第15話「防衛魔法と白銀の来訪」
秋から冬へと季節が移り変わり始めた、ある金曜日の午後。空気にはすでに冬の冷たさが混じり始め、中庭の木々も少しずつ葉を落としている。
キオは友人たちと一緒に、第三実技場へと向かっていた。今日の最後の授業は、ヘルムート・アイゼン先生の防衛魔法だ。
「おい、貴様ら! 集合だ! 」
実技場に入ると、すでにアイゼン先生が待ち構えていた。赤みがかった茶色の髪と筋肉質な体格が、いつ見ても圧倒的な存在感を放っている。
「本日の授業は防衛魔法の基礎だ! 自分の身を守る魔法障壁について学ぶ! 」
先生の豪快な声が実技場に響き渡る。生徒たちは一斉に姿勢を正した。
「いいか、貴様ら! 魔法とは攻撃だけじゃない! 自分や仲間を守る術を知らなければ、いざという時に役に立たん! 」
アイゼン先生は拳を握りしめながら続ける。
「今日は一人ずつ、魔法障壁を張ってもらう。焦るな! 初めてで完璧にできる奴なんていない! 大切なのは諦めずに挑戦する心だ! 」
その言葉に、生徒たちの緊張が少しだけ和らいだ。
「それでは、ネビウス、リンドール、フォルケ、マージェン、リンネル、モイヤーから始めるぞ! 」
名前を呼ばれた6人が前に出る。キオは深呼吸をして、心を落ち着かせた。
「まずはネビウス! やってみろ! 」
キオは先生の指示に従い、両手を前に掲げる。意識を集中させ、魔力を感じ取る。
『シュバルツ』
心の中で呼びかけると、すぐに温かい声が返ってきた。
『ああ、落ち着いて。お前ならできる』
シュバルツの声に励まされながら、キオは魔力を放出した。黒色の光が両手から溢れ出し、目の前に透明な障壁を形成していく。
それは、まるで星が散りばめられた夜空のような、美しい障壁だった。
「おお、見事だ! さすがシュバルツ一族だな! 」
アイゼン先生が満足げに頷く。
「次、リンドール! 」
オーウェンが一歩前に出る。彼の手のひらから金色の光が溢れ出し、障壁を形成していく。キオのものと同じく、安定した美しい障壁だった。
しかし、しばらくすると、オーウェンの額に汗が浮かび始めた。息も少し荒くなっている。
「リンドール、無理をするな。十分だ」
アイゼン先生が気遣うように声をかけると、オーウェンは障壁を解いて、その場に座り込んだ。
「すみません......少し......」
「謝る必要はない。お前は十分にやった」
先生の優しい言葉に、オーウェンは小さく頷いた。
「次、フォルケ! 」
エルヴィンが前に出る。彼は少し緊張した様子で、手を前に掲げた。
最初は光が揺らめいて不安定だったが、徐々に形を整えていく。黄色の光が、やがて透明な障壁へと変わった。
「よし、いい調子だ! 」
アイゼン先生が励ましの声をかける。
「次、マージェン! 」
カリナが元気よく前に出た。
「先生、精霊さんたちの力を借りてもいいですか? 」
「む? 精霊の力か......」
アイゼン先生は少し考えてから、興味深そうに頷いた。
「よし、やってみろ! どんな障壁になるのか見せてもらおう! 」
「はい! 」
カリナは嬉しそうに微笑むと、両手を前に掲げた。
「メラメラちゃん、フワフワくん、アクアくん、お願い! 」
彼女の呼びかけに応えるように、赤、緑、青の小さな妖精が現れ、カリナの周りを飛び回る。そして、三色の光が混ざり合い、虹色のしっかりとした障壁が形成された。
「おおっ! 」
実技場にいた生徒たちから、思わず感嘆の声が漏れる。
「素晴らしい! 精霊との協力で、これほど美しく力強い障壁を作れるとは! 」
アイゼン先生も目を輝かせていた。
エルヴィンとセドリックも感心したように、カリナの障壁を見つめている。
「次、リンネル! 」
ルイが少し緊張した様子で前に出る。両手を前に掲げ、魔力を集中させようとするが、なかなか光が現れない。
「焦るな、リンネル。深呼吸をして、自分の魔力を感じ取れ」
アイゼン先生の優しい声に、ルイは深呼吸をする。
しばらくして、淡い灰色の光が現れ始めた。しかし、障壁は小さく、すぐに消えてしまう。
「うまく......できません......」
ルイが申し訳なさそうに俯く。
「いや、初めてでここまでできれば十分だ。次の授業で必ずできるようになる」
「はい......ありがとうございます......」
「最後、モイヤー! 」
セドリックが前に出る。彼も緊張で手が震えている。
両手を前に掲げ、必死に魔力を集中させる。茶色の小さな光が現れるが、すぐに消えてしまう。
「くっ......もう一度......」
セドリックは諦めずに何度も挑戦する。しかし、障壁を形成するまでには至らなかった。
「モイヤー、よくやった。諦めずに挑戦する姿勢が素晴らしい」
アイゼン先生が肩に手を置く。
「はい......ありがとうございます......」
セドリックは悔しそうだったが、先生の言葉に少しだけ表情が和らいだ。
―――
「よし、今日の授業はここまでだ! 防衛魔法は練習あるのみだ! 諦めずに頑張れ! 」
アイゼン先生の締めくくりの言葉に、生徒たちが拍手する。
「それと! お前たちに一つ言っておく! 」
先生が真剣な表情で続ける。
「魔法の強さは、魔力の量だけで決まるものじゃない! 心の強さ、諦めない気持ち、仲間を思いやる心、そういうものが本当の強さを生み出すんだ! 」
その言葉に、セドリックやルイの表情が明るくなった。
「いいか! それぞれに得意不得意はある! だが、それぞれの良さもある! それを忘れるな! 」
アイゼン先生の熱い言葉が、実技場に響き渡った。
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