海の
それから俺達はポイントの使い道や今後についての相談を軽くして……そうしてその日は体を休めて過ごすことにした。
護衛役のユーラとサープがまだまだ忙しそうにしていたし、十分な仕事はしていたし、体を休めることも大事だということで、まったりと過ごし……翌日。
ようやくサープが自分のコタから出てきて……なんとも爽やかな笑顔を見せつけてくる。
表情爽やか、目と歯が日光で煌めき、やたらと幸せそうで……少し鬱陶しい。
「……おはよう。
ユーラはどうしたんだろ?」
広場で合流し、その爽やかさに目を細めた俺がそう声をかけるとサープは、キョロキョロと周囲を見回しながら言葉を返してくる。
「おはようッス! いやぁ、良い朝ッスねぇ!
……そしてユーラはまだ見かけてないッスね……まだベアーテさんと……?
って、ベアーテさんはそこにいるッスねぇ……なんだか凄く良い顔してるッス」
と、そう言われてサープの視線を追いかけると、なんともハツラツとした表情のベアーテさんが、アルマウェルと一緒に朝の散歩をしていて……なんとも生命力に溢れている。
「……ベアーテさんがああしているってことはユーラもどこかにいるはずだけど……もしかしてまだコタの中で寝ているのかな?
……仕方ない、ちょっと様子を見てこようか」
「分かったッス、ユーラのコタなら広場の向こうッスよ」
俺の言葉にそう返してきたサープと共にユーラのコタに向かうと、その入口と、採光のための天井がしっかりと閉じられていて……どうやらまだ中で寝ているらしい。
丸一日の休日を用意したのに寝坊するとはなぁと呆れながら入口の布をめくると……中でぐったりと眠る、何者かの姿が視界に入り込む。
入口から入り込む光に照らされたその男は、体内の水分を吸い取られたかのようにやせ細り干からびていて……疲労困憊とかそういった次元を超えた状態と成り果てていた。
一体何がどうしてそうなったのか……なんとなく察するものがあった俺とサープは何も言わずに自分達のコタに戻り、水分多めの簡単な食事を作り鍋に入れ、コタ中央の焚き火に火をつけさえしたならいつでも食べられるよう……水分と栄養を補給出来るようにしてからコタを後にし、入口をしっかりと閉じる。
「……さて、ユーラは2・3日は使い物にならないからどうしようか……?
グラディス達の世話でもしようか……? ユーラの分までやらないとだし……」
そしてユーラのコタから距離を取りながらそんな声を上げると、サープが言葉を返してくる。
「恵獣様の世話はビスカちゃんに頼んでおいたんで平気ッスよ。
ビスカちゃんもこの村に馴染むために働きたがってたんで、ちょうど良いかなって感じッス。
それよりも……村を回ってポイントの使い道をあれこれ考えてみるのが良いと思うッス。
虫除けとか薬とか色々作るってのは聞いたんスけど、他にもなんか出来ると思うんスよねぇ。
……魔王討伐なんてものすっごいことしたんスから、大量のポイントがもらえるはずで、今からやれることはやっておいた方が良いと思うんスよねぇ」
「うぅん……そこら辺はアーリヒと一緒に考えはしたけども、今の段階で作れる物は大体作ってしまった感があるんだよねぇ。
……変に便利過ぎる物は今の暮らしを壊してしまう可能性があるし、余計なトラブルを招くかもしれない。
ショウガとか漢方薬とか武器とかがせいぜいじゃないかなって思うんだよ」
俺がそう返すとサープは、それでも何かないものかを頭を悩ませ……俺もまたサープに付き合って頭を悩ませ、あれこれ考えながら村を見回っていく。
春が近付き寒さが緩み、皆の動きが活発化していて……村中が賑やかで、笑顔が広がっていて、何も問題ないように見える。
やっぱりこれ以上何かを作る必要はないんじゃないかなと、そんなことを考えていると、鎧熊の恵獣アルマウェルの上に跨ったベアーテがこちらにやってきて、声をかけてくる。
「アルマウェルの耳が面白い話を聞きつけたようだ、精霊様の力で何を作ろうか悩んでいるらしいな?
ならアタシ達に何か作っておくれよ、相応の礼はするし……こことは違う暮らしをしているアタシ達に向いた精霊様の道具もあるもんなんだろ?」
「ん? いや、どうなんだろ……?
シェフィが良いって言うなら作るけども……ヴァークの皆さんに向いた道具?
んん~、船か、船に関わる道具? えぇっと……なんだろ、船の発明で有名なのは……羅針盤とかかな?」
と、俺がそんな言葉を口にし「羅針盤ならもう持ってる」とベアーテが返してきた所で、今までどこにいたのかシェフィが空から降ってきて俺の頭の上にぽふんと座ってから言葉を投げかけてくる。
『別に良いよ、ヴァークの皆に作ってあげても。
羅針盤くらいなら全然問題ないし、もうちょっと複雑な道具でも問題ないかな。
ところでベアーテ、ヴァークの羅針盤ってどんな感じなの?』
「えぇっと……どんな感じと言われましても、普通のですが……。
木製で丸くて、ああ、もちろん針は磁石です、蓋はガラスで……針が北を向くという感じ……です」
精霊相手には流石にかしこまった態度となるのかベアーテがそんな言葉を返し、それを受けてうんうんと頷いたシェフィは、俺の頭をペシペシと叩き何か言えと促してくる。
「あー……うん、それならもうちょっと良い精度で便利な羅針盤を作れるかもしれないです。
……確かこちらの世界だと船に固定して、船の行き先と方角の両方が分かる羅針盤を使っていたのでそれと……航海用の六分儀かな? 確かそんなものもあったはずなのでそれとか……あとは漁かな? 漁に役立つなにかがあれば……。
網とかは流石に運ぶのが大変そうだから……こっちの世界の漁の方法が分かる本とかですかね。
本は俺にしか読めませんけど、その内容を教えることは出来るし……あ、そうだ、救命胴衣とか良いんじゃないですかね?
海に落ちてしまった時に何もしなくても体が浮き上がる装備なんですけど、こちらの世界だと船に乗る際は装備することが推奨されていましたね。
それがあれば絶対に助かるという訳ではないですけど、あれば助かる確率が上がるはずで―――」
と、そんな俺の言葉の途中でアルマウェルから飛び降りたベアーテが、俺の肩を強く……骨が砕けるんじゃないかってくらいに強く掴んでくる。
その目は必死そのもの、表情もいつになく力のこもったものとなっていて、何かを言おうとしてはいるのだけど気持ちだけが逸って言葉にならないという感じで、どうやら当たりというか正解というか、ベアーテが望む物を提示できたようだ。
そうして俺はベアーテ……というかヴァーク族のために、あれこれと道具を作ることになるのだった。
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次回はこの続き、工房のあれこれです






