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あべこべ世界も大変です  作者: 川木
愛人編
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登校日

「ふー……何だか、疲れたなあ」

「どうしたの? たくちゃん?」


 家族旅行から帰って来て、翌日。旅行はのんびりしたものだったけど、はしゃいだのもあってか、はたまた慣れない環境での気疲れか、意外と疲れた。

 何だか勉強する気にならない。よし。こんな時はいっそのこと、今日は勉強しない。気持ちを切り替える為にも、何かしよう。


「と言う訳で、かなちゃん何か面白いこと言ってよ」

「何がと言う訳なのか、何にもわからないからね?」

「手抜きしないで僕の心情読んでよー」

「エスパーじゃないんだから。無茶ぶりしないで。旅行はどうだったの?」

「楽しかったよー。でも気疲れしたから、今日はもう勉強する気になれないの。だからなんか、気晴らしに楽しいことしようよ」

「え? た、楽しいこと?」

「……いや、エロいことではないから」


 急ににやつくのやめて。展開によってはやぶさかではないけど、そんな、ねぇ。あからさまにがっつかれると、やっぱ引くよね。まして疲れてるって言ってんじゃん。


「かなちゃんが僕のこと大好きなのは十分わかってるけど、すぐエロいことにつなげようとするのはどうかと思うなー」

「だ、だってしょうがないじゃん。大好きなんだから」

「それはわかってるって、ちゃんと前置きしてるよ」

「それに、たくちゃんがエロ過ぎるのが悪い!」

「責任転嫁するのはよくないと思います。露出して誘ったわけでもないのに、そういうクレームはやめて」

「じゃあ、可愛すぎるのが悪い。美形過ぎ」

「いくらなんでも身内びいきが過ぎるっていうか、美形はないでしょ」


 可愛い、くらいなら受け取ろう。可愛すぎるも惚れすぎかですまそう。美形過ぎって、引くわ。可愛いとか格好いいは仕草や愛嬌で何とでも言えるけど、美形って。客観的感でてきてきついわー。

 ジト目で文句を言う僕に、焦って言い訳していたかなちゃんは、一度落ち着くようにペンをくるりと回して視線をそらした。それから、んーとペンの頭を唇の舌にあててからまた口を開く。


「身内びいきねぇ。そりゃないとは言わないよ。ただでさえ長い付き合いだし、家族感あるし、初恋の相手だし、しかも恋人だし、結婚するし、そりゃあ、フィルターはかかっちゃうけどさぁ。実際、客観的に見ても顔、いいと思うけど?」


 真顔で言われた。なんだこいつ。自分の恋人に対して、客観的に見て顔がいいだって? どういう神経で言っているんだ。照れる気持ちがなくはない。少なくとも本人も言い訳とかじゃなくて本気で思っているっぽいし。

 でも、それより引くわ。僕だってかなちゃんのこと可愛いと思ってるよ? でも美形とか、客観的に顔面偏差値いいとまで言わないよ。思っているけど、実際には好きだからフィルターかかってるんだろうなって自覚してるからね。


 周りを見て見れば、かなちゃんくらいに可愛い子はたくさんいる。もちろんふとした時に、めちゃくちゃ可愛い世界一可愛いって思ったりするけど、平時はまともな思考力があるんだから。いつどのタイミングで見てもそうとは思わない。


 と言うことは真面目に説明してあげた。僕を評価してくれるのは嬉しいけど、そんなことを言いふらされたら恥ずかしすぎる。言いふらすはなくても、市子ちゃんとかあたりの前だと平然と言ったりしそう。そうなって恥ずかしいのは僕だ。


「……私はまぁ、そりゃあ、普通の顔だけど、そんな真顔で言われると、へこむんだけど」

「いや、僕にとっては世界一可愛いから、へこまなくていいから」


 ただ世間一般的な基準とはまた別だよってだけだから。そこ、区分するの大事。


「え? そう? へへへ……」


 うん、まぁ。そういう単純なとこ、本当に可愛いと思ってるよ。

 てか、話だいぶずれたな。確か僕が疲れているって話だったのに。


 展開を変える為、僕はノートをたたんで勉強道具を片付ける。


「あ、ほんとにやめる気?」

「てかさっきから手が止まってるんだから、同じでしょ」

「一時休止と、終了は違います。あー、もう、私のまで」


 かなちゃんの分も教科書を閉じさせ、強引に全て片付ける。かなちゃんは抵抗こそしないけど、めちゃくちゃ呆れたような顔をしていて、ペンは持ったままだ。強情だなぁ。


「いいでしょ。もう。しょうがないなぁ、かなちゃんは」

「何が、しょうがないのはどっちなの」

「疲れた僕を癒すために、膝枕を命じます」

「……しょうがないなぁ、たくちゃんは」


 かなちゃんは隠しきれないほど頬をにやけさせて、いそいそとペンと消しゴムを片付けた。

 だからね、かなちゃんのしょうがないのはそういうとこだよ。可愛いけどね。









 夏休みも後半になってから、急に時間の流れが速くなったように感じる。登校日などと言う、大して意味の分からないイベントがやってきてしまった。


「登校日って意味わからなくない?」

「意味って言われても。宿題の進捗とか、生徒の状態とか確認したいんじゃないの?」

「分からなくはないけど、生徒側のメリットなくない?」

「メリットときたか。いやまぁ、なくてもよくない? あ、そうそう。久しぶりに友達の顔見れるよ。あ、部活ってあるのかな? あったら部活の先輩の顔も見れるよ」

「え、別に見ても……」


 ていうか、最低週一でボランティア活動で顔合わせてるじゃん。全員じゃないけども。クラスのみんなとも、ねー。だいたい一回以上顔合わせてるし。

 いや別に嫌じゃないけど、なんかちょっとめんどくさいよね。制服も久しぶりだし。


「たくちゃんって、友達友達ってうるさくして数を増やしたわりに、ドライって言うか、関係性を深める気ない?」

「ないことはないけど、もう結構十分クラスの子たちと仲いいし」

「そうだけど……あれ? 友達100人とか言ってなかった?」

「!? ……い、言ってた!」

「え、そんな驚いて言わなくても」


 いや、驚くよ。だって、完全に忘れてたもん。完全に今、はっ! ってなったよ。脳がぴくってしたよ。あー、かんっぜんに忘れてた!


「……いや、でも、闇雲に増やすのも違うよね」

「結構今更感あるけど、そりゃあそうだよね。たくちゃんがめちゃくちゃに人付き合い大好きで、休日は朝昼晩で全部違うグループと遊ぶのを楽々毎日こなして楽しめるような感じなら、そりゃあ100人いてもいいけど、そうじゃなきゃ、100人覚えるのも大変だし、友達って言うカテゴリの知人程度の付き合いしか無理じゃない?」


 僕が今一瞬で、じゃあやっぱり友達作らなきゃ! と思った瞬間に、いやでも今の友達をもっと大事にするところからじゃない? と否定してそう口にしたのに。

 かなちゃんと来たら、そもそも僕が友達作りに躍起になったことから否定してきた。僕の否定はいずれもっと友達増やす前提で言ってたのに。


「……」


 でも確かに、言われて見ればその通りだ。だって、僕にとって友達の基準はかなちゃんから始まっている。かなちゃんが恋人となり身内と自覚したから、友達の基準が引き下げられたとはいえ、確かに僕的に、今のクラスメイトを全員友達と定義してはいるけど、正直、仲良し度は結構差がある。

 やっぱりダントツで市子ちゃんと歩ちゃん、はまぁ、市子ちゃんが段階変わったから歩ちゃんか。は、友達を遊びに誘うとなれば一番に思い浮かぶ相手だ。次はクラスの人5人くらいが思い浮かぶかな。そして他の人が、とどうしても優先順位が出てくる。後半の人はやっぱり、連絡も頻繁にとっているわけじゃないし、まだ距離感掴み切れていないとこもある。

 だからこれからもっと友情を深めていこうとは思うけど、これをさらに倍どころじゃない人数になると思うと、とんでもないな。誰だ。友達百人とか軽く言ったの。


「あ、あれ? たくちゃん、え? もしかして私言い方きつかった? 違うよ? 別にそんな、たくちゃんがコミュ障とか言ってるわけじゃないよ?」

「そんな風には誤解してないし、あえて言うってことは多少意識してるよね」


 考え込んで僕が黙ったから、フォローしなきゃって思ったのはいいけど、言わなくていい本音が出てるよ。いや、人付き合い得意とは言えないのは自覚してるけども。


「でも、そうだね、しばらくは増やすんじゃなくて、今のクラスメイトと仲を深めることを考えるとするよ」

「うん。それでいいと思うよ。あ、とはいっても、深めすぎてややこしい人間関係にしたりしないでよ」

「ややこしい人間関係って何さ」

「全員に惚れられるとか」

「だからさぁ、そういうの恥ずかしいからやめよう?」


 僕のことそんな美形だと思ってるの、かなちゃんだけだから。あえて増やしてもお母さんくらいだよ。

 冗談何だか半分本気なのかわからないかなちゃんに突っ込みをいれつつ、学校の門をくぐりながら、どうやって仲良くなっていこうかなと考えていた。


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