今更の質問
「ねぇ、たくちゃん、ちょっと質問したいんだけど、部屋にあがっていい?」
「ん? いいけど何? めっちゃ改まって言うじゃん」
智子ちゃんがグループに入って、デートをした週の金曜日。今日は特に何の予定もなく、普通に家に帰ってきたんだけど、なんかそんなこと言いだしてかなちゃんが僕の部屋に上がり込んだ。
「喉渇いてる? なんかいる?」
「あー、うん。そうだね。お願い」
「うん。じゃあ僕着替えておくから、持ってきてくれる?」
「あ、はい」
なんかナチュラルに僕が取りに行く流れになったけど、よく考えたらかなちゃんは別にお客様扱いすることないので、取りに行ってもらう。かなちゃんは制服のままなんだし、それが自然でしょ。
着替える。思いのほかかなちゃんが早くて、ズボンをはいているところで入ってきたので、一応デコピンしておく。
いや、ほぼすぐはいたし、いいっちゃいいけど、着替えるって言ってるのにノック無しで入ってきて、おおっなんて声をあげられたらなんか、文句言うべきな気がしたし。
「で、なに? 聞きたいことって」
「あ、うん……あの、こんなこと聞くの今更って、思うかもだけど」
「うん、なに? 変に思ったりしないから、言って」
こんなにかなちゃんが言いよどむなんて、よほどなにか、言いにくいことなんだろう。そんな問題があるなんて全く分からない。
智子ちゃんとのデートの後も、突然不意打ちでキスするのを気にいって、それから毎日帰り際にキスしているくらいだし、なんの問題もないと思っていたのに。
焦る気持ちがわくけど、ここで焦ってもしょうがない。むしろかなちゃんには安心してもらいたいので、できるだけ僕は優しく、かなちゃんの手をとってうながした。
かなちゃんはうつむき気味に僕を見つめて、ぽっと頬を染めた。あれ。思いのほか、深刻ではなさそうだぞ?
「あのね……たくちゃんの、好きな女性のタイプって、どんなの?」
「……え、今更聞く事?」
「だから、前置きしたじゃんっ」
頬を膨らませるかなちゃんに、どうどうとその頬をつついて宥める。
「したけど、しかもそんなもったいぶるから、なんかよっぽどかと思ったよ。今更だけど、普通に聞いてよ。好きなタイプねぇ」
とっくに恋人なのに、本当に今更って感じだ。これ以上僕からの好感度あげたいってこと? すでに上限いっぱいだと思うんだけど。
それにしても、難しいこと聞くなぁ。歩ちゃんの時もちょっと考えたけど、実際、あやふやだ。と言うか、僕の中でまず好きな人イコールでかなちゃんが存在するから、タイプとかってあやふやな質問の方がイメージがわかないんだよね。
他の子でも普通に好きだし、性的な意味で好みとかはそりゃああるけど。普通好きなタイプって言ったら、恋愛感情的な意味での好きなタイプだし。
「かなちゃんみたいなタイプ、ってのが一番的確なんだけど……そういうのが聞きたいんじゃないんだよね?」
「う……嬉しいけど、でも、うん。そうじゃなくて」
かなちゃんは口元をにやけさせて、僕の手をぎゅっと握りつつも、説明のために口を開く。
「あのね? 智子ちゃんとかとも仲良くしてるし、でも歩ちゃんは断ったでしょ? だからちゃんと好みがあるってことだし、知りたいんだ。もちろんたくちゃんが私のこと大好きなのは知ってるけど、でも、どうせならもっと、大好きになってもらいたいから」
「……ふふ」
かなちゃんが可愛すぎて、声にだして笑ってしまった。無駄だけどつい、あいた手で口元を隠してしまう。かなちゃんは僕が笑ったことで少しだけむっと眉をよせて、僕の頬にちゅっとキスをした。
「なにするのさ」
「ごめん、可愛いから。てか、笑ったから罰だよ」
「罰って……僕とのちゅーが罰って言うのはどうかと思うんだけど」
「もちろん、私にとっては、ご褒美だよ」
にっこり笑顔で即答されたので、僕は唇を尖らせて抗議を現しつつも、誤魔化されてあげることにする。
「まぁ、とにかく、その気持ちは嬉しいけど、好みねぇ。自分でもよくわからないよ。まずかなちゃんが好きってのが最初にあるから、理想の女の子がかなちゃんなわけだし」
「う……で、でも、智子ちゃんとか全然タイプ違うけど、ありなんでしょ?」
「ありだけど……うーん、何ていうか、好みのタイプって、うーん。悩むよ。かなちゃんがこの世にいなかったとしたら、どんな子がって想定したとしても、もうかなちゃんを知っている以上、難しいよ」
「うーん。じゃあ、どういう基準で歩ちゃんとか選別してるの? 私に近いかどうかとか?」
「そうじゃないけど、選別って言い方はやめようか」
僕はひよこの鑑定士かよ。女の子を選別するとか人聞き悪すぎる。
まぁ、そうだよね。そこしかないか。僕もあんまりはっきり自覚しているわけじゃないけど、他ならぬかなちゃんが聞きたいなら、説明するしかない。
「えっと、まぁ、じゃあ、この間考えたことだと、何ていうか、ピンと来るかどうかって感じだから、はっきりしたことは言えないんだけど、あえて言うなら、恥じらっている女の子とか、おっぱいの大きい女の子が好きかなとは思ったよ」
「おっぱい」
「……」
「おっぱい」
「やめてよ! なに!? 無表情で繰り返さないで!」
恐いよ! いや確かにかなちゃん巨乳じゃないけど! 正直謎のでっかいおっぱいが急に目の前に現れてもまず揉む自信があるけど! でも、かなちゃんのおっぱいも十分好きだから!
かなちゃんの肩を掴んでゆらすと、かなちゃんはわかったわかったと僕の肩を叩いてやめさせる。
とめて、改めてかなちゃんの表情をチェック。いつもの困り眉だ。よし。
「ていうか、初耳なんだけど、おっぱいフェチだったの? またマニアックな」
「マニアックなの?」
「そりゃあそうでしょ。手が好き、くらいならともかく、手の浮き上がった血管を触るのが好きって言われるくらいには、マニアックだと思うよ」
「はぁ」
わかるような、わからないような。とにかく、一般的な趣味趣向ではなかったらしい。まぁ、でも直球でエロ部位が好きと思われるよりいいか。
「でも、おっぱいねぇ、女の胸なんて、どこがいいんだか」
「そこは好き好きって言うか、あんまり引っ張らないでほしいんだけど」
「あ、ごめん? でも、そうだね。じゃあ私ももっと大きくなった方がいい感じ?」
「うーん……かなちゃんはかなちゃんだから、サイズとか関係ないんだけど、まぁ、あったらあっただけ嬉しいかな?」
もちろん今のままでもいいんだけど、何ていうか、まぁ、いっかいくらい包まれてみたいって言うのは思うよね。当然。
僕の返事に、かなちゃんは不思議そうな感じの反応だ。向こうなら、今よりおっぱい大きい方がいいとか恋人に言ったら普通に怒られそうだけど、こっちでは特殊性癖過ぎてピンと来てないからか、普通の反応だ。よかった。
「そうなんだ。うーん。と言うか、私が聞きたかったのってそう言うのではないんだけど」
「え? じゃあどんなのを期待してたの?」
「こう、力が強い方がいいとか、気をきかせたほうがいいとか、背が高い方がいいとか、痩せてる方がいいとか、稼ぎが多い方がいいとか、オシャレな方がいいとか」
「今の時点で十分、かなちゃんは気もきくし力もあるし、背格好もいいし、オシャレで可愛いよ。稼ぎはまあ、将来的には僕も働くから、お互いに持ちつ持たれつって言うか」
「えっ!? は、働く!? え、働く気なの!?」
勢いよく膝立ちになったかなちゃんが僕に迫るような勢いで聞いてきた、僕は驚いたので、とりあえずキスした。




