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異世界仙人  作者: 黒羽光一 (旧黒羽光壱)
魔剣というか妖刀獲得編
23/80

第15話:疑問符は白目向いたって特に尽きる事はないようです

(前回までのあらすじ:竜殺したら魔王扱いされたから逃走)

 

 

 ――湖に、柱が上がった。

 その日、湖のはしで釣りをしていた老人は語る。特に、何ら変哲もない日だったと。魚の寄ってくる割合も変わらず、湖は穏やか。天候も雨の気配すらなく、特に何も違和感はなかったと。

 だがその日――湖の中央に、一つの黒い人影が落ちたのが、全ての始まりであった。ずどん、としか形容できないほどに巨大な音と共に、湖から水の柱が上がった。並の高さではない。もういっそ、そのまま空の雲まで届くんじゃないかと、それほどに高いものだった。それがぼとんと沈んだ後、巨大な波が周囲へ伝播した。老人は急いで逃げようとしたが、足をすべらせ船着場の上に転ぶ。嗚呼、いかんともせんかな。巨大な波が彼を襲おうとした。

 その時である。

「あー、陸地じゃないだけ被害は小さかったが、結局駄目だなこれ。あんま跳ぶもんじゃねーな」

 突如現れた、白い髪の青年。のっぺりとした顔と、ぼさぼさになった髪。体に張り付くような袖まである下着と、星のようなサインの描かれたズボンをはいていた。全身はぐしゃぐしゃで、まるでたった今水辺に落ちて這い上がってきたようでさえあった。

 彼は、ほい、という風な軽い蹴りのモーションを披露しただけ。

 ただその動作だけであったにも拘らず――老人に迫ってきていた波が、あっという間に蹴散らされた。波自体は周囲に分散し、船着場を壊すことなく岸へたどり着き、ざぶん、と一部の森を濡らす。

 数秒遅れて、柱になった瞬間に打ち上げられた水が、雨のごとく降り注ぐ。それを鬱陶しそうに払いながら、青年はぼやいた。

「せっかく獲得したらしいテレポート使ってみても、やっぱ勝手がわからんな。跳躍よりはマシそうだが、何か気持ち悪いし。応用方法とか――ん? 嗚呼、ま普通はそういう使い方するもんじゃねーだろうな」

「あ、貴方は一体……?」

 老人に振り向きながら、彼は肩をすくめて言った。

「悪かったなじーさん。謝罪ついでに言っておくと、釣りはもう明日にしておけ。それからエサは虫より肉とかザリガニとかの方がくいつくみたいだぞ?」

 呆然とする老人にそれだけ言い残し、青年は、船着場から山に登る。

「……何だったんじゃ?」

 その質問に、答えられるものは誰も居なかった。





 レコーの指示で着地場所に太朗が選んだのは、とある湖だった。位置的には松林夫妻の提示した地図の方角にやや近い位置。落下しつつある太朗に、彼女は何故かハイテンションで話していた。

『――ぴょん! たろさんたろさん、すっごいんですよ! さっき気付きましたけど、たろさん今すんごいんですよ!』

「誰がたろさんじゃい。で、何がすごいって?」

『――たろさん、テレポートできるんですよ! あとアイテムボックスみたいな、無限収納空間とかも作れるんですよ?』

「よく分からんが、そんなもんあるならこのルーズリーフだけでも入れてやってはくれないか?」

 劣化の激しいルーズリーフを取り出し、太朗は言った。魔力をかけて両手で押さえてはいるものの、さきほどから段々強くなる大気により、太朗の頬とか服とかルーズリーフとかはめっちゃバタバタいっていた。レコーは、高いテンションのまま肯定を示す。

『――ぴょん! では僭越ながら私が一部、能力を借りまして……。他に入れるものとかありますか?』

「あー、わんこのコアとか」

『――承りぴょん! ではでは――“幽界天門(アストラルゲート)”!』

 彼女の言葉と同時に、太朗の目の前に星型のサインが出現した。太朗の服にプリントされているそれと同じく、五芒星のようでいて、どこかねじくれており、火のような目のような感じの絵が刻まれているような、そんなサインだ。

 その光るサインの向こうから、少女が顔を出した。

「――ぴょん! ではではたろさん、お手を拝借」

「……って、てめぇレコーか!?」

 いつか見たビデオ(?)の映像のままの姿で、彼女は上半身を乗り出して出現した。青髪赤目な十三、四歳くらいの少女。白いワンピースに、腰のあたりからコウモリの羽根のようなものが出ている。おリボンのようにも見えるそれと、手の甲に描かれた蹄の跡のようなそれが、美少女なことを除けば特徴といえば特徴だった。

 反射的にツッコミを入れたものの、時間的猶予があまりないので太朗もすぐに彼女に手渡す。がっちりとルーズリーフとコアをホールドした後、そのサインの内側にレコーは引っ込んだ。光と共にサインが消え、太朗は思わず呟いた。

「……そういえばいつまで俺、跳躍したままなんだ?」

『――目測であと十秒、九秒……』

 彼女のカウントがゼロになるのと同時に、太朗は湖へ激突した。痛みは欠片もなかったが、吹き上げた水があまりにもあんまりだった。

『――周辺の人的被害、ゼロ。被害発生率、ゼロ。被害発生確率、1』

「いや、最初の二ついらんぞ。……どうしたら迷惑かからん?」

『――テレポート。イメージすればいい』

 いやイメージて、と続けようとした太朗の脳裏に、突如、周辺の情報が流れてきた。周辺の地形、湖のコの字型に折れ曲がった感じの形状、そして老人がつりをしている映像と、そのポイントが俯瞰図でマーキングされてるように、彼の脳裏に表示された。

『――しますか?』

「まあ、自分のケツくらい自分で拭かないといかんだろ」

 特に意識するともなく、太朗はそのマーカー付近に、意識を集中させた。方法がわかっていたわけではない。が、唐突にまるで「そうするのが正しいとあらかじめ決められていたかのように」、直感的に理解できた。

 次の瞬間、空間が「ぬめっ」というように彼の身体を押しつぶす感覚が走る。不快感はあったが、太朗は何も言わずにそのまま居た。すると、どうだろう。一秒も掛からずに彼は、転んで動けなくなっていた老人の前に現れたではないか!

「おらっ」

 いつもの様に蹴り飛ばす太朗。これで何でもかんでも解決してしまうあたり、不条理である。

「……せっかく獲得したらしいテレポート使ってみても、やっぱ勝手がわからんな。跳躍よりはマシそうだが、何か気持ち悪いし。応用方法とかあんのか?」

『――悟○とかバトル中に使ってなかった?』

「嗚呼、ま普通はそういう使い方するもんじゃねーだろうな。てか、俺は使える気がしない。何ぞ集中せなあかんのや」

 別に関西出身というわけでもないだろうに、太朗の口調は何故か関西弁混じりだった。

 振ってくる湖の水をうざったそうに払いながら、老人に謝って歩く太朗。湖が見えなくなったあたりで、山を見上げ、つぶやいた。

「……山だ」

『――感想に捻りが何一つない件について』

「うっせ。どうせ山ってカテゴリに違いはねーだろ。砦も遺跡もないし、ワンコの墓もないし」

『――でも、まだガエルス王国内』

「ぎりぎりのラインを狙って落ちてきたから、まそだろな」

 さて、と言いながら、太朗は足の速度を速める。横方向(ちょっと上に角度がついているが)に跳躍を開始する太朗。流石にひとっとびで雲間まで飛ぶような暴挙はせず、せいぜいひとっとび8、9メートルほどである(これでも充分酷いが)。時々木々に激突したりするものの、特に痛みを感じないのか、こりずに進む。その流れであっという間に彼の身体は渇ききったりしているが、本人に自覚は薄かった。

 そして山の頂上に至った際、彼は、のっぺりとした無表情で嘆いた。

「……何故だろう、山頂踏破したのに全然達成感がない」

『――端的に申し上げて、早過ぎぃ! といったところかと』

「情緒も感じず苦労もなく、ただ風景を見ていただけだとこんなものって感じか……」

 ガエルス王国の中ではそれなりに高い山を、わずかに三十分もかからず踏破した男の台詞である。以前山を登った際とは、速度も感想も大違いだった。

 と、不意に彼の視界と、全身にノイズが走る。

「あー、これどうにかならねーか? 正直、うざいんだけどこれ」

『――座禅を組むのが一番かと』

「結局そこに行きつくのか……。ちなみに何ぞ?」

『――瞑想状態に入る際、藤堂太朗は魔力の範囲拡張のみならず、周囲の元素や生命エネルギーを己の体内に浸透させている。それを利用すれば、無問題』

「まずその話しが初耳だったんだが、まあいいや。どうせ魔力が上がったから開放された情報とかなんだろうし」

 と、彼は黒々とした山の火口を覗き込み、つぶやいた。「なんとなく予想つくんだが、一番生命力の吸収が良い場所って、山頂とかじゃねーか?」

『――肯定。よくわかりましたね、御主人様ぁ』

「あー、委員長が前にそんな話しをしてたような、してなかったような……。何だったか、風水? 占い? 詳しくは知らんが」

 実際、牧島(まきしま)香枝(かえ)は藤堂太朗に説明する際、パワースポット、磁気、気象や天候、オカルト、かぐや姫伝説などを交えて雑談していたのだが、ほとんど覚えられていないようだった。本人が聞いたらどんな顔をするかはさておき、太朗は足を進め、火口の真ん中に腰を下ろした。

「どれくらいで回復する? レコーちゃん」

『――二日から一週間』

「その間に噴火する恐れは?」

『――流石にありませんですよぅ、あと休火山ですぅ』

「それが前ふりにならないことを祈る。じゃ、とりあえずやるぜー」

『――おー』

 適当に軽いノリでレコーにそんなことを言いつつ、太朗は、両手を合わせて、目を閉じ、背筋を軽くまげて深呼吸を――。


「って、何こんな滅茶苦茶な場所でそんなことしようとしてるの、君!?」


 あん? と片目を開けて、声するほうを見る太朗。

 そこには、背中から羽根を生やした、天使のような女性が居た。


『ーー条件開示、開放。運命の女神、アエロプス』


 どうやら何ぞ面倒なイベントが発生したらしい、と太朗は欠伸をした。

 

 

遊園地やホワナイに先駆け登場

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