ミミズ魔獣
――――南に向かって駆け抜けながら ユーラとサープ
地中を進む二頭のミミズ魔獣と、地上を駆けるかなりの数の熊魔獣と鱗魔獣、三種の魔獣からの追跡を受けてユーラ達は、とにかく逃げることを優先していた。
何しろ地中のミミズ魔獣には攻撃が一切通じず、それでいてその攻撃を一度受けたら致命傷になることは間違いなく……足を止めたとしてもまともな戦いになるとは思えなかったからだ。
「だがいつまでも逃げてたんじゃ、ヴィトーの応援にいけねぇぞ!」
「そうは言っても地中相手じゃどうにもならねぇッスよ!
と、と、とりあえず他の魔獣を投槍器で……!」
ユーラの言葉にそう返したサープは、恵獣スイネに自由に逃げるようにと手綱を託し、それから投槍器に槍をセットし、体をひねり……かなり無理のある体勢で槍を投げる。
本来であれば大地に大股を開いて立って使う投槍器、そう使ったのでは本来の威力は発揮されないが、それでも真っすぐ獲物に向かって槍を投げることに成功し……こちらに真っすぐ駆けていた熊獣人は槍の一撃を胸に受け、胸を貫かれ……雪の中に倒れ伏す。
「やるじゃねぇか! 負けてられねぇな!!」
そう声を上げたユーラも投槍器でもって槍を投げ……それに続いて精霊ウィニアに新しい槍を作ってもらったサープがまた槍を投げる。
逃げながら投げて投げて投げて、何本もの槍を投げて……どうにかミミズ魔獣以外の魔獣を討伐した二人は、改めて手綱を握り……ミミズ魔獣達からの逃走を開始する。
恵獣達が雪の中を駆けて駆けて、木の根や岩を跳んで避けて凄まじい速度で距離を取ろうとしてくれるが、どうやっても距離を離すことは出来ず、どんどん土煙雪煙が迫ってきて……迫ってきたかと思えばミミズ魔獣達は地中の木の根や岩にぶつかって速度を落とす。
それを見て安堵したのもつかの間、またすぐに速度を上げてきて……そんな追跡劇の途中でミミズ魔獣達は、雪の上を跳ねていたウサギや、熊なんかに襲いかかり……その恐ろしい口で噛み砕い上でそれらを飲み下し、自らの糧としてまた猛然とこちらに向かってくる。
暴れて暴れて食べて食べて……傍若無人といった様子のミミズ魔獣達を見て冷や汗をかいたユーラとサープは、揺れる恵獣の背中の上で、どうしたものだろうか? と頭を悩ませる。
「そもそもあのミミズ共、目も耳も無さそうなのにどうやってこっちを追跡してんだ?
ジャルアもスイネも森の中を縫うようにして駆けたり、あちこち跳び回ってみたり、どうにか追跡を撒こうとしてくれたが……一切迷うことなく食いついてきてやがる。
……地中から土の上の世界が見えてんのか?」
ユーラがそう声を上げると、サープは首を傾げながら言葉を返す。
「さ~~、どうなんスかねぇ……?
こちらが見えている割りには、木の根や埋まった岩にぶつかったりもしてるんすよねぇ、おかげで追いつかれずに済んでるんで助かるばっかりッスが……。
というかユーラ! 駆けながらだと聞こえにくいんでもっと大きい声で喋って欲しいッス!」
「……サープって普段すげぇ耳が良いのに、物音の中だと聞こえが悪くなるよなぁ? 今度精霊様に診てもらった方が……って、んん?
……もしかしてこのミミズ、音を聞いてんのか? ただ音のする方に向かってきてるだけなんじゃねぇのか!」
「さすがユーラ、相変わらず勘が冴えてるッスねぇ!
それならこっちを見失わないのも、岩なんかにぶつかるのも納得ッス!
んで、納得ついでに対処法も思いついたッスよ! ここから西南にある、候補地に行ってあそこに連れていってやればなんとかなるはずッス!!」
候補地、あそこ。
それらの単語が何を示すのか、ユーラはすぐに分からなかったが……手綱を操ったサープが向かった方向の先に何があるのかを思い出し、それがそれらの単語と繋がり「なるほど!」と、声を上げたユーラもまた手綱を握ってそちらの方へと駆けていく。
駆けて駆けて……見えてきたのは春営地の一つで、木々が切り払われ開けた一帯、春となったらコタが並び、村となるそこを通り抜けたなら……サウナ小屋を建てるための空間と大きな池が見えてきて、ユーラとサープは速度を落とすことなく、池へと向かって駆けていく。
真っすぐ躊躇なく駆けて……そしてジャルアとスイネの蹄が池に張った氷を叩いて、それでも分厚い氷は割れることなく、しっかりと蹄を受け止めてくれる。
それからユーラ達はジャルア達にわざとらしいまでに足音を出すように、氷の上で跳び回るように指示を出し……それらの音でもってミミズ魔獣達を誘う。
果たして水中の音にも食らいついてくれるのか、池を警戒することなく突き進んでくれるのかは全くの未知数だったが……猛然と雪煙を上げるミミズ魔獣達は速度を落とすことなく池の側までやってきて、そこでようやく池の存在に気付いたのだろう、速度を緩めようとする……が、これまでと同じように止まり切れず、木の根や岩にぶつかった時と同じように地面を貫いて進み続ける。
そして池の縁で何かがぶつかったような激しい音が二度して、池の氷が揺れてあちこちにヒビが入り……ユーラとサープは同時に頭を抱える。
「くそっ……池の中に飛び込んでくれると思っていたら、氷の縁にぶつかりやがった!」
「あちゃぁ……それなりのダメージはあったみたいっすけど、逃げられちゃうッスねぇ、これは……」
そしてそう声を上げて……音がした方へと足を進めようとすると、巨大なミミズ魔獣達の……尻尾というか下半身が、地中から跳ね上がり悶えているかのように振り回され、近くの地面や氷をバシバシと叩き始める。
「は? ん?? 何が起こった!?」
「……もしかして地中の穴に氷水が逆流してるんじゃぁ!?」
と、サープが言った通り、ミミズ魔獣達が掘り進んだ穴に冷えに冷えた氷水が流れ込んでいるようで、ミミズ魔獣はそれを全身で受けることになり、どうにか氷水から逃れようと悶えているらしく、ミミズ魔獣達が悶える度に土混じりの水が周囲に飛び散っている。
それを見て今がチャンス! と思う二人だったが、自分達が立っているのか水の上に張った氷……中の水がどこかに流れた際に氷は沈みながら砕けてしまうもので……このままでは自分達もミミズ魔獣達の二の舞いだと、まずは氷の上からの脱出に意識を向ける。
恵獣達に駆けさせ、地面を目指し……そうやって駆けたせいかヒビがあちらこちらに広がり、一気に氷が砕け始め……そんな氷を蹴って跳び上がったジャルアとスイネは、どうにか地面へと着地する。
すかさずユーラとサープは精霊ドラーとウィニアに作ってもらった槍を構え……ミミズ魔獣達の暴れっぷりを見て近付くのを止めて投槍器での攻撃を試みる。
今度はしっかり狙える、力も込められる……暴れ続けるミミズ魔獣に向かって同時に槍を投げると、二頭のミミズ魔獣それぞれに一本ずつ命中し、ミミズ魔獣達の体を貫通した槍は抜けることなく、体の中に留まり……その穴から大量の体液が吹き出す。
それを見てか精霊達は何も言われずとも槍を作ってくれて、ユーラとサープはすぐに投槍器にセットし構え……そんな動きを察知してかミミズ魔獣達はどうにか攻撃を避けようとする。
足元の土の中には氷水、そこには潜れないからと雪上を這っての移動をし始めるが……目が見えないからか一頭は池へと向かってしまい、砕けた氷の上に乗り上げ……そのまま池の中へと沈んでいく。
もう一頭は池とは逆方向に進んでいたが、その動きはあまりにも鈍くただの的でしかなく……ユーラとサープ、二人が投げた槍が同時に命中してしまい、それが致命傷となったか動きを止める。
「お、おぉ……なんか相手の間抜けに助けられて勝っちまったな……」
それを見てユーラ。
「感慨に浸ってる場合じゃないッス! 早くヴィトーのとこ行かないと……! かなり離れちゃったッスよ! 多分コレ相手の思惑通りの展開ッスよ!! 全然してやられてるッスよ!!」
そしてサープ。
そんな声を受けてハッとしたユーラは手綱をしっかりと握り……そうして二人はヴィトーの下へと向かうため、恵獣達に指示を出し……雪煙を猛然と上げながら、北へと突き進んでいくのだった。
お読み頂きありがとうございました
次回はこの続き、ヴィトーVS魔王です






