得られる報酬④
「失礼します。こちらアイスコーヒーとパフェになります」
さっきのウエイトレスではなく、ウエイターが島津のテーブルにゴトンと音をたててパフェを置いた。
オレにはぶっきらぼうに「ストロー入れさせていただきます」と言って紙を破り、入れるかどうか聞きもせずガムシロップとミルクをコップの中にぶちまけて戻って行った。
「ぐふふ。カワイイお子ちゃまですね」
そう言いながら島津は、コップの上いっぱいにはみ出したクリームをスプーンでぐちゃぐちゃにほじって口に入れる。お子ちゃまなどどの口が言うんだ。お前の食べ方が一番お子ちゃまだろうが。
「それで?」
「『それで?』とは?」
「とぼけないでください。啄む能力って、何のことでしょう?」
「それよりさっきのウエイター、どうしてあんなにムキになっていたか知ってます? 彼ね、さっきのお姉さんの彼氏なんですよ。ぐふぐふぐふふ」
そんなことまで調べた上でこのファミレスを選んだのか。だったら周りにいる客のうち何人かはオレを監視するために見張っている関龍の人間だろう。さりげなく周囲を見渡したが、あやしい素振りをする者は誰もいない。
「詳しい話はこんなに人の多い場所でする訳にはいきませんので、場所を改めるとして、まず、ボクの“御子子”という肩書きを見るのは初めてでしょう。
これは信者の中でもごく少数の者にしか知られていない特別な称号でしてね。
一般には関谷竜之介会長ですが、我々にとって会長は、神の御意志を伝えていただく“御子”なんです。
その御子の意志を受け継ぐのが“御子子”。“御子子”の意志を伝えるのが“御子孫”です。この三代の位に就く者が関龍王会の最高幹部です。
だけど、ただ修行を積んだからと言って関龍王会で出世出来ません。ある条件が必要なのです」
「ある条件とは?」
尋ねると、島津はマシュマロにたっぷりアイスクリームを付けた固まりを口いっぱいに頬張る。
「んぐんぐ……。ほれふぁ、ゴクン。いわゆる超能力です」
「……はあっ?」
何を馬鹿なことを言っているんだ。
「ごくん。馬鹿なことではありませんよ。現代科学の大勢が超能力に否定的なだけであって、超能力が実在し、証明できると主張している少数派も確かに存在するのです」
それはそうかも知れないが、宗教で、しかも超能力なんて話は眉唾どころのものじゃない。
「いいかげんに……」
「テレビはどうして壊れたんでしょうね? 頭上の蛍光灯は? 物をつかめないはずのあなたが、なぜ毛布でガラス片から体をかばえたんです? その毛布はズタズタになってましたよね? そして看護師の胸に触れた時、何が起きました?」
たて続けに言って、島津はまたパフェを頬張った。
「あ、あれは、ただの偶然です。そんなの、どうすれば手の届かないところに手が伸ばせるって言うんですか」
「あー、そうなんですね。あれは伸ばすって感覚なんですか」
「そうじゃなくて!」
「少数派だろうが、科学的に証明できるって言ってるだろうが!」
大声を出しかけたオレに、島津は目だけが笑っていない不快な笑顔を浮かべながら、クリームをねぶり取ったスプーンを向けて声を荒げた。
「失礼……あなたが超能力を使えることは、すでに確認済みです。
関龍会では、修行がある段階に到達すると、救いや救済を意味する儀式“サルース”を受けることが出来ます。その儀式の結果、いわゆる超能力を目覚めさせた者だけが御子孫、御子子の位に就くことが出来るのですよ。
そしてその能力を数値化する装置も完成していますし、あなたがどの程度の能力を有しているのかも、計測済みです」
島津はまた一息ついてパフェをすくったが、あれだけあったパフェは、もう底に幾分も残されていない。
オレもこの男の次に言うであろうセリフを想像して、氷の溶けかかったコーヒーをすすったが、さっきのウエイターが何もかもぶちこんだせいで、甘ったるい味がのどの奥にひっかかり思わずむせた。
「もうお分かりですよね? どこかの誰かがあなたを処分しようと計画したところを、我々があらゆる手段を講じて助け出した理由が。
もしあなたが、あなたのまま以前の生活に戻られたとすれば、被害はあなただけでなく、恋人やご家族へと及んだことでしょう。
ご安心ください。今は御子孫や御子子の位の者が恋人やご家族の記憶を操って、あなたに危害を加えようとした者から守っているだけです」
白々しい。明らかに嘘だ。
だが、入院中からここ一連の意味不明な状況の説明に納得がいく。
要するに関龍の奴らがオレを殺し損ねたものの、事故の影響で超能力らしきものを得たことを知った。
その能力を関龍のために使わせるため、わざと生かして家族や彼女を人質に取った。さらに必ず協力させるように金も関龍からしか流れないよう手を打っているという訳だ。
「納得がいったようですね。それでは最初の質問に戻りましょうか」
島津はテーブルの上の封筒をもう一度オレに押し出す。
「これだけのものに見合う条件なんですが、承諾の証明として、さっきの生意気なウエイターをちょいと啄んでもらえますか?」
島津の背後には、ウエイターが忙しそうに厨房とホールを行き来している姿があった。




