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あべこべ世界も大変です  作者: 川木
愛人編
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木村智子愛人希望16歳

「木村さんは、じゃあ、本気で僕が好きなの? ちょうど手近にいたからとか、たまたま愛人をもってお願い聞いてくれそうだからとか、そうじゃなくて、僕だから?」

「そりゃ、当たり前でしょ。父親の顔なんて言って、好きな相手じゃなきゃ、意味がないに決まってるよ。好きだから、写真一枚でも我慢できるって、そう言う話」


 元々、子供は好きだから、大人になったら政府の人工受精でたくさん子供を産もうと思っていた。男と結婚すると言うのは祖母の世代よりさらに難しいから、最初から諦めていた。

 だけど僕と出会って、僕の子供を産みたいと思って、でもかなちゃんがいるからと諦めていた。愛人をつくる人なんて一握りだから。でも一人でも愛人をつくるなら、チャンスがあると思ったらしい。


 本の僅かでも可能性があるならと、なりふり構わず一番にと、教室でみんなの前でも告白してきたらしい。なんでもみんな愛人の件を知ってるし、他の人に先を越されたくないから、と。


 それを聞いて僕は少しあきれる。僕を好きでいてくれるのはわかったけど、それにしても先を越されるって、逆にどれだけ好きなの。僕はモテモテかよ。

 まあ、すでにかなちゃん、市子ちゃんと木村さん、もしかして委員長もいるなら、モテモテと言っていいかもだけど。そんな慌てる必要はないでしょ。


 でも、まぁ、そう思ってしまうほど、僕が好きで盲目になっているってことでもある。そう考えると、照れくさい。

 でも、そうかー。僕のことを本気で好きで、僕の子供が欲しいのか……。


「じゃあ、とりあえず候補と言うことで」

「ちょ、ちょっと待った、ごめん、たくちゃんが決めることとか言っといてあれだけど、ちょっと待って」

「え、な、なに?」


 とりあえず市子ちゃんと同じく候補ってことといこうと提案しようとしたら、かなちゃんから待ったがかかった。肩を掴んで揺らされて、慌てて振り向く。

 木村さんに手で合図して、数歩離れてかなちゃんと内緒話の体勢になる。


「なに? どうしたの? 木村さんとは気が合わなさそうだから駄目とか?」

「いや、そういうんじゃないんだけど、市子ちゃんの時は結構仲良かったし、即決もわかるよ? でも、木村さんってそんな友達度も高くなかったのに、告白されたら即候補って。それじゃあ、これから何人増やしていくつもりなの?」

「何人って、大げさだなぁ」


 確かに今はモテている。それは否定しないけど、人生でそんなに馬鹿みたいにモテることある? と僕は笑い飛ばしたのに、かなちゃんは真顔だ。


「いや、大げさじゃないよ」

「大げさだって、僕がそんなにモテると思ってるの?」

「思ってる。でもじゃあ、仮に、考えてみて。もしクラス全員とか、そのくらいの人数から告白されたら、30人愛人作る?」

「いや、それはあり得ないでしょ」

「仮にだって。そもそも、じゃあたくちゃんは愛人2人もつくるって、私と恋人になるとき想定してた?」

「してないけど……うーん」


 そう言われると、困る。確かに僕が思っていたより、僕はこの世界でモテるらしい。だから僕が今思っている以上に、愛人になりたいって人が絶対出てこないとは、言い切れないかもしれない。

 言葉に困る僕に、かなちゃんはここだと思ったのか、グイと顔を寄せてさらに言いつのってくる。


「じゃあ、逆に、何人くらいまでは愛人作ってもいいと思う? 私が心配してるのは、言われるまま愛人を増やして苦労するのはたくちゃんだからだよ? それとも、今木村さんが言ったみたいな形だけ、年に一回だけ最低会うだけの愛人をいっぱい作ったりして、それでもいいって思う?」

「そ、それは駄目だよ。法的にありって言っても、やっぱり、愛人でもちゃんと、恋人としてちゃんと付き合うのが筋だと思う」

「うん、私もそう思うよ。私が一番なのは譲らないけど、だからって愛人にいい加減に接するたくちゃんは、違うと思う」


 いくら相手が本当に子供だけでいいって言ったって、僕が相手を好きじゃないなら相手にしないし、相手が僕を本気で好きじゃないなら、いやだ。子供を産んでくれたなら、それなりに責任だってとるつもりだ。そりゃ、元の世界みたいには無理だけど、この世界なりに、それなりににはなるけど……。

 そう、だよね。僕も、僕がいいかもって思うだけじゃなくて、ちゃんと責任とって、少なくとも誠実に恋人として向き合える人数じゃないと。30人とか絶対無理。


「友達でも、30人の時点で難しいし、えっと、10人でも、無理だよね……さ、ご、5人」

「別にここで言ったのが最終決定って訳じゃないんだから、小刻みに増やしたりしなくてもいいんだけど、ちなみに5人の根拠とかある?」

「え、えーっと。5人なら、例えばデートするにしても、月から金まで会って、週末はお休みしても、週に一回は恋人として会うから、社会人ならこんなものなのかな、とか?」


 わかんないけど。社会人になったことないし。と言うか、まるで愛人相手の恋人活動を仕事みたいに行ってしまっているけど。でも愛人をつくる以上、それが僕の誠意としての義務みたいなものだよね。


「その基準が正しいかは、私はわからないけど、でもたくちゃんがそう思って、その上で、人生でできる5人の愛人の1人に、木村さんを入れてもいいって思うなら、後は好きにしたらいいよ」

「う、うん」


 あくまで僕が愛人作り過ぎて困るのを心配してくれてたって言うのはわかるけど、でも、その言い方、僕がめちゃくちゃ偉そうに女の人選んでる立場見たいで、なんか嫌な言い方だなぁ。


 よし、じゃあそういう事で、改めて考えよう。僕は愛人を5人しか作らない。その上で、木村さんをその一人に選ぶか。もしかしたら今後、もっといろんな人と出会って、もっと、いろんな魅力的な人が僕を好きになってくれるかもしれない。そうだとして……。


「うん。僕は、木村さんなら、って思ってるよ」


 と言うか、木村さんに、めちゃくちゃはっきりと、僕の子供が欲しいって言われて、僕は正直興奮した。それにそれだけじゃなくて、木村さんみたいに面倒見がいい人が、妹さんたちにするみたいに、僕の子供を育ててくれて、騒がしい家庭をつくるなら、そこに父親としていられたら、きっとすごく楽しくて幸せだろうなって思う。

 うん。木村さんに、僕の子供を産んで、育ててほしいって思う。


「そっか、うん。じゃあ、ごめんね、時間とらせて」

「ううん。いいよ。指摘してくれてありがとう。僕も、ちゃんと覚悟決めたよ」


 僕らは内緒話をやめて、木村さんを振り向いた。めっちゃそわそわしていた木村さんが、はっとしたように直立する。まるで授業中の居眠りを指摘された不良みたいだ。思わず笑ってしまう。


「ごめんね、木村さん、お待たせ」

「お、あ、ああ。大丈夫。大事なことだし、そんなすぐ、答えられなくても、しょうがないって思うし」

「うん、ごめんね。木村さん、僕、木村さんのこと、愛人候補として、まず恋人仮ってことで、お試しで付き合ってみたいんだけど、それじゃ駄目かな?」

「えっ、そ、その。それって、子供だけじゃなくて、ちゃんとした恋人みたいな、木野山みたいな身内枠の、愛人候補として、考えてくれるって、こと?」

「え、うん。そうだよ」

「っしゃ! そんなの、いいに決まってるじゃん! まじで、まじでよろしくお願いします!」

「あ、うん。こちらこそ、よろしくね」


 満面の笑顔になる木村さんに、僕もつられて笑顔になりながら、そっと握手をした。

 こうして僕の愛人は、2人(予定)となった。



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