得られる報酬②
見覚えの無い、しかし、この部屋こそオレの居場所だったとしか考えられない違和感と不安感を感じながら、オレは結局この場所を自分の部屋だと考えた。
第一に、オレの記憶があいまいになっているため、本当にここがオレのマンションであったかも知れないということ。
そして第二に、違っていたとしても、他に行く所がなかったことだ。
保身が第一だなんてこと、軽々しく言うななんてこれまでフリーランスのライターだったオレが言うのはおこがましいけれど、誰でも自分が生きて行くための基盤が重要なんだ。
オレはまず、パソコンやケータイなど簡単な作業くらは出来るよう、理学療法士に相談して作ってもらった、指先に取り付ければタッチパネルに感応する部品を指先にねじ込んだ。
それを付けると他の指より凸部分が出来て、パソコン初心者のように指一本を使ってキーボードを叩き、データを調べることが出来る優れものだ。
ずいぶんと時間はかかったが、パソコンを調べてはっきりと、今回の事件に関龍が関係していることを確信した。
パソコンの中身は、関龍のデータのみ完全に消されていて、関龍の情報以外は隠しておいたエロデータでさえ、すべて残されていたんだ。
だとすれば、こう仮説が立てられないだろうか。
オレの情報を根こそぎ奪うため事故を起こし、死んでしまえば秘密は完全に闇の中。だがオレが生きていたため、関龍の連中はオレの痕跡を消したあと、以前に使っていた家財道具をまるごとこの部屋へ移動させた……。
だがこれでは意味が通らない。
どうしてそんな手間のかかることをしたのか? オレを殺す目的なら入院中にいくらでもそのチャンスはあったし、痕跡を消したように金と居場所を奪ってしまえば、オレは社会的に死んだも同じだ。
しばらく部屋の中をウロウロ歩き回ってみたが、どうしても納得のいく答えが出ない。仕方なくベッドに座って現実的な話を考えることにする。
そう。今後の生活。金のことだ。
両腕を失ったのだから、何らかの社会保障は受けられるはずだ。確か病院から資料をもらったな。
えーと。区役所の福祉課へ行き、所定の「指定医師診断書」用紙をもらって、医療機関で交付された「指定医師診断書」を作成。
写真と印鑑を持ってもう一回福祉課へ行き、手帳交付申請書を記入して提出。
審査に約一ヶ月半程度かかる……長いな。で、審査が済むと福祉課から文書で連絡が入るので、送付された書類と印鑑を持って行けば身体障害者手帳が交付される……か。
オレの場合、「両上肢を手関節以上で失った者」に該当するため、医師から「二級だろう」と言われた。
ただし、給付金額は「年金給付から、当該障害の存する期間一年につき給付基礎日額の二七七日分」だ。
ヤッベ、オレ年金なんて払ってたっけ? 勤めていた頃は会社が天引きしていたけれど、フリーになってから支払った憶えがないぞ。
そうだ。オレ自身が加入している生命保険がある。オレは早速、保険会社へ連絡をとった。
だがしかし、またも大きなショックが待ち構えていた。「オレ」は加入していないことになっていたのだ。
「同姓同名で、誕生日も同じ方は加入されておられますが、お客様の保険番号とは一致しません」と言う。
試しにその加入者の住所は〇〇市か? と尋ねると、一拍置いて「お客様の個人情報はお教え出来ません」と返されたが、間違いなく当たったんだと確信した。
オレがどれだけの数の人間をインタビューしたと思っているんだ。
だったら関龍の連中は「元の偽物のオレ」の番号を保険会社の番号にすり替えやがったんだ。
どこまで社会に入り込んでやがる。オレの取材なんて、まだまだ甘かったのか。
やつらどこまでやるつもりだ? 少ない額とはいえ、身体障害者手帳は交付されるのか?
暮れてきた空を眺めながら、とりあえず何か食えるものでも食って今日は寝ようと考えていた矢先、携帯に非通知で電話がかかってきた。
「もしもし?」
「椎葉さん。ご退院おめでとうございます」
嫌みたらしい男の声だが、オレはこいつが関龍の手先だと直感した。




