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あべこべ世界も大変です  作者: 川木
愛人編
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大家族?

 智子ちゃんは自分が作りたい時と、お母さんが仕事で遅いとわかっている時に夕食をつくるらしい。毎日ではないので、今日は放課後一緒に遊べると言うことだった。

 と言っても、別に毎日遊び歩いているわけじゃない。適当にぶらぶら多少の寄り道をしてから帰ると言う程度だ。毎日お金を使っていたら、とてもお小遣い足りないしね。


 でも今日は折角、智子ちゃんと呼ぶことになった記念だ。みんなでアイスクリームを食べることにした。夏休みが終わったとはいえ、まだまだ暑い。

 しかし、アイスクリーム屋のアイスは高い。夏休みではしゃいだ身としては、少し節制したいので、コンビニアイスだ。


「5人だし、大きめのコンビニじゃないと座れないよね」

「あ、私の家の近くのとこ、結構デカいコンビニあるけど」

「あ、ホントに? じゃあ智子ちゃんの……とこのコンビニいこっか」


 一瞬、智子ちゃんの家の近くなら、もうコンビニじゃなくて家にいけばいいのでは? と思ったけど、考えたら急に行っても迷惑だよね。まして家族多いわけだし、妹さんとか。

 市子ちゃんとかは、普段からお互いの部屋に入り浸ったりしていて、全然来てもいいらしいけど。なにせ市子ちゃんの家に行くときは、歩ちゃんに来ないように釘をささないといけないくらいらしい。


「てか、智子の家って最寄り駅どこなの?」

「××駅」

「あ、私たちの隣じゃないですか。あれ? 中学一緒でしたっけ?」

「多分そうじゃない? 何となく見た顔の気もするし。あと当たり前だけど、私、中学の時は染めてないし」


 智子ちゃん側は二人に見覚えがあったらしいけど、二人は気づいていなかったようだ。まあ金髪だし、それだけで全部の印象持って行かれるもんね。しょうがない。

 二人は少しだけ気まずそうに、一度顔を見合わせてから曖昧に微笑む。そして誤魔化すように市子ちゃんが智子ちゃんに向かって頷いた。


「そりゃあ校則違反だしね。でもそれ聞くと、私も染めて見たいなーって気になってくるよね」

「え、まじですか? 何色にします? 私が染めてあげますよ」

「急にどうしたの? 親切に。変な色にしそうだからいいよ」

「なんでですか。そんな勝手なことするわけないでしょう? 普通に購入時点にそそのかして、染めてから我に返る前に写真撮ろうとしてるだけですって」

「そんなだけがあってたまるか! 全く。油断も隙も無いんだから」


 相変わらずの漫才じみた会話をする二人に、思わず笑いながら、智子ちゃんもくすりと笑ったのを見て、少し安心する。

 思ったより、智子ちゃんも馴染んでくれているようだ。少なくとも、めちゃくちゃ緊張したりはしてないみたいでよかった。


 智子ちゃんの言った、智子ちゃん家付近のコンビニに向かう。中にもカウンターみたいになっていていくつか席もあるけど、外にもテーブル席がある。駐車場も大きい、結構な規模だ。それでいて、当然暑いので外のテラス席は未使用だった。

 とは言え陰になっているし、それほど不都合はないだろう。アイスを買って早速食べることにした。


 ちょっとせまいけどつめて丸いテーブルに5人でつく。左はかなちゃん、右が智子ちゃんになった。


「智子ちゃんはアイスの実が好きなんだ」

「ん? ああ、そう言えばそうかな。ていうか、基本的につい、分けられるもので考えてしまうから」

「分けるって、あ、妹さんに? 優しいお姉さんだね」

「ん、まぁ」


 智子ちゃんは照れたように一口食べて、視線をそらした。金の髪が揺れて、そのギャップが、可愛いなと思った。


「智子の妹さんって、いくつなんですか?」

「あ、私会ったことあるよ、確か小学生と幼稚園と、あれ? もう一人が中一だっけ?」

「いや、小6。めっちゃ生意気なんだよね」

「まあ、そのくらいってそんなものですよね。あとで黒歴史になったりして」

「歩もやばいもんね、てか、いまも現在進行形でつくってるみたいなものだけど」

「ちょっと、やめてください。ガチで」


 市子ちゃんの軽い感じのつっこみに、歩ちゃんが真顔で制した。え、なにこわい。現在進行形の黒歴史ってなに。つっこまないけど。

 雰囲気をかえたくてちらっとかなちゃんを見ると、かなちゃんは微笑みながら口を開いた。


「智子ちゃんの妹さんって、私も児童館の夏祭りでちらっと見たけど、大きい子はいなかったよね。集まってる写真とかある?」

「あるよ、まぁ一応ね。家族だから」

「そんな前置きしなくても。仲良くていいじゃない。羨ましいな。私は一人っ子だし。見せてー」

「ん」


 かなちゃんの催促に、智子ちゃんは何故か少し気恥ずかしそうに、視線を上にそらしつつ携帯電話を取り出して、画面を表示させてかなちゃんに差し出す。当然、僕の前を通過するので、そのまま僕も追いかける。

 家族の集合写真だ。7人の姿が映っている。4人姉妹と、祖父母も一緒と聞いていたから、わかっていたはずだけど、改めて見ると、7人家族って多いなぁ。智子ちゃんが真ん中の妹ちゃんに引っ張られているところで、賑やかそうな感じが出ていて、なんだか一枚の写真からでもう楽しそうだ。

 小6らしき子は澄ました顔をしていて、可愛い。どことなくどや顔だ。


「わー、なんだかすごい、楽しそうな感じで、いいね」

「そうだね。あと僕、お祖父さんって久しぶりに見たよ。結構カッコイイね」

「ふっ、ま、まあな。うちの祖父さんは、格好いいからな」


 智子ちゃんは嬉しそうにニヤッとした。よほど自慢のお祖父さんらしい。まあ、お祖父さん自体珍しいもんね。そりゃあ、自慢だよね。羨ましいなぁ。


「ありがとう。いまどき凄いよね、大家族」

「ああ。って言っても、大家族ってほどは自分では自覚ないけどさ。4人姉妹は多少珍しいけど」


 かなちゃんが携帯電話を返しながら言うと、智子ちゃんは頭をかきつつ受け取った。まあ確かに、7人って時点で多い! って思うけど、祖父母と同居で両親揃っていたら3人兄弟で7人になるか。この世界基準だとレアケース過ぎて普通とはいいがたいけど。


「多少ってレベル? 3人でも珍しくない?」

「え? そうなの? 確かにこの中では三人とも一人っ子だけど」


 首を傾げたかなちゃんのセリフに、思わず突っ込んで聞いてしまう。だって三人って、まぁある数字じゃないの?

 イメージで物を言ったけど、あんまりみんなの家族構成聞いたりしてないし、比較できないな。向こうでは友達いなかったし……。


「そうじゃない? え、どうだろ。私もたくちゃんと交友関係変わらないからなぁ。どうなの?」

「ん、そりゃあ、珍しいんじゃないですか? 小中では、数人いましたけど、大抵が一人っ子ですね。あ、でもむしろ2人の方があんまりみないですね。兄妹つくるなら3人、作らないなら一人って感じですね」

「そうだねぇ。そんな感じかも?」


 歩ちゃんの言葉を聞いて、はっとする。そうか。この世界では、夫婦の形で出産されるのは圧倒的に少数派。殆どが人工出産だ。計画的にしか子供は生まれない。女の人ひとりで産むから、殆どが一人っ子でも人口は横ばいだし、複数産むのは本人が欲しいって思った時だけなんだ。


「はー、なるほど。なんか僕、勘違いしてたかも。んー、でも僕は、せっかくだしいっぱい子供欲しいなぁ」


 せっかく、僕の子供を産みたいって言ってくれてる子が複数人いるわけだし、僕の場合はできたなら人数に関係なく産んでほしい。もちろん大変だろうけど、僕はお姉ちゃんがいてとても幸せだし、兄弟はいた方がいいと思うなぁ。


「……」

「ん? あれ、みんな急に静かになってどうしたの?」

「んん、いや、な、なんでもないですよ?」

「う、うん。大丈夫」


 ん? あれ、なんかみんな今、僕のことまじまじみてなかった? あ! やば、アイス溶けてきてる。早く食べよう。

 僕はアイスを食べながら、みんなの顔をちらっと見る。目が合うとみんな顔をそらした。最後にかなちゃんを見ると、何故かえへへと照れ笑いされた。

 え? なに、この子。アイス溶けて手についてるのに、慌てるでもなく笑ってる。もっと食べ物大事にしようよ。


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