智子ちゃんとデート
と言うことで、智子ちゃんとデートすることになった。いきなりだ。でも、思い立ったが吉日だと言われ、僕はその勢いにのせられてそのまま放課後、デートに繰り出すことになった。
意識していなかったけど、しかしこれは、いわゆる制服デートと言うものではなかろうか。今までは放課後は友達と遊ぶってことに主題をおいていたから、かなちゃんともそういう雰囲気にならないけど、これはこれで、青春っぽくていいかも!
「ねぇ、どこ行くの?」
「あー、実は、授業中あれこれ考えてはいたんだけど、決め手がなくて……とりあえず、卓也君と仲良くなりたいってのは第一目的だから、なんか希望ある?」
「えーっと、その気持ちはありがたいけど、急に誘われたし、急に言われても……」
誘った側が考えてると思うじゃん? ましてあんな自信満々に誘っておいて、まさかのノープランとか。かなちゃんくらい長い付き合いで、行ったことない手近なとこなんてないならともかく。まじか。
なんかないの? 恋人ができたら行きたかったこととか、したかったこととか。ってこういう言い方すると、ちょっと上からかも? 僕は恋人とやりたいって思ってたことは一通りしてるからなぁ。言い方に気を付けて聞いてみよう。
「なにか、智子ちゃんがしてみたいことってないの? 理想の夫婦像があるなら、理想の恋人像も持ってるかなって思ったんだけど」
「理想の恋人像? それは、あんまりイメージないかなぁ。当たり前だけど、私が生まれた時には祖父母は普通に夫婦だから」
「別におじいちゃんとかを絡めなくても、普通に、こういうことしてみたいな、的なのはないの?」
否定されて面倒になったので、若干ぼかしたけど普通に聞いてみた。
智子ちゃんは、一瞬、え? みたいなきょとんとした顔をしてから、かーっと音が出そうなくらいの勢いで真っ赤になった。やだ、可愛い。じゃなくて、いったい何を考えてるんですか?
「そ、それはその、あ、あるけど、さぁ。でも、その。こ、恋人って言っても、まだ、候補だし」
勢いよく右手を頭をかいて、首を振るようなオーバーアクションで視線をそらす智子ちゃん。その大げさな動きが、なんだかあまりにも初心な感じで、可愛い。
「えー? なになに? なにがしたいの? OKするとは限らないけど、言うだけならいいよ?」
あんまり可愛くて、もっと照れさせたくて、怒らないから、と促してみる。智子ちゃんは躊躇って、うー、とか、あー、とか言って、禿げてしまうんじゃないかと思うくらい頭をかいてから、手をおろして意味もなく太ももをバシバシ叩く。
どうでもいいけど、その動き、乱暴すぎて一瞬スカートがちょっとだけ浮かび上がるのが、智子ちゃんの表情に集中できない。
見るんじゃない、僕! あー、ほんと、そんな、裸ですら見られるようになっているはずなのに、機会があればついつい目が行ってしまう。だって、見れたらラッキーじゃん! 普段見えないものが見れたら嬉しいじゃん? 虹とか。それと一緒! ……誰に言い訳してるんだ、僕は。
「あの、じゃあ、その、とりあえず言うけど、引いたり、しない?」
「ん、しないしない」
思わずぼんやりしてしまいそうだったけど、何とか平静を装い返事ができた。
智子ちゃんの顔に何とか視線を戻すと、はにかむように微笑んでいて、普段は割と仏頂面なのとギャップでぐっとくる。
「その、て、手を繋いで、商店街を冷やかしたりして、喫茶店によって、割り勘でデート、とか」
「ふーん? じゃあ、とりあえずしてみよっか」
「えっ!? お、怒ったりしてないの?」
「え? なんで? 適当にお店見たりして、喫茶店行くだけでしょ?」
特におかしいところも、ひくところもない。むしろ普通過ぎて、悪いけど、ふーんとしか言いようがないんだけど。まぁ、でも智子ちゃんがそう言う普通過ぎるデートに憧れていたって言うのは、なんか可愛いし是非かなえてあげたいけど。
「じゃ、早速」
「ん、う、うん」
手を差し出すと、智子ちゃんは頬を赤くして視線を泳がせつつ僕の手をとった。本当にそっと、と言う表現の似合う優しいタッチで、少し笑ってしまう。
「くすぐったいよ。普通に握ってくれても、大丈夫だよ」
「そ、で、でも、男子の手だし。私とか、その、無駄に力強いし、握りつぶしちゃいそうで……」
そんなわけないじゃん。と笑い飛ばそうかと思ったけど、この世界の女子の腕力の高さを考えたら、日頃から妹担いだりして強そうな智子ちゃんでは笑えないので、苦笑におさえた。
「妹ちゃんの手を握るくらいに握ってくれたら、大丈夫だよ」
「妹ちゃんって、言っておくけど、たまたま卓也君がいる時は聞き分けいいだけで、そうじゃない時は本当に、腕ひねりあげて連行するくらい日常だからね」
「うん、聞き分けのいいときバージョンでお願い」
言うまでもないことだけど、一応そう言っておく。と言うかその、妹ちゃんの悪童アピール別にいらないからね?
智子ちゃんは神妙な顔で頷くと、僕の手を握る手に力を込めた。普通に握っている程度にはなったけど、ちょっと震えている。緊張しすぎだ。
まぁ、そこはあまりツッコんだら可哀想だろう。本人は真剣なんだし。
とにかく、手を繋げたので改めて下校する。
智子ちゃんの手は、少しかたい。しっかりした感じで、何というか、頼もしい感じだ。ぎゅっと握っても、柔らかいと言うよりはたくましいと言う感じだ。
「っ……た、卓也君、手、や、やわらかいねっ」
「あ、ありがとう」
いや全然嬉しくないけど。頬を染めて恥じらいのまま言われたので、そう返しておく。
少なくとも智子ちゃん的には、男子の手は柔らかいのがいいらしいし、褒め言葉と受け取るしかない。
「智子ちゃんの手はたくましいね」
「ありがとう。へへ、結構、腕っぷしには自信あるんだ」
見た目通りだね。でも何というか、こういう強そうな女の子がこんなに僕に惚れてくれているってのは、結構それだけで嬉しいって言うか、胸にくるものがある。
こう見えて家庭的な智子ちゃんは、こうして僕の手を握るだけで真っ赤になっちゃう初心な子で、僕を一生懸命褒めてくれている感じが健気で、とてもギャップ萌えだ。きっと色々なことを健気にしてくれるだろう。いやぁ、何というか、楽しみだなぁ!
僕が智子ちゃんの手の感触と反応にゲスな想像をしていると、智子ちゃんはぎゅ、ぎゅっと確かめるように僕の手を握りなおしてから、気を取り直すように僕と目を合わす。
「あのさ、今から、私の地元の方行っていい? そこの商店街、っても、その、しょぼいんだけど、そこ見て回ってほしいなって」
「え? うん、いいけど」
いいけど、なんだか意味深な言い方するなぁ?




