謎の損壊②
翌日も朝早くからじいさんのテレビの音で目が覚めた。
頼むからせめて朝食が終わるくらいまでは静かにしてほしい。
早速オレは高橋さんから貰った耳栓を、やって来たナースにつけて貰ったが……微妙だ。確かに少しはマシになる。何もつけていないよりはるかにいい。
ただ、ほとんど音が聞こえなくなる事を期待していたオレには、中途半端に聞こえるこのテレビの音は、やはり不快に違いない。
しかし自分で小さく丸めて耳へ入れたり出したり出来ないため、これ以上は望める訳もなく、朝食後は頭からシーツをかぶり、じいさんへ背を向けてフテ寝する事にする。
今日はリハビリも午後からなので、他にすることもない。
オレはだんだんウツラウツラし始めた。だが、眠りかけの夢の中まで関竜という言葉が追いかけて来る。
クソッ! 何が関竜会員だ! 何が市民平等党だ! お前らが好き勝手するせいで、この国が滅茶苦茶になっているんだろうが!
夢の中という事もあって、オレは感情のまま怒りをぶち巻けて、隣のじいさんのテレビに怒りの矛先が向いた。
じいさん自身へとも思ったが、じいさんはすでにボケているため、好きこのんで見ているのではないのは明らかだ。
眠りながらも半分覚醒しているようなオレは、無いはずの腕を伸ばしてカーテンの向こうにいる、じいさんの頭越しに液晶テレビを掴んだ。
その途端、オレの背後からボンッ!! と弾ける音がして、ジジジッと電気がショートする臭いが漂ってくる。
夢うつつだったオレもさすがに飛び起きて、じいさん側のカーテンを開けて安否を気づかうと、じいさんはコントのように「うひゃあ!」と言っているような顔で固まっていた。
ともかくどこも怪我をしていないか気になったが、液晶テレビの上部が握り潰されるように壊れているだけで、じいさん自身に怪我はなさそうだ。
向かいの男がナースコールを鳴らしてくれたおかげで数人のナースが駆けつけて来てくれて、テレビの惨状に絶句していたが、じいさんが朝から晩までずっと見続けていた事から寿命だろうという話でおさまったようだ。
だがオレは、直前で見た夢のことを覚えている。
オレが手を伸ばした事と、じいさんのテレビが壊れた事には何か関係があるんじゃないか? と、非常識な考えも浮かんだが、現実的にそんな訳あるはずがない。
一体どんな超能力だよ。と割り切って、単なる偶然と考える事にした。
じいさんのテレビは翌日に新しいものに入れ替えられ、せっかくの静かな時間は、わずか一日で奪い取られてしまった。
それでも一昨日、フテ寝スキルを身に付けたオレは、出来るだけじいさんへ意識を向けないよう耳栓を頼りにシーツをかぶって背を向ける。
もちろんじいさんのテレビからは今日もくだらない関竜の情報が垂れ流されているが、まともな頭の奴なら、これがゴリ押しの洗脳宣伝であることくらい……ほとんどの国民が分かっている。
二十代の比較的若い信者が増えているなんてのは、こいつらのハッタリか、まだテレビなんてものを信じている脳みそ花畑の連中だろう。
まったく病院てところは退屈だ。
入院するまでの仕事では、いかに他人より早く情報を取り込んで、報道させるかだったため、何でも「即、即、即」が基本だった。
ところがここでは、少し検査数値があいまいなだけで「来週まで様子を見ましょうか」だ。スパンが長過ぎて逆に落ち着かない。
寝返りを打って天井に取り付けてある蛍光灯を眺めると、蛍光管の端っこが黒くなって来ている。もう取り替えないとチカチカ点滅されでもしたら、鬱陶しくてしょうがない。
自分で出来るなら、さっさと取り替えるところだが……だが、退院してもオレは、自分で蛍光灯一つ取り替えられなくなっているんだな。
頭の中で蛍光灯へ手を伸ばすと、なんだか触れそうな気がしてきた。黒くなった部分をそっと掴んだとたん「指の先」に熱さが伝わって、蛍光管がパンッ! と弾けた。
「ヤバッ!」
オレはその瞬間シーツの中に潜り込んで、上から振ってくるガラスや有毒の蛍光物質を防ぐ。
「どうしました!」
音を聞きつけたナースが部屋へ飛び込んできて、割れた蛍光管が散らばるオレのベッドを覗き、あわてて他のナースを呼ぶ声が聞こえてくる。
危なかった。もう少しシーツに潜るのが遅ければ、ケガをしていたかも知れない。
掃除機などが持ち込まれ、ガラスや蛍光物質が取り除かれてからオレはやっとシーツから出る事が出来た。
蛍光灯の位置はオレの真上なので、隣のじいさんにまでは被害が及ばなかったようでホッとしたが、テレビといい、蛍光灯といい、一体何なんだこの部屋は?




