表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜空色の青春  作者: 上永しめじ
第二章「絆と葛藤の深化」
62/106

第20話「精霊召喚儀式の始まり(2)」

 

 息を呑む召喚大広間の光景


 重厚な扉をくぐり、キオたちが足を踏み入れたのは、息を呑むような荘厳な空間だった。


 円形の広間は、見上げるほど天井が高く、壁面全体には精緻で歴史を感じさせるレリーフや彫刻がびっしりと施されている。


 正面の巨大な窓に使われたステンドグラスからは、夜明け後の朝日が強く差し込み、七色の光の帯となって、広間の磨き上げられた石床を虹色に照らしていた。



 そして何より目を引くのは、広間の中央、その光の焦点に描かれた巨大な七色の召喚陣だった。



「すごい......」


 その神聖な光景に、生徒たちの間から、自然と感嘆のため息が漏れ聞こえる。皆、その規模と美しさに圧倒されていた。



「こんなに大きな召喚陣、見たことない」


 セドリックが、興奮を抑えきれない様子で、静かに呟いた。


「故郷のとは全然違う! もっときらきらしてるし、力が満ちている感じがする!」


 カリナは、瞳をいっぱいに輝かせながら、その場を楽しみ尽くしている。



 キオは、光り輝く召喚陣をただただ見つめながら、胸の奥で激しく打ち鳴らされる鼓動を強く感じていた。


『ここで......。シュバルツが、皆の前で姿を現すんだ』


『ああ。楽しみにしていろ。お前の不安を吹き飛ばす、最高の姿を見せてやる』



 シュバルツの声は、いつも以上に自信に満ちていた。





 生徒たちは、広間に入るとすぐに、壇上に立つ教師からの指示に従い、召喚陣を囲むようにして円形に並んでいく。キオたちも、友人同士、体を寄せ合うようにして適切な位置へと移動した。


 中央の壇上には、すでに数名の教師が立ち、静かに生徒たちを見守っている。


 


 ―――



 やがて、シュトゥルム先生が一歩前に出て、集まった一年生たちを、静かに見回した。


「皆さん、おはようございます。本日はいよいよ、学院生活における最も重要な儀式の一つ、精霊召喚儀式です」



 厳かで、それでいてよく通る声が、高い天井を持つ広間に深く響き渡る。


「今日、皆さんの儀式を滞りなく、そして安全に進めるため、特別に指導してくださるのは、精霊界との繋がりが深いシュバルツ一族の専門家の方々です」



 その言葉を聞いた瞬間、キオの体は、次の瞬間起こる出来事を予期し、まるで石のように緊張で強張った。


『来る......。もうすぐ、来るんだ』



「まず、副指導者の、アーデルハイト・シュバルツ・フリードリヒ先生です」


 壇上に現れたのは、30代ほどの優雅な女性だった。紫に近い黒髪を丁寧にまとめ上げ、生徒たちに向かって、穏やかな微笑みを浮かべている。その立ち姿は、静謐な美しさを放っていた。



「次に、技術指導のカスパー・シュバルツ・ヴォルフガング先生です」


 続いて現れたのは、40代ほどの厳格そうな男性だ。同じく紫がかった黒髪だが、こちらは短く刈り揃えられ、鋭い眼光が、まるで生徒一人ひとりの心を見透かすかのように印象的だった。



 シュトゥルム先生は、ここで一度、重々しい沈黙の間を取った。広間全体の緊張感が、一段と高まる。



「そして、この儀式の主任指導者であり、精霊召喚における第一人者。学院が誇る優秀な卒業生でもあります。......ベゼッセン・シュバルツ・ヴァーグナー先生です」




 キオの世界が、突然、音を失い、停止した。


 ゆっくりと壇上に姿を現したその人物。



 7年ぶりの、あの人。

 引き締まった体躯、30代後半と思しき年齢、以前と変わらぬ黒髪。そして、一目で目を奪われるほど整った顔立ちは、キオの記憶の中にある姿よりも、さらに大人びて、威厳を増していた。



 ベゼッセンの目が、壇上から広間を見回す。その視線は、無数の生徒たち一人ひとりの顔の上を滑っていく。




 そして――その視線が、キオの位置でピタリと止まった。



 ベゼッセンの瞳が、大きく見開かれる。それは一瞬のことで、すぐに元の表情に戻ったが、キオはその衝撃を全身で受け止めた。



 キオは、反射的に視線を床へと下ろす。その場に立っているのが限界だった。



『だめだ......見ちゃだめだ』



 体が、意志とは関係なく小刻みに震え始める。呼吸は乱れ、酸素を求めて浅くなる。


『キオ!意識を集中しろ。落ち着け。俺がいる。どこにも行かない』


 シュバルツの、力強くも優しい声が、キオの内に響き渡る。


『大丈夫だ。深呼吸。俺の声だけを聞け』


「キオ君?」


 隣にいたルイが、すぐにキオの異変に気づいた。声が揺れている。


「顔色が、急に......」


 オーウェンが、迷わずそっとキオの冷たくなった手を握った。力強く、安心感を与える握り方だ。


 ルイは反対側から、キオのブレザーの裾を、そっと、しかししっかりと掴んだ。


 カリナとセドリックも、状況を理解し、何も言わずに自然とキオの傍に、体を寄せた。


「大丈夫だよ......。私たち、ずっとここにいるからね」


 カリナが、まるで呪文のように、静かながら確かな声で言った。


 友人たちの手の温もり、服の裾を掴む指の感触、すぐ傍にいるという確かな気配。その一つ一つが、キオを非現実的なパニックから、今いるこの温かい現実へと引き戻した。



『そうだ......僕は、一人じゃないんだ』



 キオは、大きく、ゆっくりと息を吸い込み、そして、静かに吐き出した。



 友人たちの途切れない温かさに包まれながら、キオは、自分を取り戻し、少しずつ落ち着きを取り戻していくのを感じた。


最後までお読みいただきありがとうございます。

面白い、続きが気になると思っていただけましたら、

下の☆マークから評価や、ブックマーク(お気に入り登録)をしていただけると、執筆の励みになります!

(お気軽にコメントもいただけたら嬉しいです)

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ