第32話「賑やかな来客(2)」
客人を迎えた後、リーリエがベアトリスを屋敷の案内へと誘い出した。
「せっかくですから、お屋敷をご案内させてくださいませ」
「まあ、嬉しい。ぜひお願いいたしますわ」
二人は連れ立って廊下を歩き始めた。後ろから見ると、艶やかな黄色い髪の令嬢が二人並んでいる姿は、まるで本当の姉妹のような不思議な親和性を醸し出している。
「こちらは大広間です。年に数回、領民を招いての催事が行われますの」
リーリエが案内しながら、窓の外に視線を向けた。
「ベアトリス様は、学園ではいかがお過ごしですか?」
「おかげさまで、楽しく過ごしておりますわ。キオ様やルイさんをはじめ、素敵なご友人に恵まれて」
「それは良かった。キオさんの手紙でも、ベアトリス様のことはよく伺っておりましたの」
リーリエが嬉しそうに微笑む。
「キオ様は、本当に素敵な方ですわね」
ベアトリスがしみじみと言葉を紡いだ。
「身分の壁など気にせず、誰にでも真っ直ぐに向き合う。私も、そのお姿に何度も助けられましたの」
「ええ。あの子は......義弟ではありますが、本当の弟のように思えますわ」
リーリエの目が優しく細められる。
「ゲルプ一族の中では、形式を重んじる方が多いですから......キオ様のような方は、新鮮に感じますわね」
「本当に。私も最初は戸惑いましたけれど......今では、その自然体なところが好ましく思えますの」
二人は微笑み合い、また歩き出した。
窓から差し込む冬の日差しが、二人の髪を黄金色に輝かせていた。
一方、居間では賑やかな時間が流れていた。
暖炉の火がぱちぱちと爆ぜる音と共に、温かな空気が部屋を満たしている。
暖炉の前の長椅子に、キオとルイが並んで腰掛け、向かいには竜人姿のシュバルツがどっしりと座っていた。双子はルイの周りをうろうろと動き回って落ち着きがない。
「ルイお姉さま、学校は楽しい?」
ルーアが瞳を輝かせて尋ねる。
「うん、とっても楽しいよ。キオ君やみんなと、毎日勉強したり、おしゃべりしたり」
「私も早く学校に行きたいなあ」
「ルーアはまだ10歳だろう。あと3年は待たないと」
ネロが冷静に事実を突きつける。
「分かってるわよ! でも、楽しみにしてるの!」
ルーアがぷうっと頬を膨らませた。
「その時は、私たちが先輩として待っているからね」
ルイが微笑みかけると、ルーアの表情はすぐにぱっと明るくなった。
「本当!? 約束ね!」
「うん、約束」
ルイが小指を差し出すと、ルーアは嬉しそうに自分の小さな小指を絡めた。
「えへへ、やーくーそーくっ!」
その愛らしい光景を見ながら、キオの胸には温かいものが満ちていく。
『ルイと双子が仲良くしてくれて、嬉しいな』
『ああ。ルイは子供の扱いが上手いな』
心話で語りかけてきたシュバルツに、キオはくすりと笑みをこぼした。
『うん。きっと、ご両親の影響だね。リンネル家はいつも温かい雰囲気だったから』
「ねえねえ、スバルさま」
不意に、ルーアがシュバルツに視線を向けた。
漆黒の鱗に覆われた巨躯は威圧感を与えそうだが、ルーアは全く怖がる様子もなく、その腕にぴたりと寄り添っている。
「スバルさまは、ルイお姉さまのこと、どう思う?」
「おいルーア、そういうことを聞くな」
ネロが慌てて制止するが、ルーアはお構いなしだ。
「だって気になるもん!」
シュバルツは少し考えるように目を細め、金色の瞳でルイを見つめた。
「ルイか......」
重厚な響きを持つ声で、彼は静かに言葉を紡ぐ。
「優しく、人の気持ちに寄り添える子だ」
予期せぬ言葉に、ルイが驚いたように顔を上げた。
「そして、意外と芯もある。......自慢の、キオの友人だな」
シュバルツがさらりと付け加える。
「じ、自慢だなんて......そんな......」
ルイは茹で上がったように赤くなり、両手で頬を覆って俯いてしまった。まさか竜人であるシュバルツから、そんな風に評価されるとは思っていなかったのだろう。
「わあ! スバルさまがそんなに褒めるなんて、ルイお姉さまってすごいのね!」
ルーアが尊敬の眼差しを向ける。
「......ふん。スバル殿が認めるなら、確かにいい人なのだろう」
ネロも小さく呟いた。その声には、どこか納得したような響きがあった。
キオはその様子を見守りながら、穏やかな笑みを深めた。
『シュバルツ、ありがとう』
『事実を言ったまでだ』
キオだけに届く心話でのやり取り。
シュバルツの言葉には、ルイと過ごした日々の中で感じ取った信頼が、確かに込められていた。
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