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夜空色の青春  作者: 上永しめじ
第3章 「紅・銀の波乱と創生の祭典」
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第32話「賑やかな来客(2)」



 客人を迎えた後、リーリエがベアトリスを屋敷の案内へと誘い出した。


「せっかくですから、お屋敷をご案内させてくださいませ」


「まあ、嬉しい。ぜひお願いいたしますわ」


 二人は連れ立って廊下を歩き始めた。後ろから見ると、艶やかな黄色い髪の令嬢が二人並んでいる姿は、まるで本当の姉妹のような不思議な親和性を醸し出している。


「こちらは大広間です。年に数回、領民を招いての催事が行われますの」


 リーリエが案内しながら、窓の外に視線を向けた。


「ベアトリス様は、学園ではいかがお過ごしですか?」


「おかげさまで、楽しく過ごしておりますわ。キオ様やルイさんをはじめ、素敵なご友人に恵まれて」


「それは良かった。キオさんの手紙でも、ベアトリス様のことはよく伺っておりましたの」


 リーリエが嬉しそうに微笑む。


「キオ様は、本当に素敵な方ですわね」


 ベアトリスがしみじみと言葉を紡いだ。


「身分の壁など気にせず、誰にでも真っ直ぐに向き合う。私も、そのお姿に何度も助けられましたの」


「ええ。あの子は......義弟ではありますが、本当の弟のように思えますわ」


 リーリエの目が優しく細められる。


「ゲルプ一族の中では、形式を重んじる方が多いですから......キオ様のような方は、新鮮に感じますわね」


「本当に。私も最初は戸惑いましたけれど......今では、その自然体なところが好ましく思えますの」


 二人は微笑み合い、また歩き出した。


 窓から差し込む冬の日差しが、二人の髪を黄金色に輝かせていた。



 一方、居間では賑やかな時間が流れていた。


 暖炉の火がぱちぱちと爆ぜる音と共に、温かな空気が部屋を満たしている。


 暖炉の前の長椅子に、キオとルイが並んで腰掛け、向かいには竜人姿のシュバルツがどっしりと座っていた。双子はルイの周りをうろうろと動き回って落ち着きがない。


「ルイお姉さま、学校は楽しい?」


 ルーアが瞳を輝かせて尋ねる。


「うん、とっても楽しいよ。キオ君やみんなと、毎日勉強したり、おしゃべりしたり」


「私も早く学校に行きたいなあ」


「ルーアはまだ10歳だろう。あと3年は待たないと」


 ネロが冷静に事実を突きつける。


「分かってるわよ! でも、楽しみにしてるの!」


 ルーアがぷうっと頬を膨らませた。


「その時は、私たちが先輩として待っているからね」


 ルイが微笑みかけると、ルーアの表情はすぐにぱっと明るくなった。


「本当!? 約束ね!」


「うん、約束」


 ルイが小指を差し出すと、ルーアは嬉しそうに自分の小さな小指を絡めた。


「えへへ、やーくーそーくっ!」


 その愛らしい光景を見ながら、キオの胸には温かいものが満ちていく。



『ルイと双子が仲良くしてくれて、嬉しいな』


『ああ。ルイは子供の扱いが上手いな』


 心話で語りかけてきたシュバルツに、キオはくすりと笑みをこぼした。


『うん。きっと、ご両親の影響だね。リンネル家はいつも温かい雰囲気だったから』



「ねえねえ、スバルさま」


 不意に、ルーアがシュバルツに視線を向けた。


 漆黒の鱗に覆われた巨躯は威圧感を与えそうだが、ルーアは全く怖がる様子もなく、その腕にぴたりと寄り添っている。


「スバルさまは、ルイお姉さまのこと、どう思う?」


「おいルーア、そういうことを聞くな」


 ネロが慌てて制止するが、ルーアはお構いなしだ。


「だって気になるもん!」



 シュバルツは少し考えるように目を細め、金色の瞳でルイを見つめた。


「ルイか......」


 重厚な響きを持つ声で、彼は静かに言葉を紡ぐ。


「優しく、人の気持ちに寄り添える子だ」


 予期せぬ言葉に、ルイが驚いたように顔を上げた。


「そして、意外と芯もある。......自慢の、キオの友人だな」


 シュバルツがさらりと付け加える。


「じ、自慢だなんて......そんな......」


 ルイは茹で上がったように赤くなり、両手で頬を覆って俯いてしまった。まさか竜人であるシュバルツから、そんな風に評価されるとは思っていなかったのだろう。



「わあ! スバルさまがそんなに褒めるなんて、ルイお姉さまってすごいのね!」


 ルーアが尊敬の眼差しを向ける。


「......ふん。スバル殿が認めるなら、確かにいい人なのだろう」


 ネロも小さく呟いた。その声には、どこか納得したような響きがあった。


 キオはその様子を見守りながら、穏やかな笑みを深めた。


『シュバルツ、ありがとう』


『事実を言ったまでだ』


 キオだけに届く心話でのやり取り。


 シュバルツの言葉には、ルイと過ごした日々の中で感じ取った信頼が、確かに込められていた。



最後までお読みいただきありがとうございます。

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