ショウガサウナ
「おう、ヴィトー、よくやったな。
……良いサウナを用意してやるから、ちょいと工房でショウガを作ってくれんか?」
ヘトヘト状態で村に到着し、魔王を倒したことを皆に知らせ、魔王の大体の位置を教えて……それからグラディス達の装備を外し、労い、ブラッシングをし……今すぐにでも眠りたい衝動と戦いながらやるべきことをやっていると、ジュド爺が姿を見せて、そんな声をかけてくる。
「……いや、魔王との戦いでポイントを使い切ってしまったので、今は無理ですよ。
っていうかまたショウガサウナですか?」
なんてことを言っていると、俺のことを手伝って精霊サイズのブラシでブラッシングをしていたシェフィが声を上げる。
『あ、ポイントなら大丈夫だよ、何しろ魔王を倒したんだからね。
今どのくらいのポイントあげるべきか、精霊の皆で話し合ってる途中だけど、それでもショウガなら山盛り作れるよ。
干しショウガに粉末ショウガ……あとは特別におろしショウガもOKにしてあげる。
ショウガの砂糖漬けもまぁ、OKかな?』
そんな言葉を受けて俺は、ああ、そう言えば魔王のポイントがあったかと、そんなことを考えてから……後のことはシェフィに任せようとただ手を動かす。
今は疲れてあれこれ考えを巡らせる余裕がない、ショウガのことはシェフィに、サウナのことはジュド爺に任せることにして、とにかくグラディスのことを労う。
すると留守番をしていたのもあってか、グスタフが不満げに、
「ぐぅ~~~」
と、声を上げながら俺の横腹に頭突きをしてきて……仕方無しに左手で頭をこれでもかと撫でてやり、右手でブラッシングをしていく。
そうしているとグラディスが満足したとばかりにその鼻をそっと頬に押し付けてきて……それを受け入れ、両手で撫で回してやったなら労いは完了、同じく撫で回してやったグスタフと共に厩舎へと帰っていく。
それを見送ったなら背伸びをしながら立ち上がり……いよいよ疲労が限界だなぁ、なんて考えていると、ジュド爺がやってきて、
「サウナの準備が出来た、さっさと入ると良い」
と、そう言ってくれる。
同じく作業が終わったらしいユーラとサープと共に、さっさとサウナ入って休みたいとジュド爺の後についてサウナに向かうと……なんというかもう、サウナの外に時点で凄まじいまでのショウガの香りが漂ってくる。
……見ていなかったけど、シェフィ……一体どれだけの量のショウガを作ったんだ?
そしてジュド爺、一体どんなサウナに仕上げたんだ?
色々疑問に思いながら小屋に入り、服を脱いでいると、ジュド爺が木のコップに入れた水を持ってくる。
「ほれ、まずはこれを飲め、しっかり飲んで体を潤せ」
言われた通り飲むと、口の中に広がる強烈なショウガの香り。
小屋の時点でショウガの香りでいっぱいだから飲むまで気付かなかったけども……これ、ショウガの砂糖漬けを入れた水か。
「うお、甘くて爽やかで良いじゃねぇか!」
「疲れた体にこれはたまんないッスねぇ~~~!」
個人的にはそこまで美味しいとは思わなかったけども、ユーラ達には好評で……確かに疲れた体には良いのかもなと、一気に飲み干し……洗い場へと足を進める。
「体洗う時はこの石鹸使うんだ」
と、そう言ってジュド爺が差し出してきた石鹸をよく見てみると、なんだかショウガのような色合いをしていて……まさか石鹸にもショウガを練り込んでいるのか。
「もちろん泡を流す水にもショウガは入れてあるからな」
そう続けてくるジュド爺。
サウナに入る前からショウガ尽くしとは……一体何がそこまでさせるのだろう?
体を洗い終えてからサウナに入ると、サウナも当然ショウガの香りに包まれていて……席に座ると、そこまで熱くないはずなのに一気に汗が吹き出てくる。
「どうだぁ? ショウガの発汗作用とやらで汗が一気に出てなんとも気持ちが良いだろう? 疲れも一緒に抜け出ていくかのようじゃねぇか。
……汗がたっぷり出る分、水を飲まんといかんのでな、コップもポットもしっかり用意してある。
どんどん飲んでどんどん汗を流せ」
言われて俺達はすぐに砂糖ショウガ水を飲む……そして飲めば飲むほど、体があったまっていって……どんどん汗が吹き出てくる。
サウナに入れば汗が出るものだけど、サウナに入る前から徹底的にショウガを浴びたことで、いつもとは段違いの勢いで汗が出ていて……疲れが抜けているかは正直分からないが、普段にはない、なんとも言えない感覚が体を包み込む。
明らかに普通のサウナじゃない、だけど気分が悪い訳でもない。
濃厚過ぎるショウガの香りがややきつくはあるけども……慣れてきたらまぁ、悪いものではないと思えるようになってきたし、しっかり水分補給出来ていることもあってか、体調はむしろ良くなっているようにも感じる。
『いやぁ、良いね~、異世界の香り、異国の香り……この辺りじゃぁ普通は味わえないからねぇ』
『カッカカッカしてたまんねぇな! ショウガを見かけたら炎の精霊の加護を与えてやっても良いくらいだ!』
『うん……うん、嫌いじゃないね……』
いつの間にか席に座って、サウナを堪能していた三精霊にもショウガサウナは好評なようで……特に炎の精霊ドラーはショウガのことを気に入った様子だ。
そうやってしっかり体を温めたなら小屋を出て、湖へ……いつもの水風呂タイムを堪能するが、サウナだけでなく水風呂タイムもいつもとは違った印象になる。
水が冷たくない……いや、十分冷たいのだけど、そこまで肌を刺す感じがない。
疲れがたまっていたり体調が悪かったりする時にはすぐに出たくなるものなんだけど、それがなく……ショウガの力でカッカとしている体が、湖の冷たさに勝っているようだ。
そんな水風呂タイムを終えたなら瞑想小屋へ。
瞑想小屋には流石にショウガはないようだけど、そもそも俺達の体にショウガの香りが染み付いているので、瞑想小屋もあっという間にショウガの香りに包まれていく。
「……どうだぁ? たまらんだろ、ショウガサウナ。
以前のそれとは全く違う……ショウガを大量に使うとこんな別世界が出来上がる訳だ。
そしてなぁ、ショウガの本当の良さが分かるのはこれからで……寝るまでどころか朝まで、寒さを跳ね除けるんだ。
体が燃えてその熱が体を守って……朝までぐっすり快眠間違いなしだ。
お前らが狩りに行っている間に一度試して昼寝をしてみたが……こんなに気持ちいい眠りがあったのかと驚いたくらいだ。
雪が溶けた春真っ盛りでも、ここまでの安眠はできねぇだろうなぁ」
そして瞑想の間、そんなことを語るジュド爺。
そんな話を聞いていると眠くなる気持ちもあるが……血流が激しく巡り、体が燃え上がり、そのせいで眠気はさっぱりと失せて意識がはっきりと覚醒していって……そしてととのいが始まる。
いつもより激しい気がする、気持ちいい気がする。
どんどん嗅覚が鋭くなっていくようで、ショウガの香りが強まっていって……そして食欲に目覚めたのか、腹がぐぅ~~~っと強い音を鳴らす。
「腹減ったぁ……」
と、俺のそんな呟きにはユーラもサープもジュド爺も、三精霊も同意だったようで……ある程度瞑想をしたなら、ささっと着替えを済ませて、食事をするために村の広場へと足早に戻るのだった。
お読み頂きありがとうございました
次回はこの続き、食事タイムやら魔王討伐後のあれこれやらの予定です
そしてお知らせです
少し前のことになるのですが、マンガUPのアプリにて、書籍版の分割配信が始まっているようです
ポイントで読めたりする? そうなので、気になっている方はチェックしてください
WEB版既読の方もイラストなど楽しめるはずです!






