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転生先は北の辺境でしたが精霊のおかげでけっこう快適です ~楽園目指して狩猟、開拓ときどきサウナ♨~  作者: ふーろう/風楼
第三章

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出発準備



「良いですかサープ、しっかり真面目に狩りをしてくるんですよ」


 アーリヒがそう声を上げると、背筋を伸ばしカチコチに体を固めたサープが「はい!」と震える声での返事をする。


 サウナ……近辺でのイチャつき、それが露呈してサープはアーリヒからのお説教を受けていた。


 そこまで厳しい内容ではなかったようだが……以前、そういったあれこれで滅んだ村があるとかで、お説教ついでにそこら辺の話をされたサープは、それなりに恐れ入って縮み上がってしまっているようだ。


 ……かつて、どこかにあった村では、サウナ内でのそういった行為を容認していたらしい。

 

 それはそういった行為を好む族長の判断だったようだが……当然、村の中には眉をひそめる者もいた。

 

 そんな中、村の中で病気が流行し、その病気にかかったのはサウナでよからぬ行為をしていた者達が中心で……そのことに気付いた村人達は行為そのものではなく、サウナを恐れ忌避するようになってしまった。


 話を聞くに恐らくそれは性病の類だったと思われるが、その辺りの知識がなかった村人達はサウナに入ると病気になると思い込んでしまい……そこに付け込んで眉をひそめていた者達が更にその恐怖を煽り始めたらしい。


 サウナに入るな、サウナには悪霊がついている、行為のせいで呪われた……サウナを禁止すべきだ。


 そこまで行くとやり過ぎというか暴走してしまっている感があるが、当事者達はそうは思わなかったようで……結果、かなりの数の村人がサウナに入らなくなり、別の病気などを引き起こしてしまった。


 体を洗わない不潔さや、体を温めないことによる弊害や、血行とか血管に関わるあれやこれやで一気に村の人口が減ってしまい……何人かは他所の村に逃れようとしたが、病で滅ぼうとしている村の住人を受け入れる村はなく、そのままその村は消滅してしまったらしい。


 行為が悪かったのか、禁止令が悪かったのか……風紀の乱れを正さなかったのが悪かったのか。


 まぁー、その全てが悪かったということなのだろうなぁ。


 何もかも厳しくするのもどうかとは思うが、引き締めるべき所はしっかり引き締めるべきで……今サープはきっちりと引き締められているという訳だ。


 そんなサープの名誉回復のため、結婚のため俺とユーラも一緒に狩りに出ることになっている。


 俺はグラディスに跨り、装備は猟銃と銃剣、当然グラディスも角などの装備をしっかりしている。


 ユーラはジャルアに跨り、装備は精霊工房産の槍、ジャルアにも工房で作ってもらった、グラディスがしている伝統的装備の模倣品を装備させている。


 サープはスイネに跨り、ユーラと同じ装備、スイネもジャルアと同じ装備をさせている。


 それと……ユーラとサープの腰にはもう一つ、俺が思いつきで提案した武器? というか道具がぶら下がっている。


 それは投槍器……工房ではなく自分達で木材を加工して作ったアトラトルというものだ。


 木の棒を削って槍を置きやすく、受け皿のような形状にし、その末端に槍の石突を引っ掛けるための突起を作ったら完成。


 あとはその受け皿に槍を置き、突起にしっかりと石突を引っ掛けたら、それを持って力強く振り回すことで槍を投擲……テコの原理で強い力がかかった槍は凄まじい勢いでもって、かなりの遠距離まで飛ぶ……という道具だ。


 この投槍器は、世界中を旅するテレビ番組で見かけたものだけど、オリンピック選手のやり投げ記録が大体98mなのに対し、特に鍛えていない素人がこれを使えば130mも飛んでしまうという、とんでもない代物だったりする。


 しっかり体を鍛えている上に精霊の加護を受けたユーラとサープなら、更に遠くまで飛ばせるはずで……厄介な魔獣が現れた時の保険としては中々のものだろう。


 何しろ材料は木材でよく、そこまでかさばらず重いということもなく……それでも邪魔になったなら捨てれば良いと、なんとも気安いアイテムだ。


 槍を投げてしまうと武器がなくなるという欠点はあるものの……そこら辺の解決策もしっかりと用意している。


『ボクも手伝うから、しっかり頑張るんだよ、サープ』


 と、そんな声を上げたシェフィがその解決策だ。


 槍を投げて失ったなら工房で作ってもらえば良い、何だったら作り置きしてもらっておいて、必要になったなら即座に工房から取り出してもらう、なんて手を使っても良い。


 普段から俺の猟銃や弾丸を預けている訳で……それと同じことだろ? と、お願いしたらシェフィはあっさりと快諾してくれた。


 もちろん槍の作成代金……ポイントは相応にかかったけども、槍それ自体は高額なものでもないし、便利さを思えばその程度のポイントあってないようなものだろう。


 また最近では村の近くでは魔獣を見かけなくなってきたため、外泊セットや外泊用テントのラーボ、相応の食料も用意していて……それらも工房に預けてある。


 もはや工房というか預かり所みたいになっているけど、当のシェフィが『全然おっけー!』と軽い調子で承諾してくれているので問題はないのだろう。


 そんな訳で準備は万端、恵獣達用の水や砂糖、岩塩なんかも用意してあるし……何日か外泊することになっても全く問題なしだ。


「ユーラも……ヴィトーも頑張ってきてくださいね」


 足をジタバタとさせて自分も連れていけと抵抗をするグスタフのことを抱きかかえながら、アーリヒがそう声をかけてきて……騎乗したユーラと俺は同時に頷く。


「また皆でお腹いっぱい新鮮なお肉を食べたいからね、頑張ってくるよ」


「オレもベアーテとの結婚があるからな、たくさん狩って良いとこ見せねぇとな!!」


 そしてそう声を上げてから、手綱を振るい恵獣達に指示を出す。


 それから俺達は北の森の中へと向かい……意気揚々と狩りに向かうのだった。



――――同じ頃、どこかの森で



 ヴィトー達が狩りに出たのと同じ頃、森の中に潜むそれも動き出していた。


 大型の熊型魔獣、ヴィトーが魔王と呼ぶそれは、いくどかの威力偵察を経て計画を練り……それを今実行に移そうとしていた。


 ヴィトー達が遭遇した威力偵察は一度のみだったが、魔王は何度も何度もそれを行っており……それらは他のシャミ・ノーマの村への攻撃を成功させていた。


 大した被害は出せなかったが、奇襲からの村への侵入、コタの破壊にも成功していて……それらを元に魔王は更に計画を練り上げ、完成度の高いものにしていた。


 これならば連中に勝てる、自分に手傷を負わせた卑怯極まる連中への復讐が成る。


 屈辱を晴らし、これ以上ない達成感と戦果を得て……それにとっての魔王、魔獣にとっての最上位存在からの覚えもめでたくなることだろう。


 ……本当に連中は卑怯だ、自らの力ではなく精霊なる訳の分からない存在の力を借りて、その力でもって好き勝手に暴れまわっている。


 卑怯とか狡いとか、そんな言葉では言い表せない程に醜悪で……それらを倒すというのは正しい行い、この世界を正す行いであるとも言えた。


 実際には彼ら魔獣こそが醜悪な方法で世界を歪めており、精霊の力が発現したのはそれを正すための揺り戻しのようなものだったのだが、彼らがそれに気付くことはなく、ただただ憎しみだけを強めていく。


 そして……魔王は己の寿命を削り、誇りを売り払い、あらゆる手法でもって集めに集めた多くの魔獣達に指示を出し……ヴィトー達同時に南へと向かって駆け出すのだった。


お読みいただきありがとうございました。


次回はこの続き……狩りの開始となります。

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