歩視点 告白してしまった
「ちょっと歩! 待ってって!」
告白した。告白した。告白してしまった! 勢いで、ムードも何もあったもんじゃない中、勢いだけで告白してしまった。
「あああああぁっ」
「ちょ、ちょっと。恐いから、突然道端で唸らないでよ」
思わず逃げた私を追いかけてきてくれた市子が、背後でそう言ってくるけど、悪いけどそこまで気が回らない。今すぐ取って返して、なんとかフォローしたい。いやていうかむしろ、なかったことにしたい。
「落ち着けって。まず立って。ほら、怪しいから」
「う、うん」
腕を引っ張られて立ち上がる。確かに道端でうずくまっていたのは、不審者だったかもしれない。まだ頭の中はぐるぐる回っていて、どうしようと言う焦燥感だけで足踏みしてしまう。
「はいはい、とりあえずどっか座るから」
促されるまま、うなだれたまま歩き、適当なスーパーに入ってベンチに座った。涼しくて、少し頭も冷えてきた。
「はぁ……市子、卓也君の様子は、どうでしたか?」
「いや私もすぐ追いかけたし」
「つかえない……」
「はぁ? 心配してやったんでしょうが。もう。ていうか、いくら何でもいきなりすぎじゃない? 道端って」
「市子だって、たいがいいきなりな告白だったじゃないですか」
「そうだけど、一応加南子に先に言ったし」
「ぐ」
それを言われると。木村さんならともかく、私たちは加南子とも友達だったんだから、市子のはうまくやったと思う。あー、ほんと、私、肝心な時にテンパってこれだよ。あぁ、これだから私は。
「……珍しく、ガチで落ち込んでるね。大丈夫?」
「ガチなんだから、当たり前ですよ」
卓也君が好きだ。もう、当然のように息をするように好きになっていた。加南子と恋人になるのはごく自然なことだ。それはいい。そして市子に先を越されたのは正直ショックだったけど、しょうがない。お互い、どれだけ卓也君のことが好きかはわかっていた。だけど、木村さんって。予想外すぎる。
しかもそんな簡単に受け入れてしまうなんて。卓也君ビッチ過ぎない? そんなの、ますます惚れるわ! エロ漫画かよ!
あー、それでも、いざ告白すると不安でしかない。って言うか、受け入れられると思って普通に告白してしまったけど、いくら卓也君がビッチでも、好みってあるだろうし、と言うか、卓也君だってそんなまさか何人も愛人にするとは決まってないし。優しいのにかこつけて、たまたま友達になれたからって、愛人にして何て図々しすぎたかも。
嫌われたりして、最悪友達ですらいられなくなったらどうしよう。あー……自分でもわかってる。意気地がない。だから結局、市子にも木村さんにも先を越されたんだ。肝心なところで駄目だ。それは市子も同じだと思っていたのに。
市子だって、自分から決定的なことは言えない子だった。だけど、あのっ、って、たったそれだけだけど、先に言った。決定的ではなくても、それでも問いただされたら、ちゃんと言える。そうだ。チャンスさえあれば、ちゃんと言えるんだ。
「歩、落ち着いた?」
「まぁ、はい。大丈夫です。市子、フられたら、慰めてくれます?」
「え、なんでそんなネガティブなの?」
「逆にそんな、前向きでいられるはずなくないですか? だって私みたいな、チビ、卓也君ほどのイケメンに釣り合うかって言ったら全然ですし。顔だって……」
「顔なんて、卓也君は気にしないんじゃない?」
「まあ、確かに市子の顔がありなら、OKかもしれませんけど」
「はったおすぞ」
でもだからこそ、顔じゃない。卓也君はきっと、顔で差別をしない。だからこそ、顔以外の、何か一つ、魅力的なところがあるか。……私に、魅力的なところ? ある?
「……んぐぅ。リアルに、ふられた場合の相談していいですか?」
「え、いいけど。……まあ確かに、木村さん増えたとこにさらに1人ってなると、卓也君のキャパオーバーかもね」
そういうふられる可能性のある要因とかはいいんだよ。もう勢いで言ってしまってタイミングとか諸々悪かったのはわかってる。この際、ふられる前提で考えよう。
「フラれた場合、距離置かれると思います?」
「うーん、歩が全然気にしてないアピールすれば、大丈夫だと思うよ。卓也君、友達に飢えてるもん」
「ふむ。それは確かに。じゃあ、ふられた場合は、全然気にしてないけど、今後もチャンスがあればいくよ、くらいの明るさでいきましょうか」
「それはいいけど、実際どうなの? フラれた状態で一緒にいるのつらくない?」
「うーん、てか、正直に言うと、市子が付き合えてあわよくばって思ってはいますけど、そもそも、元々は私、男の子と付き合えるとか結婚できるとか愛人になれるとか、本気で思っていたわけじゃないですから」
いやまぁ、だから全然辛くないかと言えば、そんなことはないけど。でもそれってぶっちゃけ、今までも市子が付き合ってから結構思うところはあったよ? 本人は能天気な顔してたけど。
「え、そうなの? だいぶガチに頑張ってたじゃん」
「そりゃあガチで欲しいわけですから。でも、欲しいから、頑張って、それだけで結婚できるなら、誰でも結婚してますよね」
「あー、それはまぁ。と言うか、現実見えてたんだ?」
「失礼すぎる」
卓也君が好きだ。だから可能なら恋人になって、愛人になりたい。そう願っているし、努力だってできる。だけど、どんなに調子に乗ったって、絶対に叶うとまでは己惚れられない。
卓也君が好きだし、一緒に居たいし、ずっと、死ぬまで関わりたい。そうできるなら、友達でもただのパシリでも、なんなら奴隷でもいい。触れられなくても、恋愛関係でもなくてもいいから、卓也君といたい。
卓也君と出会うまでは、漠然と、誰かいい感じの男子とちょっとでも接点持てたらそれでいいくらいの感じでいた。可能なら結婚したいと思ってそう口にはしてたけどね。
だけどそれが、嘘偽りない、私の思いだ。
だけど市子の件で正直調子に乗った感は否めないけども。でもワンチャンあるかもと期待はしているけど、絶対100ぱー大丈夫なんてのは思っていない。だからこそ、こうして逃げてしまっているわけだし。
「私は市子より、諦めが悪いだけです」
「まぁ、確かに。私なんて、男子とどうこうとかとっくに諦めてたけど、あんたはずっと、諦めてなかったもんね」
「そうです。だから例え、選ばれなくても、好きな人の少しでも近くに入れるなら、それでいいんです」
「……あれ? 諦めてない?」
「卓也君を諦めない、と言う方向になっただけです。なんせ、卓也君ですから」
「なるほど、確かにそれはしょうがない。卓也君だもんね」
卓也君にふられて、仮に絶対愛人にもなれないとしても、じゃあ他の男の子を探そうなんて、微塵も思わない。もうすでに私は、卓也君に、人生を捧げたいくらい、大好きなんだから。
そう腹をくくれば、ネガティブ思考もどこかへ消えた。うん。大丈夫だ。なんとかなる。てか実際、ワンチャンの可能性0じゃないしね! 今は無理でも、もしかしたら20歳、30歳とかくらいになってもう一人追加って流れ出てきたら波に乗れるかもだし。うん。卓也君のことなら、80歳でも待てるな。




