ビスカの条件
サープの愛の突撃を見送り……さて、狩りに行こうかと厩舎に足を向ける。
『あ、追いかけたりしないんだ?』
するとどこからともなくシェフィがやってきて、そんな声をかけてくる。
「いや、追いかけてどうするのさ……何をしてもしなくても邪魔になるだけじゃないか。
結果を聞けたらそれでよし、余計な口出しも手出しもするつもりはないよ」
『そっかそっか、まぁ~上手くいくといいよね~、ビスカちゃんにとってもきっと良い縁になるはずさ』
と、そう言ってシェフィは俺の肩に座り、ふんふんと鼻歌を歌い始める。
そんなシェフィに俺は言葉を返そうかとも思ったけども、まぁ良いかと足を進めて、厩舎に到着したならグラディスとグスタフに挨拶をし、撫で回してから装備を装着させる。
それが終わったらシェフィから銃を受け取り、弾の確認をし……と、いつものルーティンをこなしていく。
それから狩りに出て……結果はそれなりというものだった。
村の周囲の浄化は済んでいて魔獣の姿はない、普通の獣はいるのでそちらを狩れるが……まだまだ数が少ない上に警戒心が強く、すぐに逃げてしまう。
遠方まで行けば魔獣がいるが、そこまで行って狩りもするとなると日帰りでは難しく、これ以上遠くに行こうと思ったらどこかで一泊する必要があるだろう。
これからの狩りはそうやって腰を据えてやることになるのかもなぁ……なんてことを考えながら狩りの成果、熊二頭をグラディスに引いてもらって村へと運ぶ。
村に入って男衆に熊を引き渡していると、サープとビスカの姿が視界に入り……2人はなんとも妙なことになっていた。
サープは必死に話しかけている、身振り手振り交えて必死なナンパ男といった感じだ。
それを受けてビスカさんは何故か真顔、嫌がるとか照れるとかじゃなく真顔。
そうやって何かを考えているようで……まぁ、ビスカさんの立場で考えるとそうやって真剣に頭を悩ませるのも当然のことだろう。
サープどうこうじゃなく、ビスカさんは沼地の出身で、沼地の人間で……それがこちらの男とくっつくというのは色々と覚悟のいることなのだろう。
その上、サープとそれ程親しくないと言うか、まだサープがどんな人物なのかも知らないはずで……そりゃぁ真顔にもなるというものだ。
あの様子だとまだまだ時間がかかりそうなので、声はかけず厩舎に向かい、まずはグラディス達の装備を外す。
それからブラッシングをして労い、十分な白湯と砂糖と岩塩を用意してあげて……それからサウナに向かう。
そこで狩りの汚れを落とし、じっくり体を温めてととのい……それから村に戻ると、さっきとほぼ変わらない様子のサープ達の姿が視界に入る。
「えぇ……まだやっているんだ……」
『お~~、やる気も愛も山盛りって感じだね』
俺が声を上げるとシェフィがそう続き……やる気はまだしも愛があってのことかなぁ? なんてことを思ってしまう。
恋心はあるのかもしれないけども……と、そんなことを考えているとビスカさんが動き、真顔のままサープに何かを告げる。
サープは静かにそれを聞いている、聞きながらうんうんと何度も頷き、それが終わるとビスカさんはどこかへと歩き去っていく。
そしてサープはしばらくの間、頷きながら自分の手を見つめ続け……それを終えて顔を上げると、こちらに気付いてすぐさま駆け寄ってくる。
「ヴィトー! とりあえず前進したッスよ!」
そう言ってサープは何があったかを報告してくれて……それを要約すると大体こんなものだった。
ビスカさんとしてはサープに対し悪い気持ちはない。
……が、ほぼほぼ初対面のようなものなので結論を出すことができない。
なのでこれからゆっくり距離を縮めていって、それで気持ちが動けばサープのことを受け入れたいが、ビスカさんには他にも色々と不安がある。
このままここで暮らしていくのも良いと思っているが、本当にそれが正解なのか?
このまま村で暮らしていくとして、自分はどれだけ村の役に立てるのか?
この村での恋愛や結婚はどういう文化なのか?
それで自分は幸せになれるのだろうか?
旦那としてのサープの器はどれくらいのものなのか?
などなど。
尽きない不安があって、色々と思い悩んでしまって……それであんな真顔となっていたようだ。
……それもまぁ当然のこと、この村に来たのはあくまで学術的な興味だったはずで、色恋どうこうは頭の片隅にもなかったはず。
それがこの村で暮らすことになり、少し慣れてきた所で恋愛どうこうとなったら……尚のこと受け入れがたいというか、不安に思ってしまうのだろう。
「―――でまぁ、これから少しずつ仲を深めて行くことになったんスけど、それと同時に試練というか本当に恋人や夫に相応しいのか、試したいってことになったんスよ。
ビスカさんがいくつか条件を出して、それを達成したら……みたいな感じで、そういう訳で自分はこれからしばらく、それにかかりきりになるッス」
そう言って説明を終えたサープにオレは、腕を組んで「ふぅむ」と声を上げてから言葉を返す。
「……なるほど。まぁビスカさんの意見も分かるって感じだねぇ。
ちなみに、どんな条件を出されたの?」
「一つ、狩りの成果を見せて欲しい、ちゃんと男として家族を養えるのか見せてくれってことッス。
二つ、ビスカさんのための贈り物を用意して欲しい、気持ちのこもったものを……ってことッス。
三つ、サウナが大好きでよく入るのだけど、髪が痛み気味で頭がのぼせることもあるので、何か解決法を考えて欲しい。
四つ、これが最後で精霊様の許可を取ってきて欲しい……この村で暮らす以上は精霊様の許可が必要だと考えているようで、交際や結婚をして良いのか、ちゃんと許可を取った上で……ってことッス」
「……なる、ほど。
一つ目と二つ目はまぁ……特に言うこともない感じだねぇ、全てはサープの頑張り次第って感じで。
四つ目は……まぁ、シェフィ達なら反対しないかな。
そして三つ目……まぁ、これもなんとかはなるのかな? 一つ思い当たる解決法があるし……」
と、俺がそう言うとサープはその目を見開き輝かせ……それから俺の手を取ってその解決法は!? と、表情でもって語りかけてくる。
それを受けて俺は……少し前から作ろうかと悩んでいたあるものについてを、サープに語り聞かせるのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回はこの続き、頑張るサープ君です






