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あべこべ世界も大変です  作者: 川木
愛人編
121/149

智子ちゃん、恋人になるの巻

 智子ちゃんとのデート中、会ったことのない一番上の妹さん、清子ちゃんと出会った。清子ちゃんは智子ちゃんと違って、何ていうか、清楚系な感じだった。小学生だし、清楚系もくそもない気もするけどね。

大人しそうって言うか、委員長系って言うか、苦手系って言うか。まぁ、うん。

 なんかぐいぐいきて、一緒しよとか言ってきた。正直断りたいなって思ったけど、他ならぬ智子ちゃんの妹だ。それに、コミュ力を鍛えるって決めたんだ。苦手なタイプほど頑張らなきゃ、社会には出られない。

 苦手なタイプだけど、先輩って言われたのが初めてで嬉しかったとかは関係ない。


「卓也先輩! これとかどうですか!?」

「うーん。そうだねぇ」


 一緒に行動するとなると、自然と今智子ちゃんに服を服を選んでもらってることを説明し、じゃあ私も! と智子ちゃんも選び出した。

 それはまあいいんだけど、清子ちゃんの趣味は智子ちゃんと全然違う。何て言うか、智子ちゃんをゆるっと系としたら、かちっと系だ。なのでそんな、清子ちゃんの趣味にあわせてもなぁ。


「た、卓也! こっちはどうだ?」

「うーん。じゃあね、二つとも試着するね」


 すぐに清子ちゃんを却下するのも感じ悪いし、せっかくなので着てみる。もし僕が気に入ったら、関係なく買ってもいいしね。

 とりあえず二つとも受けとる。


 試着室にはいって、きてみる。

 清子ちゃんのはしっかりした生地の、あの鳥の、えー、千鳥柄って言うんだっけ。そんな感じ。うーん。着てみたら、意外と悪くないなぁ。パッと見ておじさん柄な気がしたけど。でもやっぱり、うーん。なんか柄が派手な感じで好きじゃないんだよねぇ。


 さて、次は智子ちゃんのだ。でもこれもどうかな。この、えー、ブルゾンか。これもおじさんが着てるイメージがあるんだよね。


「ん?」


 あれ。意外と、白シャツの上に着てるからか、カーキ色も思ったよりあっさりして感じるな。んー? え、結構ありな気がしてきた! なんかちょっと、ちょいワルな感じがする!


「ねぇねぇ、ちょっと開けるから見て」

「あ、うん」

「はーい」


 返事が返ってきてほっとする。ねぇねぇって声を出してから、もし他の服見るとかで他に移動してたら恥ずかしいなって思ったので。

 試着室を開く。二人とも目の前に待っていてくれた。


「へー、いいじゃん。やっぱ私の目に間違いはない。似合ってるよ」

「た、確かに。似合ってます。うー、でも、私のもきてくださいっ」

「う、うん」


 仕方ないので、もう一回着て、見せてみた。今度は反応を逆にしたみたいにして、でもやっぱり似合っていると言ってくれた。自分でもどっちも悪くないなと思ってはいたけど、人から見ても悪くないみたいだ。

 そうなると、まあ後は僕のさじ加減だよね。てことで、智子ちゃんが選んでくれた方を買うことにする。


「えー! 私の奴の方が先輩には似合ってましたって!」

「あはは、まぁ、智子ちゃんの好みの方がいいからさ」


 あんまり角の立たないよう、やんわり断っておく。二つ買うほど予算もないし、あったとして安いものでもないし、気に入らない方を買うほどお金持ちではない。


「た、卓也君、その、それ、プレゼントさせてもらっていい?」

「え? どうしたの急に? 別に払うけど」

「いや、プレゼントしたいんだ」

「そ、そう……じゃあ、お願いします」

「うん」


 何故か急に真顔でお願いされた。智子ちゃんは割り勘派っぽいから、向こうでデートしてるみたいな感覚もちょっとあってそれはそれで楽しんでいたのに、どうしたんだろ。

 商品を渡すと、智子ちゃんはそれを持ってレジへ持って行った。それを見送って、清子ちゃんがこそっとした感じで僕に近寄ってきた。


「へー、お姉ちゃんと、仲いいんですね」

「ん? まぁ、そりゃあね」

「ね、告白ってどっちからしたんですか?」

「え、えっと、お、お姉さんからしていただきました」

「へー、意外、と言っても、まぁそりゃそうか。先輩、すごい顔可愛いし、性格もなんか、可愛いですもんね。わざわざお姉ちゃんを選ぶことないですもんね」

「あ、ありがとうございます」

「何で敬語何です? 可愛い」


 う。すごい、智子ちゃんいた時、まだあれでセーブしていたのか。すごいぐいぐい来る。全然お淑やかじゃない。


「ていうか、私もかなり、好きになっちゃったんですけど。お姉ちゃんより私にしません? 私の方が若いし、成績もいいし、将来性いいですよっ」

「いや、いいです。普通に、あなたのお姉さんのほうが好きなので。ていうか、後々、僕と清子ちゃんは兄弟的なものになるわけで、気まずくなること、やめてほしいんだけど」

「えー」

「えー、じゃねぇよ。てめぇ、なに人の男にちょっかいかけてんだ。妹じゃなかったら殺すぞ」


 清子ちゃんが唇を尖らせたところで、戻ってきた智子ちゃんががしっと勢いよく清子ちゃんの頭をつかんだ。どうやら、会話が聞こえていたらしい。まぁ途中から普通の声量だったしね。

 清子ちゃんはさっきまでの楽しそうな表情から一変して、顔を青くさせる。


「げ。お、お姉さま、や、ヤダなぁ、可愛い冗談じゃない。あ、あれだよ! 将来のお兄さんが、ちゃんとお姉ちゃんのこと好きか、試したんだよ、そう、姉妹愛!」

「ああん?」

「ま、まぁまぁ。あんまり怒らないでよ。僕、あんまり怒ってる人見るの、好きじゃないんだ。笑ってる智子ちゃんの方が好きだな」

「っ……まぁ、卓也君がそう言うなら」

「ありがとうございます! 卓也先輩! いや、卓也お兄様!」

「あ、うん。まぁ、とにかく、程々にね。じゃあ清子ちゃん、そろそろ僕ら、デートに戻るから」

「はーい」


 清子ちゃんは智子ちゃんの手が離れるが早いか、素早い動きで走り去っていった。それを見て、智子ちゃんはため息をついてから僕をみて、ん、と照れたように視線を泳がせながら購入した袋を突き出してきた。


「ありがとう。大事にする。ていうか、今度のデートで着るね」

「う、うん……さっきは、ごめん。ていうか、妹の存在もあれだけど、私も、つい、カッとなって。卓也君の前で殺すとか言って、こ、怖かった?」


 えへへと照れ笑いで誤魔化すように、でも僕の様子を伺うように聞かれた。正直、殺すぞってトーンはガチっぽかったし、結構恐かった。顔に出ていたのかもしれない。平気だよって誤魔化すのは簡単だ。でも、智子ちゃんはただの友達じゃない。これからずっと、付き合っていく相手だ。そしてできるだけ誠実に接してくれている。なら僕も、正直にならないと。


「んー、まぁ、ちょっと、びびった。ちょっとくらい、口が悪くても、照れ隠しとか分かってたら大丈夫だけど、その……こういうこと言うの、情けないんだけど、僕、大声で怒られたり、暴力を振るわれるの、すごく苦手で」

「そんなの得意な方がおかしいって。むしろ、男の子らしくてかわいいっつーか。声、荒げたりしないよう、気を付けるよ」

「うん。あのね、僕智子ちゃんの、ちょっと不良っぽいとこも好きだから、お行儀よくしたりしなくていいんだけど、ちょっとだけ、気を付けてくれたらいいからね」

「うん。わかった、ところでさ……さっきから、その、私のこと好きって、言ってくれてるよね?」

「え、う、うん……」


 改まって聞かれると、恥ずかしい。ていうか、考えたらまだ、仮とってなかったっけ。ちょっと先走っちゃったかも。だって、智子ちゃんってほんと、一緒にいると楽しいし、それに一生懸命で、可愛いし、エロ格好いいし、うん、好きだ。


「あのさ、智子ちゃん」

「ちょっと、私から言いたいんだけど。あ、ちょっとだけ場所移動しようか」

「あ、うん」


 まだ試着室の前だった。言われるまま移動して、お店を出て、モールの出入り口のちょっと人気のない隅の方へ行く。


「あのさ、改めて、好きだ。ちゃんと、愛人を前提とした恋人になってほしい」

「うん。こちらこそ、お願いします」

「っしゃ!」


 真正面から、目を見て言われて、そしてOKすると素直に喜んでガッツポーズしてくれた。格好良くてドキッとしたし、喜んでる姿は可愛い。ハイブリットじゃん。


「あ、あのさ、じゃあ、って言うか、急な話なんだけど……卓也君の家って、今誰かいんのかな?」

「え? いないと思うけど」

「あの……家、行ってもいい? こ、恐いことはしないから。無理やりとか、全然趣味じゃないし」


 直球なお誘いだった。初めてなのに、ものすごいストレートだ。でも、そんな智子ちゃんだから、嫌いじゃない。


「うん、いいよ」

「え、ほんと? あの、意味とか、分かってる? 大丈夫? 初めてとかじゃないよね?」


 その確認の仕方に、笑ってしまう。それに、顔、必死過ぎ。もう、可愛いなぁ。声を出して笑ってしまいそうになるのを、手で抑え気味にして頷く。


「うん、大丈夫だよ。でも、智子ちゃんとは初めてだから、ね?」

「お、おう……じゃあ、行くか」


 赤くなった智子ちゃんは、緊張しているのか上ずった声でぶっきらぼうに言うと、僕の手をとった。その力強さに、でも言った通り無理やり引くとかそんなんじゃ全然なくて、恐く何てない。僕はドキドキしながら、智子ちゃんを自室に招いた。


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