第15話「防衛魔法と白銀の来訪(3)」
キオたちは、しばらく無言で立ち尽くしていた。
「キオ君......ごめんね......」
ルイが申し訳なさそうに言う。
「どうして謝るの? ルイ達は何も悪くないよ」
「でも......僕たちのせいで......」
セドリックも俯く。
「そんなことない」
キオがきっぱりと言い切る。
「僕にとって、みんなは大切な友人だ。それは誰にも変えられない」
その言葉に、友人たちの顔が明るくなった。
「まったくだ。僕達のことをどうこう言う権利は彼にはないのにな」
オーウェンが微笑む。
「そうだよ! 私たち、ずっと友達だもん! 」
カリナが元気よく言う。
「僕も!」
セドリックもカリナに同意する。
「うん......ありがとう、キオ君......」
ルイが嬉しそうに笑った。
その瞬間、廊下に温かな空気が戻ってきた。
―――
その夜、学園にある教会の静かな礼拝堂で、ルドルフとセレネが向かい合っていた。
白い大理石の床には、夕方の西日とは異なる、冷たい青みを帯びた月明かりが、窓の格子を通して細長く伸びていた。教会の高い天井は闇に覆われ、ステンドグラスの神竜たちの姿も、今はただの色のない影となっている。
月明かりがステンドグラスを透かし、二人の白銀の髪を淡く照らしている。
「ルドルフ様、お疲れのようですわね」
セレネが心配そうに声をかける。
「ああ......少し、疲れました」
ルドルフは苦虫を噛み潰したような表情で、椅子に座った。
「今日、キオ様にお会いしたのです」
「まあ、それは素晴らしいことですわ」
セレネの顔が明るくなる。
「しかし......」
ルドルフの表情が曇る。
「キオ様は、平民や異国の者たちと親しくされていました」
「まあ......」
セレネも眉をひそめた。
「キオ様は、そのようなお立場にそぐわない方々と......」
「ええ。あのような者たちと親しくされるのは、キオ様には相応しくありません」
ルドルフが強く言う。
「キオ様は特別な御方なのです。あのような者たちと同じ立場であってはなりません」
セレネは静かに頷いた。
「おっしゃる通りですわ。キオ様は、神聖な血を引く御方。私たちが正しい道へとお導きしなければなりません」
「しかし......」
ルドルフが拳を握る。
「キオ様は、彼らを友人だと......」
「それは、キオ様が優しいお方だからこそですわ」
セレネが優しく言う。
「だからこそ、私たちが支えなければなりません」
「ええ......そうですね......」
ルドルフが深く息をつく。
「今日、アイゼンという教師に説教をされました」
「アイゼン......体育と防衛魔法担当のセンセイでしたね 」
「ええ。平民出身の、元騎士だそうです」
ルドルフの声には、明らかな不快感が含まれている。
「あの方は、秩序を理解しておられないようでした」
「元騎士......平民の方が、ルドルフ様に......」
セレネも驚いた様子だ。
「信じられません」
「しかし、キオ様は彼の言葉を受け入れられたようでした」
ルドルフが悔しそうに言う。
「それは......」
セレネが言葉を選ぶ。
「きっと、キオ様はまだご存知ないのですわ。ご自身の立場を......」
「そうですね......」
ルドルフが頷く。
「だからこそ、私たちが正しい道をお示ししなければならないのです」
「ええ。ルドルフ様」
セレネが優しく微笑む。
「私たちが、キオ様を正しくお導き致しましょう」
その言葉に、ルドルフも力強く頷く。
「ありがとうございます、セレネ様」
「いいえ。これは、私たちジルヴァ一族の使命ですから」
月明かりの下、二人の白銀の髪が静かに輝いていた。
彼らは、キオのためを思って行動しているつもりだった。
しかし、その「正しさ」は、キオが望むものとは全く異なっていた。
そして、その食い違いが、やがて大きな波紋を生むことになる。
それは、まだ誰も知らない、未来の物語だった。
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