再挑戦
ユーラとベアーテさんから事情を聞こうとした……のだけども、ベアーテさんは休憩をしたいとかでアーリヒ達と一緒に去っていき、残ったユーラから話を聞くことになった。
「っても、わざわざ話すような内容でもねぇんだがな……。
ベアーテと結婚したければ勝ってみせろと言われて向かい合ったんだが……ベアーテさんは女だろ? その上、これから結婚しようって相手だ、どうにも手を出しにくくてなぁ……。
そんでまぁ……手を出すのは止めて、ベアーテの攻撃を防ぎ切ることで勝てないかとやってみたんだが、このざまって訳だな。
避けようとしても防ごうとしても、拳がガンガン顔に当たってきて……だけどもオレが倒れる程でもなくて、んでまぁ、このままやっても決着しないってんで一旦中断ってことになったんだ」
……なるほど。
勝負をしようとしたものの、いざ向き合った所で躊躇してしまったと……。
まぁ、気持ちは分かるしユーラらしいし、仕方ないことなのかもしれないなぁ。
なんてことを考えてからユーラの方を見やると、なんとも居心地悪そうにしていて……そんなユーラの肩に手を置いて軽く揺らし、元気を出せと伝えてから口を開く。
「まー、失敗とかこれでお断りとかじゃなく中断なんでしょ?
なら次の機会があるってことだし、そこまで落ち込む必要はないんじゃないかな。
……わざわざ次の機会をくれたってことは、ユーラのことを気に入ってくれたのかもしれないしねぇ。
……だから今考えるべきは、ベアーテさんにどうアピールするか、じゃないかな。
直接やり合うのが難しくても、強さをアピールする方法はいくらでもあるでしょ? たとえば狩りの成果を見せるとか」
「確かに、ヴィトーの言う通りッス。
レベルアップと最近の経験のおかげで、ユーラも立派な狩人っすからねぇ、認めてもらえる程の成果を上げれば、きっと良い反応をもらえると思うッスよ」
反対側の肩を持ったサープもそう続き、それを受けて元気付けられたらしいユーラは、顔を上げ良い表情となり……そして拳をぐっと握ってやる気を見せてくる。
「それじゃぁ早速狩りにいく? 俺もサープも手伝うし、今から行けば明日には―――」
やる気を見せるユーラにそんな声をかけていると、ユーラはこちらに真っ直ぐな視線だけを返してきて……その必要はないと伝えてくる。
「……いや、気持ちは分かるけども、一人じゃ危ないんじゃないか? 比較的安全な近場は浄化が終わってもう魔獣はいない訳で……いや、ヘラジカとか普通の獣でも良いのかもしれないけども……」
そう俺が言葉を続けるとユーラは、
「いや、それでも一人で行く。
精霊様の加護をもらっておいて、こんな大事な時に一人で狩りを出来ないじゃ話にならないだろ? ま……無駄に命をかけるような真似はしないから安心してくれ。
もし一人で狩りに失敗したり大した成果を上げらなかったりするようなら、そもそも家庭を持つには未熟ってことでもあるしな……ヴィトー達は村で待っててくれよ」
と、そう言って強い態度と表情でもって、俺達に同意を求めてくる。
「……ユーラがそこまで言うのなら」
「これ以上止めても仕方ないッスね」
『うんうん、ユーラは心が強い良い子だねぇ。
……よし、これはボク達からの餞別だよ、これで成果を上げておいで』
俺とサープに続いてシェフィがそんな声を上げ……そしていつものモヤから何かを引っ張り出す。
それはどうやら特別製の槍であるらしかった。
柄が黒く、穂先が銀色……鉄製という訳ではないけども、金属に近い何かで作られているようだ。
それをユーラに受け取るようシェフィが促すと、ユーラは恐る恐るというか、緊張しながら手を伸ばし……かなり重いらしいその槍をしっかりと握り、構えてみせる。
『ヴィトーがためこんだポイントで試作した槍でね、かなり頑丈だし、頑丈さの割には軽いしで使いやすいと思うよ。
まー……木の柄よりは重いかもしれないけど、そこは我慢してもらうしかないかな。
レベルアップで筋力も強化されているし、なんとかなるでしょ?』
それはまた……とんでもない発言だった。
俺が溜め込んだポイントで『勝手に』試作した槍を『勝手に』ユーラにあげてしまったらしい。
いやまぁ……わざわざ試作したということは、そうする必要があったんだろうし、ユーラに良い槍を使ってもらって困ることはないし、今回の話も上手くいって欲しいと思っているので、問題ないと言えばないのだけど……一言くらいは欲しかったかなぁ。
まぁー……そもそも工房であれこれしてくれているのはシェフィ達の善意からのことだし、文句を言える立場ではないから言葉にはしないけども……というか、わざわざ試作をした理由も気になる。
シェフィなりにそうしようと思う何かがあったのだろうか? 何か危険が迫っているとか……?
『いやー、夜ふと思いついてこんなの作ったら面白いかなって作ってみたんだけど、悪くない感じだね。
もし余裕があればこれを量産して、村の皆に使ってもらうってのもありかもね~~~、きっと狩りの成果が様変わりするよ』
……違った、ただの思いつきだった。
そんなシェフィのセリフにまたも色々言いたくなるが……ぐっと堪えて、ユーラを応援しようとそちらに意識を切り替える。
「……良かったね、ユーラ。
その……精霊の槍、かな? 精霊の槍で魔獣を狩りまくればきっとベアーテさんも認めてくれるはずさ。
狩り自体は手伝えないけど、運搬とかはグラディスと一緒に手伝うから、狩りまくっておいでよ」
「もちろん自分も手伝うッスよ。
恵獣持ちが3人揃えば、10でも20でもそれ以上でも、楽々運べるってもんスよ!」
俺とサープがそう声をかけるとユーラは「ありがとう」と、そう言いながら槍を肩に担ぎ……早速狩りに向かうのか、厩舎の方へと足を進める。
そこで恵獣と合流し、村を出て浄化した地帯を出て、魔獣を狩りに行くのだろう。
今日まで一緒に頑張ってきたユーラを、ただ見送ることしか出来ないのはなんとも歯がゆかったけども……それでもぐっと堪えてしっかりと見送り、ユーラの背中が見えなくなったなら、俺とサープも仕事をしようと動き出す。
ユーラが山程の魔獣を狩っても良いように、丸一日運搬で潰れてしまっても良いように、今のうちに出来ることしておこうと、家事やら鍛錬やら懸命に働く。
そうして真昼を少し過ぎた頃、村の外に出かけていた若者の一人が村の中へと駆け込んできて、こんな声を張り上げた。
「北の方で狼煙が上がったぞ! 狩りの成功を知らせる狼煙だ! わざわざ狼煙を上げたってことは、なんか困ってることがあるんだろう、今から皆で迎えに行くぞ!」
その狼煙の主はユーラに違いなく……すぐさま俺とサープは支度をして、ユーラを迎えに行く一団の中に入れてもらうのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回はこの続き、狩りの結果についてになります






