お家デート 加南子視点
今日はたくちゃんとのデートだ。我が家で会うことはあんまりないんだけど、今日はたくちゃんの家には詩織さんもおばさんもいて落ち着かないし、かといって雨も降っているので、我が家に来てもらうことになった。
「そう言えば、前に来た時の僕のストーカーブックはどうしたの?」
「その言い方やめてくれない? ストーカーじゃないし」
私はたくちゃんの隠し撮りをして後生大事にしているわけだけど、あくまでたくちゃんへの愛が有り余るからであって、そんな。実際に変なことしたわけじゃないし。たくちゃん公認だし。うん。ストーカーではない。
「ちゃんと奥にしまいこみました。代わりに、みんなで取った写真とか印刷してアルバム作ってるんだよ。見る?」
「見ようかな」
確かに、ちょっと自分でもまずいと思うくらいではあったし、たくちゃんの写真なので捨てはできないけど、今ではちゃんと封印している。さすがにたくちゃんが許してくれたとして、他の人に見られたら通報されるくらいなのは自覚しているしね。
写真をとって、いい写真を選定して印刷するの自体楽しかったし、せっかくの印刷機材をつかわないのももったいない。特にインクは使用年数があるしね。なので、あれからちょくちょく、もちろんみんなに断って、と言うか普通に本人にわかるように写真をとったりしてみた。
たくちゃんが活発になった分、お出かけイベントが増えて写真をとるタイミングもいっぱいあるしね。自然とたくちゃんも映っている写真も手に入るし、普通に見返して楽しいので、自分としてもなかなかのものだと思っている。
自慢したい気持ちと、たくちゃんの中のストーカーイメージを払拭したい気持ちで、私はいそいそとたくちゃんにアルバムを渡した。たくちゃんの右側から覗き込むように、左手でたくちゃんの肩を抱きしめながら一緒に見る。
「ふーん。結構、短い期間なのに撮ったね」
「うん。なんたって、被写体がいいからね」
「僕の割合多いね」
「そりゃあしょうがないでしょ。つい目がいっちゃうんだから」
「……まぁ、いいけど」
あ、照れた? へへ。たくちゃんは、自分もすぐくさいこと言う割に、こっちが素で言っちゃったときほど照れる。可愛いなぁ。本当に。
「ね、キスしよ」
「ん、何、急に。アルバム見てるのに」
「いいじゃん。したいんだし」
「いいけど……」
照れつつも、連れない態度を装って顔をあげてそっぽを向くように右頬を出してくる。全く、素直じゃない。まずはそのまま頬にちゅっとする。にへ、とにやけた顔になって、油断してこっちを向いたたくちゃんに、今度こそ唇にキスをする。
「ん……二回もいいって言ってないのに」
「二回は駄目って言われてないもん」
「はい、屁理屈、駄目です」
「そんなこと言って、一回ずつしてもいい? って聞いたらそれはそれで怒るくせに」
「そ、それは、そんなの場合によるでしょ」
たくちゃんは顔を真っ赤にして、眉を寄せて文句を言ってきた。
この間、キスを勝手にしないでとか言うから、いい雰囲気になってベッドの上で裸になってからも全部いちいち許可とってたら、恥ずかしがって凄い可愛かった。全部復唱させて、してくださいって言わせたからなのはわかってるけど、だってしょうがない。可愛かったんだから。
それにたくちゃんだって仕返しとばかりに次にやり返してきたじゃん。まぁ、私にとっては何のダメージもないから全然困らないんだけど。
「たくちゃんは可愛いなぁ。それに、いい匂いがする。もしかしてシャワーあびてからきた?」
「う、そ、それは普通に、朝からじめじめして、寝汗かいたからあびたけど」
「えー、私のためじゃないんだ」
「違います」
「ちぇー。ね、この写真どう? お気に入りなんだけど」
たくちゃんがもっているアルバムの写真を指差す。たくちゃんはどれどれ、何ていいながらそれを見て、へーと素直に感嘆の声を上げてくれた。
「いいじゃん。よくこんな、瞬間の顔とれたね」
市子ちゃんに蝉がとまって、驚いた時の写真だ。ちょうどカメラを起動した瞬間で、驚いて振り向いた市子ちゃんと見つめあうような空中の蝉がいい感じだ。
「あとこれとかどう?」
「ん? あ、もしかして授業中にとったの?」
「そうそう。みんなの後頭部って言うのも面白いでしょ」
「面白いけど……よく気づかれなかったね」
「先生板書してたし、音消してれば、まわり友達だけだから平気だよ。てか気づかなかった? 後ろの席」
「う。僕は真面目にうつしてたからね。気づかなかったね」
「はいはい、居眠りしちゃう真面目真面目」
「はー? もう、ほんとかなちゃん、すぐ僕のこと馬鹿にする。いつか本気で怒るよ」
すぐに馬鹿にするって。確かにちょっとからかったけど、まったく、すぐに馬鹿にして、とか言うんだから。被害妄想だ。まあ内向的だからしょうがないけど。でも、そう言いつつも全然怒ってなくて、むしろかわいい。
「そう言って、全然怒らない優しいたくちゃんが好きだよ」
「……そういうとこ、嫌いだし」
唇を尖らせられた。今のは本気でむっとしたかな? でも大丈夫!
「そう? 私は、そこで嫌いって言うたくちゃんのことも、好きだよ」
耳元で囁くように繰り返すように好きだよ、と言うと、たくちゃんは嫌そうに体を左に傾けて少しでも逃れようとしていたのを、力を抜いてやめて、むしろ私に寄りかかってきた。可愛い。
「もう。かなちゃんはほんと、ずるいなぁ」
「そんなことない、たくちゃんの方がずるいよ。だって、すっごく可愛いもん」
「……そんなこと言って、距離近すぎ」
「さっきから近いでしょ」
もうなりふり構わず、普通に抱きしめる。たくちゃんも、もうアルバムから手をはなして、左手は自分の首元に来ている私の左手をそっとつかんでいる。
「そう? もっと近くになりたいな」
「……いいけど」
「けどー? 優柔不断な返事だね。嫌なの?」
「い、嫌じゃないって。いつものことだし?」
「ふーん? じゃあさ、今日はいつもと違うことしよっか」
「え?」
この間から思っていたんだけど、市子ちゃんとの時はどうも自分から積極的になっているみたいだ。それを私にするのも楽しそうなので、それは全然いいんだけど、その分そうじゃない普通の私との時は、ちょっといじめたくなるんだよね。純粋に二人の時は、たくちゃん結構受け身だしね。
それを考えたら、割り切ってしまえば愛人もそんなに悪くない。10人いれば、10人たくちゃんが対応を変える。その全部を味わえるんだから、悪くない。
そしてその分、私は私で受け身のたくちゃんを楽しみたいんだけど、最近どうやら、たくちゃんは市子ちゃんとにバリエーションをつけているみたいな気がする。たくちゃんは変態だからね、しょうがない。でも受け身たくちゃんはバリエーションをいれないので、私が入れてあげないといけない。しょうがないね。たくちゃんの為だもん。
「と言う訳で、これ、つけて」
「……どこから持ってきたの」
「百均で買ったんだ。安眠は大事だからね。ささ、後は私に任せてくれていいから、よーく寝ようね」
いったんたくちゃんから離れて、安眠マスクを取り出してたくちゃんに渡す。たくちゃんはちょっと嫌そうな顔をしたけど、普通につけてくれた。
「てか、つけるのはやくない?」
「大丈夫。ここからは全部、任せてくれていいから。まずはベッドに運ぶね」
「わわっ、ちょ、ちょっと。いきなり動かさないで……見えないと、ちょっと、恐いって」
抱っこして持ち上げると、たくちゃんは慌てたように抱き着いてきた。ぎゅっと安心させるように抱きしめて、おでこにキスしてからゆっくりベッドに下す。
「大丈夫だよ。優しくするから。信じて」
「……うん。わかった」
と言う訳で、私なりに受け身のたくちゃんを楽しむため、目隠ししてもらったわけだけど、とても楽しかったです。次は耳栓も買おうかな。




