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夜空色の青春  作者: 上永しめじ
第二章「絆と葛藤の深化」
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第30話「冬の足音、旅立ちの朝(2)」

 



 食事を終え、最後のホームルームへ向かう廊下。


 窓の外には、冬特有の重たい灰色の雲が広がっていた。窓ガラス越しにも、冷たく澄んだ冬の空気が伝わってくるようだ。



「冬休み、楽しみだね」


 セドリックが窓の外を見上げながら呟く。


「うん! 今から何をしようかワクワクが止まらないわ」


 カリナが目を輝かせる。


「新学期になったら、冬休みの話をたくさんしようね」


 ルイが微笑む。


「ああ。きっと、みんな良い思い出を作ってくる」


 オーウェンが穏やかに、約束するように言った。



 ホームルームは、名残を惜しむ間もなくあっという間に終わった。


 担任のシュトゥルム先生から冬休み中の注意事項と課題の説明があり、最後に「良いお年を」という言葉で締めくくられると、教室の空気が一気に解き放たれる。


「はい、解散!」


 その号令と共に、静まり返っていた教室は一転して喧騒に包まれた。


 ガタガタと椅子を引く音、鞄の留め具を外す音、そして待ちきれないように交わされる友人同士の会話。


 キオも席に戻り、渡されたばかりの分厚い課題の束を鞄に詰め込んだ。ずしりとした重みが、休みの長さを物語っている。


 コートを羽織り、マフラーを丁寧に巻く。周囲を見渡せば、生徒たちは思い思いの冬支度を整え、教室は急に色とりどりの外套で溢れかえった。


「よし、行こうか」


 オーウェンが革手袋をはめながら声をかけてくる。


「うん。寮に戻って、荷物を取ってこないとね」


 キオたちは連れ立って教室を出た。


 外に出ると、廊下はすでに帰省準備を始める生徒たちの熱気でごった返していた。大きなトランクを引きずる音や、友人たちと別れを惜しむ声が、校舎中に響き渡っている。


「じゃあ、ここでいったんお別れだね」


 寮の前で、五人は足を止めた。


 吹き抜ける冬の風が頬を刺す。吐く息は白く染まり、肌に触れる空気は凍てつくように冷たい。


 それでも、仲間たちと一緒にいるこの場所だけは、不思議と寒さを感じなかった。



「オーウェン、カリナ。城で楽しんできてね」


 キオが二人に声をかける。


「ああ。キオも、ネビウス邸で良い休みを」


 オーウェンが穏やかに微笑み返す。


「キオ、ルイ、ベアトリスによろしくね! お土産話、楽しみにしてるから!」


 カリナが元気よく大きく手を振った。


「セドリック、エルヴィン君と楽しんできて」


「うん! 舞台の感想、たくさん話すね」


 セドリックが嬉しそうに頷くと、コロネも「キュウ!」と元気な声を上げた。


「ルイも、ご両親によろしくね」


 キオがルイに向き直る。


「うん。キオ君も、ご家族に会えるの楽しみだね」


 ルイが温かい日差しのような微笑みを向けた。


「三日後、ベアトリスさんと一緒にお邪魔するから......待っててね」


「うん。楽しみにしてる」


「じゃあ、みんな......また会おうね」


 キオがそう言いかけた瞬間、カリナが「待って!」と声を上げた。


「最後に、みんなで手を重ねよう!」


「手を?」


「うん! こうやって......」


 カリナが手袋をしたままの片手を差し出す。


「それでいい冬休みをって願うの!」


 カリナの手の上に、オーウェンの手が迷いなく重なった。


「いいね。やろう」



 続いてルイ、セドリック、そしてキオ。

 五人の手が、ひとつの場所で重なり合う。


 精霊たちも、その輪を取り囲むように集まってきた。メラメラちゃんの温かな炎、フレアの小さな火花、トロプの水滴、コロネの微かな電気、ソラリスの荘厳な光——それぞれの輝きが、五人の手を優しく包み込む。



 シュバルツは少し離れた場所から、その光景を静かに、けれど優しい目で見守っていた。


「せーの!」


 カリナの掛け声に合わせて、五人は一斉に手を上げた。


「「「「「いい冬休みを!」」」」」


 重なり合った声が、高く澄んだ冬の空に響き渡る。


 仲間たちの笑顔が、何よりも眩しかった。



「さあ、そろそろ行かないと」


 オーウェンが名残惜しそうに告げる。


「馬車の時間があるからね」


「うん......」


 カリナがしょんぼりと肩を落とす。


「でも、また会えるもんね。新学期に」


「ああ。必ず」


 オーウェンが力強く頷く。


「みんな、身体に気をつけて」


 ルイが気遣うように微笑む。


「元気でね。また会おうね」


 セドリックが手を振る。


 五人は、それぞれの方向へと歩き出した。



 振り返りながら、何度も手を振り合う。その姿が、白い息の向こうへ少しずつ遠ざかっていく。


 キオは立ち止まり、仲間たちの背中が見えなくなるまで見送った。


『いい友達だな』


 シュバルツの声が、心の中に響く。


『うん。本当に......みんながいてくれて、幸せだよ』


 キオは空を見上げた。


 灰色の雲が広がる冬空。けれど、その向こうには必ず青空があることを、今のキオは知っている。


 その静けさの中で、キオは確かな幸せを噛み締めていた。




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