再びの
グラディス達の長い足が雪をかき分けて森の中を北へ北へと進んでいって……罠や鳴子がある辺りでは一切魔獣と出会うことがなかった。
瘴気ももちろんなく、浄化は維持されていて……ここまで来ると村の北部の開拓はほぼ完了したと言って良いだろう。
あとはサウナを増やし、拠点となる場所を増やし……次へと進むための準備をする訳だけど、そちらもまた順調に進んでいる。
天然洞窟を利用したサウナと、ログハウスのようなサウナと、村人達が日々建設を進めてくれていて……北に進んでいると建設中の様子も眺めることが出来る。
雪が溶け春になれば村は北寄りに移動することになっていて……もっともっと浄化と開拓を進めていけば、移動先の選択肢が増えることになり、それによって多くの餌場や資材を得られることになり……皆の暮らしがより豊かになっていくことだろう。
そのためにも狩りを頑張らないとな……と、気合を入れて更に進んで、そしてこの先はまだ浄化が済んでいないことを示す、木と木の間に張ったロープに布を下げてあるという目印を越えて更に北へと進む。
すると休憩用の開けた一帯、外出用テントのラーボを張るにちょうど良い場所が視界に入り、そこで一旦休憩をすることにする。
ラーボを張り鞍から荷物をおろし、拠点構築が終わったならグラディス達に休憩を兼ねた食事タイムをとってもらい……俺達は武器の手入れをし。
そうして……大体午後3時とか、そのくらいの時間になったなら、明日の狩りのための偵察を行う。
俺とユーラは拠点の近くを、偵察が得意なサープは遠くを。
恵獣は使わず、己の足で気配を消しながら見回って……と、慎重に足を進めていると、俺とユーラはまさかと思うような光景を目にすることになる。
熊型魔獣が二、鱗魔獣が三という、いつかに見た魔獣のチーム……というかパーティがまた森の中を闊歩していたのだ。
……以前のアレは威力偵察だと思っていたのだけど、今回のこれは一体何が狙いなのか? また偵察? それとも……? と、あれこれと考えながら俺達は魔獣達の進行方向を確認した上で、その場を後にする。
そのまま戦っても……まぁ、勝てたのだろうけど、今ここで無理をする必要はない。
グラディス達と合流し、サープと合流し……しっかり狩りの支度を整えてからの方が良いはず。
そういう訳で気配を消したまま拠点に戻るとサープも戻ってきていて……お互い情報交換をする。
まずこちらが見た魔獣パーティについて話し、そしてサープもまたサープが見たという魔獣パーティについてを話してくれる。
連中はどうやら南下しているらしい……浄化済みの一帯や俺達の村を目指しているらしい。
……そしてそのパーティは複数いるようで、情報交換が終わったなら俺達はすぐに休憩から戻ってきたグラディス達に跨り、狩りの準備を整える。
「一応盾も用意していこう……盾と強化された銃があればあの程度の相手はなんとか出来ると思う。
……だから俺は一人でも問題ないけど、ユーラとサープはどうする?」
そして俺がそう声をかけると、ユーラとサープは腕を組んで「うぅん」と悩んでから声を返してくる。
「オレ様も一人で良いっちゃ良いんだが……そうすると投槍が出来なくなるのがな。
シェフィ様と一緒にいる必要があるってのがなぁ……」
「自分も同じ意見ッス、まぁ投槍なくてもなんとかなる相手だとは思うんスけど……アレで全部とも思えないのが怖いところッスね。
絶対以前と同じような偵察じゃなくて、何か考えあっての行軍だと思うんスよねぇ……」
『じゃぁあの二人に頼んでみるよ』
ユーラ達の発言の直後、俺達の上空に浮かんでいたシェフィがそう声を上げて……目を閉じたシェフィが『むむむ』なんてことを言いながらそのふわふわの体をよじると、シェフィの左右の空中にポンッとの音と共に煙が発生し、その煙の中から炎の精霊ドラーと、風の精霊ウィニアが現れる。
『よっし、このドラー様がユーラについていってやるよ!』
『じゃぁこっちはサープだね……よろしく……』
「あ、ドラー達でも工房使えるんだ……」
ドラーとウィニアの後に続く形で俺がそう声を上げると、精霊達はこくりと頷いて……そしてドラーはユーラの頭に、ウィニアはサープの頭にしがみつく。
そしてシェフィは俺の頭にしがみついて……それで準備完了、俺達はいくらかの話し合いを終えてから、それぞれの標的の方向へと足を進める。
俺はさっき見つけた魔獣パーティの下へ、ユーラがサープが見つけたうちの一つ、サープがもう一つ。
今回の目標はとりあえず見つけた魔獣の全滅で、更に現れたならそれも倒そうとなり、ここで一晩泊まるつもりなので時間制限はなし、最悪徹夜となっても良いとの覚悟でもって、それぞれ武器を握る手に力を入れる。
そしてもし手に負えないような状況になったり、魔獣が出てきたりしたら、どこで合流するとか、どういうルートで撤退するとか、ここにある崖を利用しようとか、地形を上手く利用するつもりで地理を把握しようと、しっかりと地図の確認もしておいた。
これで準備は万端。
「グラディス、大変だろうけど今日はよろしく頼むよ」
首を撫でてやりながらそう声をかけ、それから指示を出してグラディスには早足での移動をしてもらい、先程の魔獣達の下へと近付き……ある程度近付いたなら盾は手放し、鞍に引っ掛けておいてから銃弾を装填。
装填が終わったなら改良された猟銃、射程も威力もついでに反動も強くなったそれをしっかりと構える。
銃床を肩に当てつつも、顔は上げたままで視界を広く取り……そうして魔獣パーティが視界に入ったなら、多少距離が遠くても構わない、狙いをつけて引き金を引く。
まずは鱗魔獣を狙い一発。
命中したのを確認してからもう一体の鱗魔獣に一発。
これまた命中……うん、かなり撃ちやすいなと、銃の改良とレベルアップの効果を噛み締めながら銃弾を装填し、最後の鱗魔獣も倒してしまう。
そしてもう一発は熊型魔獣に……今回も命中、そして銃弾の装填作業に取り掛かると、最後の一体となった熊型魔獣がこちらに物凄い勢いで迫ってきて……グラディスに駆けてもらい、迫ってきた分だけ距離を取ってもらいながら装填を完了させ……最後の一発。
またも命中、頭に弾丸を食らった熊型魔獣はゆっくり崩れ落ち……俺は周囲に視線を巡らせ、他に魔獣がいないかしっかり確認してから1発分の装填を行い……それからため息を吐き出し、戦闘終了の合図とする。
「……何がしたかったんだろうなぁ……この編成は以前倒しただろうに……。
それと同じ編成を何組も作って南下させる意図とは……?
まさか二度目の威力偵察ではないだろうし、侵攻にしては戦力が心許ない……特に俺達の村には俺がいて猟銃があることは、流石にそろそろ魔獣達にも浸透していそうだし……うぅん、本当に何が狙いなのやら……」
そしてそんな声を上げると、頭にしがみついて様子を見守っていたシェフィが言葉を返してくる。
『ヴィトー達の強さを知った上で、何か対策しようとしてるなら……考えられるのは二つかな。
一つは足止め、雑魚でここに引き止めてその間に村を襲おうとしてるとか?
ただこの先には罠や鳴子がこれでもかとあって、魔獣達もそれに気付いているだろうから……あまり効果的じゃなさそうだよねぇ。
ヴィトーが強いからヴィトーを避けるっていうのは分かるんだけどね……。
そしてもう一つは囮、雑魚を用意してヴィトー達に倒してもらって……そうやってヴィトー達の位置を把握しようとしている、とか。
奇襲とか罠とか……色々やってきそうではあるよね、どんな手を使ってでも厄介なヴィトーさえ倒してしまえば……と、考えるのは普通のことだろうし』
と、シェフィがそう言った瞬間、木々の間から黒い影がにゅうっと現れて……今しがた銃弾を受けて倒れた魔獣達の死体を踏み潰していく。
その黒い影は大きく力強く、悍ましく……腕が四本あり、顔が醜悪に歪み、そして腹に装甲のような何か……皮なのかコブなのか、とにかくそんなものを貼り付けた熊型魔獣で、それを見た瞬間、俺は声を上げることになる。
「魔王!?」
かなり姿が変わっているが、恐らく元はあの魔王なのだろう。
以前戦った化け物、別格の魔獣、魔獣の王のような存在……魔王。
どうやらこの魔獣パーティの目的はシェフィのいった通り囮……魔王に俺達の位置を知らせるための存在のようで、そうして魔王と相対することになった俺は、覚悟を決めて猟銃を構えて狙いを定め、引き金を静かに……闇夜に降る霜の如くそっと引くのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回はVS魔王やら何やらです
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