第25話「兄との再会、幸せな家族(3)」
まもなくして、ルイの実家「リンネル洋食屋」に到着した。
トーマスもアンナも人間形態を解いたシュバルツに驚き、みんなの精霊たちに圧倒され、賑やかな再会を果たしたが。そんな精霊達をもトーマス達は優しく迎え入れた。
店の中は、相変わらず温かく清潔な雰囲気に包まれていた。
真っ白なテーブルクロスがかけられたテーブル。窓際の花瓶に飾られた野の花。すべてが愛情に満ちている。
「さあ、こちらへどうぞ」
アンナに案内されて、一同は店の奥にある広めのテーブルに座った。
「ノックス殿は......」
トーマスが気を使って尋ねると、ノックスは首を振った。
「いえ、護衛として離れた席に座るつもりはありません。今日は、キオの兄として、みんなと一緒に食事をさせていただきたい」
その言葉に、オーウェンが微笑む。
「ノックス、ありがとう。その方がキオも喜ぶよ」
「こちらこそ、感謝する。オーウェン様のお陰で、キオに会えたしな。それに、マーカスのようにガチガチに固まる必要もないだろう」
ノックスが冗談めかして言うと、みんなが笑った。
「さて、料理の準備をしようかね」
トーマスが腕まくりをすると、ルイが慌てて立ち上がる。
「待って、お父さん......!」
ルイが少し緊張した面持ちで、ゆっくりと口を開く。
「今日は私が料理を作りたい」
「「え?」」
トーマスとアンナが驚いた顔をする。
「学校で練習して、お父さんとお母さんに食べてもらいたくて」
ルイの真剣な表情に、みんなも笑顔で頷いた。
「楽しみだね」
キオが優しく微笑むと、ルイも安心したように笑った。
「ルイ、頑張ってね」
カリナが励ますように言う。
「うん、ありがとう」
ルイが厨房へと向かう。
しばらくして、店の中に良い香りが漂い始めた。野菜と肉が煮込まれる、温かな香り。
「良い匂いだな」
ノックスが感心したように呟く。
「ルイの料理は本当に美味しいんだよ」
キオが誇らしげに言った。
「そうか。楽しみだな」
やがて、ルイが大きな鍋を運んできた。
湯気の立つポトフ。丁寧に煮込まれたじゃがいも、人参、玉ねぎ、キャベツ、そして牛肉。すべてが美しく盛り付けられている。
「お待たせしました」
ルイが少し緊張した面持ちで言った。
「わあ、美味しそう!」
カリナが目を輝かせる。
「本当に。見た目も綺麗だね」
セドリックが感心したように言う。
一人ひとりの前に、ポトフが配られていく。
トーマスとアンナの前にも、ルイが丁寧に料理を置いた。
「お父さん、お母さん......私、頑張ったの」
ルイの声が、わずかに震えている。
「ああ、ありがとう、ルイ」
トーマスが優しく微笑む。
「さあ、みんなで食べましょう」
アンナが声をかけた。
「「「いただきます」」」
全員で手を合わせ、料理に手をつける。
キオが一口食べた瞬間、目を輝かせた。
「......美味しい」
野菜の甘み、肉の旨み、そしてスープの深い味わい。すべてが完璧に調和している。
「本当に美味しいな」
オーウェンも感心したように言う。
「これは......すごいな」
ノックスが驚いたように呟く。
「火加減も、味付けも、完璧だ。うちの宿舎で毎日食べたいくらいだよ」
その言葉に、ルイの顔が明るくなった。
「ルイの料理はいつも美味しいけど、今日のはもっともっと、すっごく美味しいわ!」
カリナが嬉しそうに笑う。
「野菜の切り方も綺麗だし、うーん、スプーンが止まらないよ」
セドリックが感心したように、黙々と食べ続けていた。
「ありがとう、みんな」
ルイが照れくさそうに微笑む。
トーマスが一口食べ、ゆっくりと咀嚼する。その表情が、驚きから、じんわりとした喜びに変わっていく。
「……野菜の芯まで、柔らかい」
ぽつりと呟いたトーマスの目から、大粒の涙がこぼれ落ちた。
そして、ゆっくりと目に涙が溢れていく。
アンナもゆっくりゆっくりとポトフを味わう。その目には、うっすらと涙が浮かんでいた。
「お父さん? お母さん?」
ルイが驚いて声をかける。
「ルイ......」
アンナの声が震える。
「こんなに......こんなに美味しい料理を作れるようになって......」
「お前は本当に成長したな」
トーマスの目からも、大粒の涙が溢れていた。
「お父さん、泣かないで」
ルイも目を潤ませながら、優しく父親の手を握った。
「嬉しいんだ、ルイ」
トーマスの声が、感情で震える。
「お前が......こんなに立派になって」
「俺たちの娘が......こんなに」
アンナも涙を拭えない。
「あなた、泣きすぎよ」
アンナがトーマスに声をかけるが、自分も泣いている。
「だって......」
トーマスは声を上げて泣き始めた。
「ルイが......」
その姿に、ルイも涙を抑えきれなくなった。
「お父さん......お母さん」
「ルイ......」
トーマスが立ち上がり、ルイを強く抱きしめた。
「お前は......俺たちの誇りだ」
「ありがとう......お父さん」
アンナも二人に加わり、三人で抱き合う。
その光景を見て、その場にいた全員の胸が温かくなった。
キオは優しく微笑んだ。
『ルイもトーマスさんもアンナさんも......本当に温かいな』
「ルイ、素晴らしい料理だよ」
キオが優しく声をかける。
「本当に。ご両親の愛情が、ルイに受け継がれているんですね」
オーウェンも感動した様子で言った。
「家族の絆が、この料理に込められている」
ノックスが穏やかに微笑む。
「ルイの心がこの料理に込められている。トーマスさんやアンナさんから受け継いだものだな」
その言葉に、ルイは涙を拭きながら微笑んだ。
「ありがとう......みんな......」
トロプとフレアも、ルイの周りをくるくると飛び回り、祝福するように光を放っている。
店の中は、温かい愛情に包まれていた。
アンナが涙を拭いながら、みんなに声をかけた。
「さぁさぁ、せっかくルイが作ってくれたんだもの、皆さんも、たくさん食べてくださいね」
「「はい」」
みんなが笑顔で頷いた。
午後の陽射しが、窓から優しく差し込んでいた。
テーブルを囲む人々の笑顔が、その光に照らされて輝いている。
そこには、血の繋がりを超えた、心の繋がりがあった。
「みんな、おかわりはどう?」
トーマスが嬉しそうに尋ねる。
「はい!」
カリナが元気よく答えた。
「僕も、もう一杯いただきたいです」
セドリックも遠慮がちに言う。
「もちろん、たくさんありますよ」
アンナが笑顔で言った。
店の中には、笑い声と幸せな会話が満ちていた。
ルイは、家族と友達が一緒に笑っている光景を見て、幸せを噛みしめていた。
トロプとフレアも、嬉しそうに光を放っている。
この瞬間が、永遠に続けばいいのに――
ルイは、そう願わずにはいられなかった。
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