な本音だ。だけど智子ちゃん的には気に食わなかったらしい。
「じゃあ、智子ちゃんが入らないなんて残念だなー」
「棒読みだなぁ。卓也君、来年の文化祭になっても主役はしないほうがいいね」
「リクエストに応えたのに、失礼すぎる! ちょっとなんとか言ってやって!」
「え? ああ、主役って言うか、脇役でもたくちゃんには無理だって。舞台度胸とかないもん」
「そういう事言ってって言ってないよ!?」
だいたい一年後のことなんだから、そんなのわかんないでしょ! いや、まぁ、主役とか言われたらさすがにびびるけどさぁ。




