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夜空色の青春  作者: 上永しめじ
第二章「絆と葛藤の深化」
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第21話「精霊たちの顕現(2)」


 この一件で、広間の空気はより一層引き締まったものになった。精霊は道具ではない。心を通わせるパートナーなのだということを、生徒たちは改めて理解したようだ。


 時は流れ、午前中の柔らかな光がステンドグラスを通して広間を鮮やかに彩り続けている。



 すでに二十人以上の生徒が召喚を終え、安堵の表情で元の列に戻っていた。

 

「エルヴィン・ゲルプ・フォルケ」


 不意に友人の名前が呼ばれ、キオは顔を上げた。

 エルヴィンだ。


 黄色い髪の少年は、通りの落ち着いた足取りで召喚陣へと向かっていく。背筋を伸ばし、迷いのない歩調だ。


 陣の中央に立つその姿は凛としていて、いつもとは少し違う、どこか知的な雰囲気を纏っていた。彼が両手を前に差し出すと、鮮やかな黄色の光が立ち上る。


 光の渦の中から羽ばたいたのは、大きなミミズクの精霊だった。


 黄色と白が混じり合う羽根には、微かに雷の魔力が帯電している。その鋭くも賢そうな瞳が、じっとエルヴィンを見つめていた。まるで、主人の資質を見定めているかのように。


「ミミズク......」


 セドリックが感心したように呟く。

 エルヴィンとミミズクが静かに視線を交わし、契約が結ばれる。言葉はなくとも通じ合っているのが分かる、文句なしの成功だ。


 戻ってきたエルヴィンの顔には、満足そうな笑みが浮かんでいた。


「さすがだね、エルヴィン」


 列に戻ってきた彼にキオが声をかけると、彼は嬉しそうに頷き返した。


「ああ。とても知的な印象の精霊だ。歴史好きのエルヴィンにはピッタリだな」


 オーウェンも同意するように頷いた。



 儀式は続き、二十五番目、二十六番目と進んでいく。


 そして――。


「オーウェン・ゴルト・リンドール」



 王族の名が呼ばれた瞬間、空気が変わった。広間中の視線が一斉に彼に集まる。


 オーウェンが一歩前に出る。


「行ってくる」


「頑張って!」


 ルイの励ましに、キオも続く。


「オーウェン、応援してるよ」


 オーウェンは力強く頷き、堂々とした足取りで召喚陣へと向かった。その背中は、やはり他の生徒とは違う風格がある。



 陣の中央に立つ姿には、生まれながらの王族としての気品と威厳が満ちていた。


 彼が両手を前に差し出すと、召喚陣がカッと輝き始める。



 黄金の光。


 それは目を開けていられないほど眩く、広間全体を神々しく照らし出した。ステンドグラスの光さえも霞むほどの輝きだ。



「わあ......」


 生徒たちの感嘆の声が波のように広がる。


 光の渦の中から現れたのは、巨大な翼を持つ威風堂々たる獣。


 鷲の頭と翼、獅子の体――グリフォンだ。



 黄金に輝く羽根と気高い瞳は、まさしく伝説の幻獣そのものだった。その爪は鋭く、翼を広げれば風が巻き起こるほどの迫力がある。


「グリフォン......!」


 セドリックが息を呑む。


「すごい......人を乗せて飛べるくらい大きいよ」


 ルイが驚きの声を上げた。



 グリフォンは優雅に翼を畳み、オーウェンの前に舞い降りる。地面に着地した瞬間、ズンッという重厚な振動が伝わってきた。


 そして――その精霊が、口を開いた。


「我が名はソラリス。光と浄化を司る者」


 凛とした、高貴な響きを持つ声だった。広間の隅々まで届くような、透き通った声。


 『話す......!』


 キオは目を見開いた。知性を持つ精霊。それも、これほど明確な言葉を操るとは。


「契りの君よ。我と共に、この世界に光をもたらさん」


 ソラリスが恭しく頭を下げる。それは王に対する騎士の礼のようだった。



 オーウェンは一瞬驚きの表情を見せたが、すぐに王族としての顔を引き締めた。


「ソラリス。君と共に歩めることを、光栄に思う」


 二人が向き合い、契約を交わす。



 その光景は一枚の絵画のように完成されていた。一瞬の静寂の後、広間中から惜しみない祝福の拍手が降り注ぐ。それは今までで一番大きな拍手だった。


 オーウェンが列に戻ってくる。その背後には、巨大なグリフォンが守護者のように控えていた。


「おかえり」


「ありがとう」


 オーウェンは友人たちの前で、ソラリスを紹介する


「これがソラリスだ。光と浄化の精霊だよ」


「すごいね、オーウェン。話せる精霊だなんて」


 キオが感嘆の声を漏らすと、ソラリスは優雅に首を傾げた。


「初めまして。契りの君の友人たちよ」


 その声には、深い叡智と威厳が宿っている。


「よ、よろしくお願いします」


 ルイが慌てて丁寧に挨拶すると、ソラリスは穏やかに目を細めた。





―――



 儀式は中盤を過ぎ、四十番目、五十番目と進んでいく。

 動物、人型、あるいは抽象的な形。本当に様々な精霊たちが、新たなパートナーの元へと舞い降りていく。



 そして――。



「ベアトリス・ゲルプ・リーデル」


 ベアトリスの名前が呼ばれた。


 黄色い髪の少女は、ダンスのステップでも踏むかのような優雅さで召喚陣へと向かう。その所作の一つ一つが洗練されており、貴族令嬢としての自信が滲み出ている。



 彼女が陣の中央に立ち、両手を差し出すと、黄色い光の中から大きな豹の精霊が現れた。



 美しい金色の斑点を持つ毛並みには、雷の魔力がバチバチと纏わりついている。そのしなやかな筋肉と鋭い牙は脅威を感じさせるが、ベアトリスの前では従順な猫のように優雅に座り込んだ。



 契約は滞りなく完了し、拍手が送られる。


 召喚を終えたベアトリスは、優雅に一礼すると、元の列へと戻り始める。



 彼女の立ち位置はキオたちとは離れているが、戻る動線がちょうどキオたちの目の前を通るルートだった。


 彼女が近づいてくる。その顔には、隠しきれない満足そうな笑みが浮かんでいた。


 キオと目が合うと、彼女は足を止めた。


「立派な精霊だったね、ベアトリス」


 キオが声をかけると、彼女は少し驚いたように、けれど嬉しそうに微笑んだ。


「ありがとうございます、キオ様。この子、とても力強いでしょう?」


 彼女は愛おしそうに精霊の頭を撫でる。精霊もまた、彼女の手に頭を擦り付けた。


「ええ。とても似合っているよ」


「ふふ、光栄ですわ」



 ベアトリスはスカートの裾をつまんで優雅に礼をすると、精霊を連れて自分の並ぶ列の奥へと戻っていった。その背中を見送りながら、キオは彼女の実力を改めて感じていた。


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