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ツイバミ  作者: CRUX
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能力とは④

 関竜会のオフィスビルに到着したタクシーの後部座席にオレを先に乗せ、高橋さんは左隣りに座り、湯川は助手席へと乗り込んだ。ちょうど囲まれて逃げられない位置という訳だ。

 湯川は運転手に目的地へのルートを細かく指示しているが、ルームミラー越しに見える運転手の目元は、微かに不機嫌さが感じられる。

 このタクシーも関竜会の手先かと考えていたが、そうでもないらしい。この不況とタクシードライバー余りのせいで一人頭の稼ぎが落ち込んでいる今、最短距離を指示されることを快く思っていない様子だ。

 もちろんボッタクリを肯定するつもりはないが、不特定多数の客と接する機会を持つタクシーの運転手は、オレにとって大事な情報源の一つでもある。


「湯川君。急いで帰らなければならないものでもないだろう。ルートは運転手さんに任せておけばいいんじゃないか」

 湯川はルームミラー越しにオレを一瞥し、「それではお願いします」と抑揚のない声で答えて黙り込んだ。

 だが、それはオレの意見に腹を立てたというのではなく、“道順を説明する仕事終了”と、スイッチが切れただけに見える。感情を見せないタイプだ。オレの監視にはちょうどいいんだろうな。

 オレは運転手に関係ない雑談を交えながら、タクシー運転歴から始まり、ゆっくりと関竜会への送り迎えはよくするのか、関竜の幹部が利用する場合があるか、その場合、送り届ける方面はどのあたりかなどを、湯川と高橋さんに注意しながら異常なほど遠回しに尋ねたが、二人とも特に気にする様子はない。

 まあオレもこいつらが本当に気にしていないとは思ってない。どの程度までなら部外者に話していいか探ることも兼ねているだけだ。

 マンションに到着して降りる際、運転手の名前と車両番号をチェックしておく。今後、何かの時に役立つかも知れない。

 ただし、タクシー料金は明らかに二割増しの金額だ。情報料としてはこんなものだろう。湯川は黙って運賃を支払い領収書を受け取っていたので、経費は関竜持ち……あるいはオレに渡される月一三〇万円の活動費から出されるのかは知ったこっちゃない。


 マンションのエントランス横にある管理人室では、管理人の谷原さんが一緒にやって来た湯川と高橋さんを見て、誰だ? と怪訝そうな顔をする。

「どうも。今後オレの仕事を手伝ってくれる部下と、介護にあたってもらうヘルパーさんです」

 尋ねられるより先にオレが言うと、谷原さんは納得したらしく笑ってうなずく。彼にしても関竜会の手先のくせに、この自然な素振りの小芝居は大したものだ。

 正直、オレが調べていた限りの関流の実態よりも、はるかに「教育」が行き届いていることに舌を巻いたが、だからこそ新しい視点で関流への攻撃の切り口がつかめると言うものだ。


 部屋の鍵は高橋さんが開けて先に中に入り、オレの後ろに湯川が続く。

 部屋の中は出てきた時と様子は変わってそうにないが、信用しないに越したことはない。

「椎葉さん、何かお飲み物でも?」

 高橋さんに声をかけられ、適当に用意してくれと答えると“この部屋に初めて入ったはず”の彼女が、迷いなくキッチンへ向かい、戸棚や冷蔵庫を開けて用意を始める。

「フン……それで湯川君、どうする?」

 デスクに座ったオレの後ろにじっと立ったままの彼に声をかけた。

「と、申されますと?」

「君は関竜会の人間だ。そして成り行き上、協力するとは言ったものの、あくまでオレは反関流会の記事を書くのが仕事。

 そんなオレに、本当に君は執筆活動をサポートしたり、取材したりなんて出来るのか?」

「出来ます」

 即答する彼の顔を見つめたが、眉ひとつ動かさず、オレの目を見返してきた。

 それはこれまで何人も接触してきた関竜会の人間のような、妄信に凝り固まって自分の意思を放棄したヤツらの目と違う……だからと言って、確固とした己の意志を持った人間ともまた違う。

 オレと最初に会った時に不満そうに見えたのも、先程のタクシーで感情を見せないタイプだと考えていたのもそうじゃなく、彼は方向性こそ分らないが、ロボットのような性格の人物なのかも知れない。


「しかし、反関流を手伝ったりして君の立場がマズくはならないか?」

「特に。先生はこれまで通り執筆を続けてください。新たな販路を広げる仕事であってもボクはいといません」

 彼の一人称が「ボク」だったのは意外だったが、彼は彼なり、と言うより関竜会の考えがあるんだろう。

 文章などほんの少し表現を変えるだけで、180度違った解釈として受け止められるものが完成する。悔しいことに今のオレは関竜会の手のひらの上で転がされている。出来る限り表現を変えにくく、変えられても「どっちとも取れる」文を練り上げるしか抵抗しようがない。


「ところで、湯川君はサルースの儀式を受けたの?」

「ボクは超能力などというものは、人間にとって不必要と考えています。

 もちろん、関竜にとって必要不可欠ですが、長い進化の過程を経て現在、大多数の人間がその能力を失っている以上、人間はその能力を持たないほうが正しいのです。

 ゆえに超能力とは、せっかく人間がここまで成長・進化してきた選択から逆行する誤った道と言わざるを得ず、サルースは邪道です!」

 話題を変えようとしただけの質問に、彼は初めて感情が入った言葉で、おおよそ関竜会の人間とは思えない内容の話を語った。


「お待たせしました……どうかされましたか?」

 高橋さんが、オレと湯川君を見ながら困惑していた。


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