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ツイバミ  作者: CRUX
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能力とは③


「それではあなたの実際の能力がどれほどのものか、調べましょうか」

 石渡にうながされて隣の部屋へ移ると、そこはまるで総合病院の検査室のようになっていた。


 先ほどのファミリーレストランの事件のおかげで自分の能力を操るコツを身につけていたオレは、石渡の言われるがまま、様々な実験を行っていった。


 結果分かったのは、能力が直接届く範囲はオレを中心として半径二〇メートル程度。

 そして“掴める力”は最大で一二七〇キログラムと、一トンをゆうに越えたが、逆に小さい力で持つことが出来ずに実験に使われた多くのサンプルをひねり潰してしまった。

 ただし、範囲も力の微調整も今後の訓練次第でもっと遠くへ延ばせるし、コントロールしていけるということだ。


 さらに驚くべきことに、生放送で撮られているものに限ってカメラが撮影している映像の対象にまで及ぶことが分かった。

 つまりカメラで生中継さえすれば、オレの能力はどこまでも自由に範囲を広げられるということだ。

 これはオレだけでなく石渡にとっても衝撃的だったようで、明らかに動揺して表情をこわばらせていた。



「能力はいくつかに分類してあるのか?」

 一通りの検査が終わったらしく、新しい指示が途絶えたところで興味本位に尋ねてみる。

「そうですね。一応、一般的に分かりやすい区分けはしてありますが、椎葉さんは超能力に詳しいですか?」

 石渡は実験者としての立ち位置から、被験者の立場のオレが座るベッド横のイスの隣に腰を降ろし、ノート程度が置ける移動式のテーブルを手元に引き寄せる。


「詳しいも何も、子供の頃の漫画でそれらしいものを読んだことはあるが、この歳まで信じていなかったんだ。詳しいはずないだろう」

「もっともです。では我々が検証し、分類している能力を大まかに挙げていきましょう。

 人の考えを読み取ったり互いに通信できるテレパス。

 物理的な物を動かすテレキネシス。

 火や雷などを具象化するスターター。

 異なる地点を瞬間移動するテレポーター。

 未来や過去を感知するコグニシャン。

 見えない物を見通すクレヤボヤンス。

 それ以外に感覚器官が常識を外れた数値を示す者をEPSと呼んでいます。

 椎葉さんの場合は、テレキネシスに分類されるでしょう」

「ほう、そうか。なるほど」

 基本的に超能力なんてものの知識を持っていないオレは、なんとかターターと言われても理解出来ん。

 ともかく石渡の話を元に情報を集めて検討しなければ、どれがどんな能力なのか詳しい実態がつかめないため、適当に相づちを打っておくしかない。



「それで、本題にはまだ入らないのか?」

「本題とは?」

「ビジネスの話だよ」

 オレの誘いに、石渡はさっきの嘲笑とは違うクククッと小刻みに笑った。

「なるほど。結局は超能力よりもそちらが気になりますか」

「当然だろう。あんたはさっき、“御子子として活動する限り、オレに手取りで月一三〇万円の活動費を渡す”と言った。

 なるほど関竜会の幹部ともなればそれくらい安いのかも知れない。だが、オレが出来ることなんてせいぜいあんたたちに対するネガティブな執筆活動だけだ。

 一般と比較して、これほどの金を出すだけの価値があるとは思えないんだが」

「クククッ。何をここまで来ておっしゃるんです? 我々があなたに何を求めているかなんて、尋ねるまでもないではありませんか」

「さあ。オレには何をすればいいのかさっぱり分からないね」

 お互い白々しいまでスットボケたが、腹の探り合いにさえなっていない。奴らはオレの能力を犯罪に使わせたくて、オレは使いたくないだけだ。


「それではこうしましょう」

 テーブルの上に置いた資料を伏せて、石渡が視線を向ける。

「あなたに協力していただきたい“仕事”はどのような意味があり、どんな結果を望んでいるか最初にご説明いたしますので、納得していただいた場合のみ協力していただけるというのはどうでしょうか?」


 いきなりずいぶん譲歩したが、これこそ怪しむべき話だ。これは最初に一度のみやすい条件を受けさせておき、回数を重ねるごとにだんだん条件のハードルを上げていく、心理学でいう「ローボール法」だ。

 しかもその内容は犯罪だ。一度でも犯してしまえば、後はズルズルと引き返せなくなってしまうのは目に見えている。

 実際オレもこの手でリーク情報を得ていたんだからな。

 さっきの高橋さんの姿と島津とのイヤな約束が頭によぎったが、やはり人道的に間違っている


「残念だが……」

「残念ですが!」

 断ろうとしたオレの言葉をさえぎって、石渡は芝居がかった大声をあげた。


「もうあなたに拒否権はないのです。考えても見てください。ここで断れば、あなたは活動費ばかりか、秘書もヘルパーも付きません。もちろん帰る家も失います。

 あなたの周りには我々関竜会の信者が二十四時間張り付くことになります。そうなると、あなたの行き先は一つしかありません。お分かりでしょう?」


 ああ分かる。ただし、一つだけってことはあるまい。少なくとも道は二つある。

 ただ、オレ自身あまり残った道のうちの一つ、“天国”へ行ける自信はない。どちらかと言えば、奴らの望む地獄のほうだろう。


「まったく……残念だ」

 ここはひとまず観念した振りをして石渡へ苦笑いを向けると、アメリカ映画のようにちょっと肩をすくめて手のひらを上へ開いて見せた。



 オフィスビルから無事に解放されることとなったオレに秘書とヘルパーを今日から付けると言って、検査室に入る前の部屋で待たされていると、ドアがノックされ石渡に促されて入って来たのは、いかにも一流企業のエリートといった雰囲気の長身で細身の男。

「彼は湯川ゆがわ君。椎葉さんの執筆活動を全面的にサポートします。もちろん書くだけでなく、取材もこなしますので自由に使ってください」

「湯川です。よろしくお願いします」

 ニコリともせず頭を下げるが、明らかに湯川はオレに遣われるのが不満そうだ。


「そしてヘルパーとして日々の生活をサポートするのが、彼女です」

 そこには、やはりと言うか当然と言うべきか、高橋さんが曖昧な笑顔を浮かべて立っていた。


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