第25話「兄との再会、幸せな家族(2)」
「改めて自己紹介するよ。俺はノックス・ロート・フラム。今日はオーウェン様の護衛として同行させてもらう」
ノックスがみんなに向けて、キビキビとした動作で丁寧にお辞儀をした。
ルイ、カリナ、セドリックの三人は、改めてノックスを見つめた。
燃えるような紅蓮の髪。整った顔立ちに、力強い体つき。騎士らしい凛とした立ち姿。その圧倒的な存在感に、三人は思わず息を呑んだ。
「よ、よろしくお願いします......!」
セドリックが緊張で声を裏返らせながら言う。
「よろしくお願いします」
ルイも背筋を伸ばし、丁寧にお辞儀を返す。
「よろしくね! ......あ、よろしくお願いします!」
カリナがついつい普段の調子で言いかけ、慌てて改まった。
「あの、ロート......フラム、とおっしゃいましたか?」
少し落ち着いてから、セドリックが不思議そうに首を傾げた。
「キオ君のお兄さんなのに、どうして一族名や家の名前が違うんですか?」
セドリックはチラリとノックスの紅蓮色の髪を見た。
その疑問に、ノックスは優しく微笑み、吐く息を白く揺らした。
「訳あって、母方の家に養子に入っているんだ。この髪色は母さんに似たんだよ」
ノックスが自分の紅蓮の髪を軽く指先で払う。
「そういうことなんですね......失礼しました」
セドリックが納得したように頷いた。
確かにキオとノックスの髪色は異なるが、その紫色の瞳は2人の繋がりを表していた。
「いや、気にするな。血の繋がりは変わらない。俺はキオの兄だし、ネビウス家は俺の大切な家族だ」
その力強い言葉を聞いて、キオが嬉しそうに微笑む。
ノックスの温かい人柄に触れ、緊張していた三人も安心したように表情を緩めた。
「それと、キオから話は聞いている。君がルイだな」
ノックスがルイに視線を向けると、ルイは少し戸惑いながらも頷いた。
「は、はい。初めまして......?」
ルイは首を傾げる。見覚えがあるような気もするが、はっきりとは思い出せない。
「久しぶりだな。7年前、俺が君の家にキオを迎えに行った時のことを覚えているか?」
「え......?」
ルイが瞬きをする。
7年前、キオが迎えに来た家族と一緒に旅立った日。あの時、キオの手を引いていた背の高い赤髪の人は――。
「あ......っ! あの時の、赤い髪のお兄さん!」
ルイがポンと手を打って声を上げた。
「思い出してくれたか。あの時はまだ小さくて、お母さんの後ろに隠れていたのにな。ずいぶんと素敵なお嬢さんになった」
ノックスが懐かしそうに目を細めると、ルイは照れくさそうに頬を染めた。
「えへへ......あの時は、キオ君がいなくなっちゃうのが寂しくて......ご挨拶もできなくてごめんなさい」
「いや、気にするな。それより、あの時は本当に世話になった。ありがとう」
ノックスが改めて深く頭を下げると、ルイは慌てて手を振った。
「いえいえ、そんな! 私の方こそ、キオ君と仲良くさせてもらって......」
「それでも、感謝してる。改めて、ありがとう」
その真摯な態度に、ルイも嬉しそうに微笑んだ。
「さあ、みんな。カリナが凍ってしまう前に出発しようか」
オーウェンの気遣う声に、カリナが「うん、早くぅ......」と涙声で頷く。
一同は苦笑しながら、待機していた馬車へと向かった。
―――
馬車の中は暖房の魔道具が効いており、心地よい暖かさに包まれていた。
魔道具で広い空間と拡張された馬車の中、精霊たちもそれぞれの場所でくつろいでいる。
「はぁぁ〜、生き返るぅ......」
カリナがポンチョとマフラーを外し、座席に沈み込むように息をつく。メラメラちゃんたちが心配そうに彼女の顔を覗き込んでいた。
「ノックス兄さん、いつ王都に来たの?」
向かいに座ったキオが尋ねる。その隣には、当然のようにシュバルツが座り、キオを見守っている。
「昨日の夜だ。オーウェンから護衛の依頼を受けてな」
「マーカスさんは大丈夫なの?」
改めて話題が出ると、キオは心配そうに眉を下げた。
「ああ、ただの風邪らしい。暖かくして寝ていれば数日で回復するだろう」
ノックスが頼もしく頷く。
「それにしても、キオ」
「何?」
「お前、また背が伸びたな」
「そうかな......」
キオが照れくさそうに笑う。
「ああ。しっかり食べて、よく眠ってるみたいだな。良いことだ」
「それは俺がしっかりと管理しているからな」
シュバルツが腕を組み、得意げに口を挟んだ。
「スバルさんはキオ君の食事とかも見てるんですか?」
セドリックが興味津々で尋ねる。膝の上ではコロネが丸まって眠っている。
「当然だ。キオの健康管理は俺の重要な務めだと思っているからな。好き嫌いなどさせんぞ」
「うっ......まさか、トマトの話をしてないよね?」
キオがバツが悪そうに視線を逸らすと、馬車の中に笑いが起きた。
ノックスもその様子を見て、安心したように目を細める。
「良いパートナーを持ったな、キオ」
「うん。最高のパートナーだよ」
キオの言葉に、シュバルツは満足そうに微笑み、そっとキオの肩に手を置いた。
窓の外には、冬枯れの景色が流れていく。
精霊たちも交えた賑やかで温かい旅路は、目的地であるリンネル洋食屋へと続いていた。
最後までお読みいただきありがとうございます。
面白い、続きが気になると思っていただけましたら、
下の☆マークから評価や、ブックマーク(お気に入り登録)をしていただけると、執筆の励みになります!
(お気軽にコメントもいただけたら嬉しいです)
よろしくお願いします。




